豊胸手術をすると乳がん検診が受けられない?医師が教える正しい知識と安心ポイント

豊胸をすると乳がん検診が受けられないって本当?

「豊胸をしたら乳がん検診が受けられない」「マンモグラフィでバッグが破裂する」──そんな話を耳にして、不安に感じる方は少なくありません。
ですが、これは正しくは“誤解”です。

豊胸手術を受けた方でも、乳がん検診はきちんと受けることができます。
大切なのは、検査を行う医療機関が「インプラント対応」の設備や知識を持っているかどうか、そして受ける側が「豊胸をしている」ことを事前に伝えることです。

乳がんは日本人女性の9人に1人が一生のうちに経験する可能性がある病気です。
美容医療を受けたからといって検診を諦めてしまうのは、非常にもったいないこと。
美しく整えるための手術と、健康を守るための検診は、両立することができます。


豊胸手術の種類と、乳腺への影響の違い

一口に「豊胸」といっても、その方法はいくつかあります。
それぞれの特徴を知っておくと、検診時の注意点が理解しやすくなります。

シリコンバッグ豊胸

人工のシリコンバッグを挿入してバストのボリュームを出す方法です。
バッグを入れる位置は「乳腺下」「大胸筋下」「筋膜下」の3種類があります。
どの方法でも乳腺組織そのものには触れないため、乳がん検診の妨げにはなりません。

脂肪注入豊胸

自分の脂肪を吸引し、バストに注入する方法です。
乳腺内ではなく、皮下や脂肪層に分散して注入されます。
ごく一部の脂肪が壊死して“しこり”のように感じることがありますが、多くは良性の脂肪壊死です。
乳がんと区別がつきにくい場合もあるため、検診では経験豊富な医師や技師による判断が重要です。

このように、手術の方法によって見え方や注意点は多少異なりますが、いずれも乳腺そのものは温存されるため、検診自体が不可能になることはありません。


豊胸後の乳がん検診で気をつけたいこと

豊胸をした方でも、乳がん検診は問題なく受けられます。
ただし、いくつかの注意点を知っておくとより安全です。

マンモグラフィ

乳房を板で挟んでX線を撮影する検査です。
バッグがある場合、圧迫できる範囲が限られるため、画像に写りにくい部分が出ることがあります。
そのため現在は「インプラント対応撮影(Eklund法)」という撮影法が用いられ、バッグを避けて乳腺をしっかり写すことが可能です。
検査の前には、手術を受けたこと・バッグの種類や位置・手術時期を伝えることが大切です。

乳腺エコー(超音波)

バッグの影響を受けにくく、乳腺内のしこりを確認するのに適しています。
放射線を使わないため、若い方でも安心して受けられます。
脂肪注入後の硬結(しこり)も、エコーで良性・悪性を見分けやすいです。

MRI検査

放射線を使わず、乳腺やバッグの状態を立体的に評価できます。
バッグの破損や被膜の変化をチェックする目的でも利用されます。

近年は、検診施設側でも豊胸を受けた方に配慮した体制が整っています。
「豊胸したから検診が受けられない」という時代ではありません。
安心して検診を受けるために、“隠さず伝えること”がいちばんのポイントです。


豊胸手術と乳がんリスクの関係

「シリコンバッグは発がん性がある」「脂肪注入でがんになる」といった話を耳にすることがありますが、
現時点で、豊胸手術が乳がんを引き起こすという科学的根拠はありません。

米国FDAや日本のPMDAの報告でも、シリコンインプラントと乳がん発症率の関連性は否定されています。
ごくまれにBIA-ALCL(インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫)という特殊な疾患が報告されていますが、一般的な乳がんとは異なり、発症率も非常に低いものです。

脂肪注入による豊胸も同様に、乳がんリスクを高めるものではありません。
ただし、脂肪が壊死してできる“しこり”が画像上で乳がんと似て見えることがあるため、定期的な検診は欠かさないようにしましょう。

まとめ

美容医療による豊胸手術と乳がん検診は、適切な知識と対応をもてば十分に両立が可能です。
手術から半年ほど経過し、組織が安定すれば検診を再開できます。
その後は、1年に1回の乳腺エコー、2年に1回のマンモグラフィを目安に、定期的な検診を継続してください。

シリコンバッグを使用している場合は、5〜10年ごとにMRIでバッグの状態を確認することを推奨します。
また、脂肪注入を行った場合には、術後のしこりや石灰化が見られることがあるため、乳腺に詳しい医師の判断を受けることが重要です。

豊胸を受けた方も、検査方法を理解し、経験のある医療機関を選択することで、
安心して乳がん検診を続けることができます。
美容と健康をどちらも正しく管理することが、長期的な安心につながります。

木下 恵里沙 医師の他の症例

この記事をシェアする
目次
閉じる