近年、鼻の下(人中)を短くして口元を整える「人中短縮術(リップリフト)」を受ける方が非常に増えています。顔の余白を減らし、キュッと引き締まった印象にできる一方で、術後に思わぬ鼻の変形に悩まされるケースが急増しています。
患者様からよくいただくご相談として、次のようなものがあります。
- 「人中短縮をしたら、なぜか鼻先が低くなり、鼻筋が通らなくなった」
- 「小鼻や鼻先が横に押し潰されて、団子鼻のようになってしまった」
- 「鼻の下は短くなったのに、鼻全体が崩れて中顔面がのっぺりと潰れて見える」
- 「鼻の穴や、鼻の真ん中の柱(鼻柱)が下に引っ張られて引きつれている」
「鼻の下の皮膚を切除しただけなのに、なぜ鼻の形まで変わってしまうのか」と疑問に思われるかもしれません。
実は、人間の鼻先(鼻尖)や鼻柱は非常に柔らかい軟骨で構成されており、周囲の皮膚や筋肉の張力(引っ張る力)と絶妙なバランスで成り立っています。そのため、人中短縮によって強力な引っ張りが発生すると、その影響がダイレクトに鼻に及んでしまうのです。
今回は、人中短縮後に鼻が低くなったり潰れたりする解剖学的なメカニズム(組織の綱引き)と、当院で行っている「肋軟骨による骨格再建」と「皮弁(ひべん)形成術」を組み合わせた高難度な修正治療について解説します。
人中短縮後に「鼻が低く・丸く・潰れて見える」3つの原因
人中短縮術によって鼻の形が崩れてしまう背景には、美容外科の手術において見落とされがちな「組織同士の物理的な綱引き」が存在します。

人中短縮術では、このように鼻の下、左右の鼻翼から鼻翼にかけて皮膚を切除します。
これだけの範囲の皮膚が取り除かれて縫い縮められることで、鼻に対して下方・内側へ向かう強力な引っ張り応力(テンション)が発生します。
① 皮膚切除の強力な張力が引き起こす「鼻先の垂れ下がり(Drop Nose)」

人中短縮術では、鼻の付け根に沿って皮膚を切除し、縫い縮めます。皮膚を切り取って縫い合わせると、創部(傷口)には上と下から強く引き合う「張力(テンション)」が発生します。
このとき、土台となる鼻先や鼻柱の支持力が弱いと、人中側の強力な引き下げに耐えきれず、鼻先が下へ引きずり下ろされてしまいます。これにより、鼻先が下向きに垂れ下がる状態を引き起こします(医学的にはこれを Drop Nose / 鼻尖下垂 と呼びます)。鼻先が前に出ずに下へ倒れ込むことで、鼻筋の高さが失われ、「鼻が低くなった」「中顔面全体が潰れた」と感じる最大のメカニズムとなります。
② 鼻柱の引きつれと鼻孔縁(鼻の穴)の横広がり
人中の中央部分を強力に引き下げると、鼻の穴を左右に隔てている「鼻柱」の皮膚が過度に引っ張られます。余裕を失った皮膚が引きつれを起こし、ひどいケースでは鼻柱の組織自体が潰れたり欠損状態に陥ったりします。
さらに、中央の皮膚が下に引き伸ばされる歪みが小鼻(鼻翼)側にも波及し、鼻の穴が横に押し潰されるように広がります。その結果、正面から見たときに小鼻が丸く太く見え、「団子鼻になった」という印象を与えてしまいます。
③ 鼻先の垂れ下がりに伴う「中顔面の潰れ感」
鼻先が下方に倒れて垂れ下がってしまうと、顔を立体的に見せていた鼻先の突起が前方へ出ず、平坦化します。人中自体は物理的に短くなっているものの、鼻先の突起感が失われることで、顔の中央(中顔面)全体の立体感が損なわれ、かえってのっぺりと潰れたような顔立ちに見えてしまうのです。
なぜ人中短縮後の鼻修正は「極めて難易度が高い」のか
一度人中短縮術を受けて崩れてしまった鼻を元に戻し、美しく再構築する作業は、通常の鼻整形(初回の手術)とは全く次元が異なる難しさがあります。
1. 覆うための皮膚が「物理的に足りない」
初回の手術であれば、移植する軟骨の高さに合わせて皮膚が自然伸びてくれます。しかし人中短縮を受けた方の鼻周りは、すでに限界近くまで皮膚が切除されています。無理に鼻先を高くしようとしても、覆いかぶせる皮膚のゆとりが残っていません。
2. 内部の軟骨フレームが折れ曲がっている(座屈)
強い張力によって下に引きずり下ろされた鼻先の軟骨(大鼻翼軟骨や鼻中隔軟骨)は、変形したり折れ曲がったりして本来の支持力を失っています。ぐにゃぐにゃになった土台の上にいくら新しい軟骨を乗せても、安定して鼻先を支えることはできません。
3. 硬い瘢痕組織による組織の固着
手術のダメージによって内部で作られた硬い傷痕の組織(瘢痕)が、皮膚・筋肉・軟骨を強力に貼り付け(癒着)させています。この硬い引きつれを解きほぐさずに鼻だけを高くしようとしても、内部の粘着力に負けて押し戻されてしまいます。
ただ軟骨を追加して高くするような単純な手術では、足りない皮膚に阻まれて鼻先が圧迫され、血流障害を起こしたり、再び変形したりするリスクがあります。「潰された骨格フレームの頑丈な再構築」と「足りなくなった皮膚・軟部組織の再建」を同時に行う高度な技術が必要不可欠なのです。
症例解説:肋軟骨による骨格再建と「5-flap(皮弁術)」による皮膚再建

実際に、人中短縮術を受けた後に鼻先が下垂して低くなり、鼻柱の皮膚の引きつれと鼻の横広がり・潰れに悩まれていた患者様の他院修正症例をご紹介します。
当院では、顔面再建外科で培った形成外科的知見を応用し、【自家肋軟骨による骨格フレームの再構築】と【5-flap皮弁による皮膚・軟部組織の立体再建】を同時に行いました。
専門的な修正アプローチのポイント
① 人中の引っ張りに負けない「自家肋軟骨」でのフレーム再建
人中短縮によって生じている強力な下方への張力に勝ち、鼻先を正しい位置へ持ち上げるためには、強固な支柱が必要です。耳の軟骨では強度が足りず曲がってしまうため、患者様ご自身の「肋軟骨」を採取・加工して使用します。 これを鼻の中央(鼻中隔)に頑丈な柱として固定し、潰れて倒れ込んでいた鼻尖〜鼻柱の骨格フレームを根本から力強く立ち上げ直しました。
② 5-flap皮弁術による「皮膚のゆとり」創出

骨格を高く立ち上げても、それを覆う皮膚が足りなければ引きつれは治りません。そこで、形成外科の再建手術で用いられる幾何学的な皮弁形成術を行いました。
これは、引きつれている鼻柱から小鼻周りの皮膚に対し、特殊な切り込みを入れ、三角形の皮膚の弁(フラップ)を組み替えるように交互に移動・交差させる技術です。他所から別の皮膚を切って移植してくることなく、局所の皮膚の引っ張り合う方向(張力ベクトル)を転換させることで、物理的に鼻柱の長さを伸ばし、皮膚に十分なゆとりを生み出すことができます。


正面および斜めの症例写真です。 下に倒れ込んで丸く潰れていた鼻先が解剖学的に正しい位置へ立ち上がり、低くなっていた鼻筋から鼻先にかけてのすっきりとした高さと立体感が復元されました。鼻先が前に出たことで、潰れて見えていた中顔面全体のバランスも引き締まった印象に変化しています。
下からの画像では、引きつれて平坦に潰れていた鼻柱が5-flap技術によって綺麗に延長・再建され、横に広げられていた鼻の穴の形状が自然で美しい縦楕円形へと整っていることが分かります。
人中短縮を受ける前・受けた後に知っておくべきこと
人中短縮術は、鼻の下の距離を縮めて顔全体の余白や間延び感を整える有効な治療です。しかしその反面、「切り取る皮膚の量」や「内部の処理方法」を誤ると、鼻という顔の中心にある重要なパーツの形状を損なってしまうリスクと隣り合わせでもあります。
もし現在、人中短縮術を検討されている場合は、単に「鼻の下を何ミリ切るか」だけではなく、「自分の鼻先の硬さや形に対して、どれくらいの引っ張りがかかるか」まで計算できる医師を選ぶことが大切です。
すでに人中短縮術を受けて鼻の低さや団子鼻、引きつれが生じている場合であっても、適切な再建アプローチによって改善が可能です。切除された皮膚や押し潰された骨格に対しては、形成外科的な「骨格再建(肋軟骨)」と「皮膚の再配置(皮弁術)」を正しく組み合わせることで、解剖学的に正常な構造と自然な立体感を再構築することができます。
当院では、顔面再建外科で培った確かな解剖学の知見に基づき、一人ひとりの傷痕や組織の状態を見極めたオーダーメイドの他院修正を行っています。お悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
施術詳細情報
- 施術内容: 5-flapによる鼻柱の形成を伴う鼻の再建(鼻中隔延長+鼻尖形成+鼻尖軟骨移植)、猫貴族手術
- 価格(税込): 鼻フル(他院修正・肋軟骨使用):1,247,000円〜
- 猫貴族手術:660,000円
- 他院修正追加料金:150,000円〜
- リスク・副作用: 術後の腫れ、内出血、肋軟骨採取部の創部痛・傷痕、皮弁の血流障害・血流不全による壊死のリスク、移植軟骨の吸収・変形、傷痕の赤み(一時的)
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