「鼻を高くしたい」「鼻筋をスッと通したい」
そう思ったとき、いまの美容医療でいちばん手軽に選ばれやすいのは、やはりヒアルロン酸注入だと思います。
メスを使わず、数分で変化が出る。ダウンタイムもほぼない。
美容医療の“入口”として、ヒアルロン酸が優れた治療であることは間違いありません。
ただ、僕が日々“鼻の修正相談”を診ていると、一定のパターンで増えてくる悩みがあります。
- 「最初はよかったのに、繰り返すほど鼻筋が太くなってきた」
- 「高さはあるはずなのに、横顔がなぜか垢抜けない」
- 「なんとなく顔全体が平面的に見える」
- 「写真を撮ると、鼻筋の輪郭だけがぼやっとして見える」
もし今、鏡を見てそう感じているなら、それはヒアルロン酸という「素材」の限界かもしれません。 本当に美しい鼻、洗練された横顔を作るために必要なのは、単にボリュームを足すことではなく、皮膚を内側から持ち上げるしっかりとした「骨格(フレーム)」だからです。
今回は、ヒアルロン酸から卒業して、自分の「肋軟骨」を使って鼻を根本から作り直す手術について、僕の考えをお話しします。
なぜ、ヒアルロン酸だと鼻筋が太くなるのか
どうしてヒアルロン酸を繰り返すと、理想の形から離れていってしまうのか。 理由はシンプルで、素材の「硬さ」の問題です。
「ジェル」では鋭角なラインは作れない
ヒアルロン酸は、どれだけ硬い種類のものを使っても、結局は「ジェル(液体)」です。 注入した直後は良くても、皮膚が元に戻ろうとする力(張力)に押されて、どうしても圧力の低い横方向へ逃げていってしまいます。
これが、いわゆる「アバター鼻」(鼻の付け根が太く広がった状態)になる原因です。 鼻筋に欲しいのは、光が細く走るような鋭いラインですが、ジェルで鋭い三角形を作るのは物理的に無理があります。どうしても山なりの、なだらかな形になってしまうんです。
「柱」がないとテントは張れない
きれいな鼻筋を作るには、皮膚の圧力に負けない「硬い素材」が必要です。 キャンプのテントをイメージしてもらうと分かりやすいんですが、中に空気を入れて膨らませても、全体が丸く膨らむだけで、頂点は尖りませんよね。 でも、中に一本「ポール(柱)」を立てれば、頂点がグッと持ち上がって、きれいな稜線ができます。
鼻の整形もこれと全く同じ原理です。 ジェルで内側から膨らませるのではなく、軟骨という「柱」で構造を作る。 これこそが、手術でしか出せないシャープなラインを生み出す唯一の方法なのです。
異物に頼らない隆鼻術──細片軟骨移植が強い理由
手術で鼻を高くする場合、一般的には「シリコンプロテーゼ」が広く使われています。 シリコンプロテーゼを使えば手術時間も短く済みますし、形も整いやすいというメリットがあります。
しかし、僕は「自家組織(自分の体から採った軟骨)」にこだわった隆鼻術を推奨しています。 一生モノの鼻を作る上で、異物を体に入れないという安心感に勝るものはないと考えるからです。
特に、今回ご紹介する症例で用いたのは、「鼻背細片軟骨移植」、と呼ばれる手法です。
肋軟骨を「刻んで」使う理由
鼻中隔延長術などで採取した「肋軟骨」は、体の中で最も硬く、量も豊富な優れた素材です。 しかし、肋軟骨には一つだけ欠点があります。それは「ワーピング(湾曲)現象」です。 肋軟骨は元々胸郭のカーブに沿って曲がっているため、真っ直ぐに加工して鼻に入れても、術後数ヶ月〜数年かけて、元のカーブに戻ろうとして曲がってしまうリスクがあるのです。
このリスクを避けるために僕が行っているのが、「細片軟骨移植」です。 採取した肋軟骨を、専用の器具で1ミリ以下のサイコロ状(ダイス状)に細かく刻みます。 軟骨を細かく刻むことで、軟骨内部の繊維や張力が断ち切られるため、物理的に「曲がりようがない状態」になります。
オーダーメイドで「ライン」を描く
細かく刻んだ軟骨には、プロテーゼのような『決まった形』がありません。 だからこそ、骨格のカーブに合わせて、必要な場所に、必要な量だけを繊細に移植して形を作ることができます。
- 眉間:自然な立ち上がりが欲しい
- 鼻筋:スッと通った細いラインにしたい
このように、患者様一人ひとりの元の骨格に合わせて、ミクロ単位で厚みを調整しながら理想のラインを作っていきます。 これは、シリコンプロテーゼでは決して真似できない、完全なるオーダーメイドの形成です。
また、自身の組織であるため、皮膚が薄くなって透けたり、感染を起こしたりといった長期的なトラブルのリスクも極限まで抑えることができます。 触り心地も、異物特有の硬さはなく、本来の骨や軟骨に近い、非常に自然な感触に仕上がります。触り心地も、異物特有の硬さはなく、本来の骨や軟骨に近い、非常に自然な感触に仕上がります。
実際の症例:ヒアルロン酸からの卒業と構造再建
実際にヒアルロン酸注入を繰り返した後に、手術による構造再建を行った患者様の経過をご紹介します。
この症例は、単に「鼻を高くした」だけではありません。 「なぜ、鼻が低く見えていたのか」という原因を骨格レベルで分析し、複合的なアプローチで解決した一例です。

症例プロフィールと診断
- お悩み
- 元々鼻筋から鼻先までヒアルロン酸を入れていたが、繰り返すうちに形が崩れてきた。
- 不自然な「整形顔」にはなりたくないが、しっかりとした変化は欲しい。
- 僕の診断:2つの問題点
診察の結果、この患者様には大きく分けて2つの構造的な問題がありました。- 鼻尖・鼻背の支持力不足: 元の軟骨が小さく柔らかいため、ヒアルロン酸の重さを支えきれず、鼻先が潰れたような形になっていました。
- 中顔面の陥没(土台の後退): ここが非常に重要なポイントです。 ご本人は気づいていらっしゃいませんでしたが、鼻の土台である「中顔面」が陥没していました。このため、いくら鼻先だけを高くしても鼻の根元が埋もれたままで、相対的に口元が前に突き出して見えてしまっていたのです。
実施した施術内容
この2つの問題を解決するために、以下のプランを設計しました。
- 鼻中隔延長術(肋軟骨): 鼻先に強固な支柱を立て、高さと角度を調整。
- 鼻背細片軟骨移植(隆鼻術): ヒアルロン酸を全て溶解し、代わりに細かく刻んだ肋軟骨で、眉間から鼻先へ続く繊細でシャープなラインを形成。
- 猫貴族手術: 陥没している小鼻の付け根(鼻翼基部)、鼻の付け根(鼻柱基部)を持ち上げ、土台の位置を前方に移動させる。
術後の変化

まず、正面からの変化をご覧ください。 術前(左)は、ヒアルロン酸の影響で鼻筋がやや太く、輪郭が少しボヤけた印象でした。 術後(右)では、細片軟骨によって眉間から鼻先にかけての「ノーズライン」がスッと通り、顔の中心に鮮明なハイライトが生まれています。 無理に高くしたような違和感(整形感)はなく、まるで元から整っていたかのような「自然な骨格美」が形成されているのがお分かりいただけると思います。
中顔面の陥没改善と横顔のバランス


次に、横顔と斜めからの変化です。 ここで注目していただきたいのは、鼻筋の美しさはもちろんのこと、「鼻の土台(中顔面)」と「口元」のバランスの変化です。
術前の横顔を見ると、鼻の付け根が顔の奥の方に位置しているため、相対的に唇が前に出ているように見えていました。これが、診断でお話しした「中顔面の陥没」による影響です。
術後は、細片軟骨によって眉間から鼻先まで滑らかなカーブが描かれています。 さらに、「猫貴族手術」によって中顔面(土台)が前方に持ち上がったことで、口元の突出感が軽減され、Eライン(鼻先と顎を結ぶライン)が美しく整いました。
鼻だけを高くするのではなく、土台の位置関係まで整える。 そうすることで初めて、お顔全体に調和した洗練された横顔が生まれます。これが、単なるパーツ整形を超えた、構造再建アプローチの真価です。
おわりに
「不自然にはなりたくないけれど、ちゃんと変化は欲しい」
この切実な願いを叶えるために必要なのは、注入剤の量を増やすことでも、ただ高いプロテーゼを入れることでもありません。 ご自身の骨格(土台)がどうなっているのかを見極め、足りない部分を適切な素材(軟骨)で補い、正しい構造を組み立て直すことです。
ヒアルロン酸は手軽で素晴らしい治療ですが、あくまで一時的なものです。 もしあなたが、繰り返す注入治療に限界を感じていたり、自分の鼻がもっと美しくなる可能性を知りたいと思っているなら、ぜひ一度ご相談ください。
当院では、CT検査を含めた詳細な診断を行い、あなたの骨格に最適な「一生モノの鼻」をご提案させていただきます。





