鼻の整形手術には、自分の軟骨などを用いる「自家組織」と、プロテーゼやオステオポールなどの「人工物」を用いる方法があります。人工物を使用した場合、自家組織に比べて術後感染の確率は上がります。また、一度感染が起きると、原因である人工物を除去しない限り、そのリスクを完全に排除することは困難です。
今回ご紹介する症例の患者様は、他院で人工物を使用した後に感染を起こし、最終的に鼻先の皮膚が壊死して穴が開く「皮膚潰瘍」の状態で来院されました。この患者様が手術を受けた病院では、「傷が治らないと手術はできない」と説明され、抗生剤を飲みながら待機するように指示を受けたそうです。
しかし、形成外科・再建外科の視点から言えば、この判断は適切ではありません。感染の原因である人工物が残っている状態で、傷が自然に治癒することは医学的にあり得ないからです。 待機している間にも炎症は続き、周囲の正常な組織まで損傷を進行させてしまいます。
なぜ様子を見るべきではないのか、そして深刻なダメージを負った鼻をどう再建するのか。他院で手術不可とされながらも、当院での早期介入によって回復した実際の症例経過を解説します。
症例解説:皮膚に穴が開いた鼻の再建
初診時の状態と前回の経緯


この患者様は、他院で鼻の手術を受けた後に感染が起きてしまいました。以前の手術ではプロテーゼの上に、さらにオステオポールを重ねて挿入するという非常に負荷の強い処置がなされていました。鼻先が赤く腫れ、皮膚が限界まで薄くなって一部に穴(潰瘍)が開いている状態でした。
本来であれば、速やかに原因を取り除くべきですが、前の病院では「傷が閉じなければ手術はできない」と説明され、抗生剤を飲みながら待機するように指示されていました。しかし、感染によって皮膚に穴が開いている状態で、自然に傷が閉じることは医学的にあり得ません。待機している間にも炎症は広がり、鼻全体の形が崩れ始めていました。
MAe Clinicによる手術計画
当院では、初診時に「原因の除去と再建を同時に行う手法」、つまり「原因の除去」と「鼻の作り直し」を一度の手術で行うことを決定しました。感染していても、血流のある自分の組織(肋軟骨)を使えば、その場で再建は可能だと判断したためです。
術後6ヶ月の経過


術後6ヶ月の状態では、皮膚に開いていた穴は完全に塞がっています。 人工物をすべて取り除いた上で、ご自身の肋軟骨で土台を立て直したことにより、感染が止まっただけでなく、鼻の高さとラインも回復しました。横や斜めから見ても、ひきつれや不自然な変形はなく、きれいに整っています。
なぜ鼻の皮膚に穴が開いてしまうのか
鼻の皮膚鼻の皮膚が破れるのには、医学的な理由があります。主な原因は、人工物によって皮膚が内側から強く押し付けられることと、それによって血の巡りが悪くなることです。
人工物による「内側からの圧迫」
鼻先の皮膚はもともと非常に薄く、伸び縮みする余裕があまりない組織です。 ここに、プロテーゼやオステオポールなどを無理に挿入すると、鼻の内側から皮膚に対して常に強い力がかかり続けることになります。 これは、サイズの合わない靴を履き続けて足の指が圧迫されている状態に近いと言えます。
内部に硬い人工物が入っていると、表面の皮膚とその人工物の間に組織が強く挟み込まれた状態になります。すると皮膚の中にある細い血管が押し潰され、血の巡りが滞ります。
組織の壊死と穿孔
血が通わなくなった皮膚には酸素や栄養が届かなくなるため、組織が徐々に死んでしまいます(これを「壊死」と呼びます)。 栄養を失って脆くなった皮膚は、内側からの圧力に耐えきれなくなり、最終的に最も負担がかかっている部分から破れて穴が開きます。これが、皮膚に穴が開く(皮膚潰瘍ができる)仕組みです。
飲み薬が効かない細菌のバリア
「抗生剤をずっと飲んでいるのに、膿が止まらない」という現象には、細菌学的な理由があります。
体に入れた人工物(シリコンなどの異物)にばい菌がつくと、菌は自分の身を守るために「バイオフィルム」というヌルヌルした膜のバリアを作ります。菌はこのバリアの中に引きこもってしまいます。
このバリアは非常に強力で、飲み薬や点滴で体に入れた抗生剤を跳ね返してしまいます。また、本来なら菌を退治してくれるはずの白血球も、このバリアの中には入れません。
つまり、感染の原因である人工物(=菌の住処)を物理的に取り出さない限り、菌を全滅させることは不可能です。 薬で一時的に腫れが引いても、薬をやめればまたすぐに膿が出るのは、このバリアの中に菌が生き残り続けているからです。
「傷が治るのを待つ」が医学的に危険な理由
今回のケースのように、「まずは炎症が落ち着くのを待ってから手術を考えましょう」という方針が示されることがあります。一般的な怪我であれば適切な対応ですが、鼻の中に人工物が入っている感染症例においては、待機することでかえって組織の損傷を広げてしまう可能性があります。
待機している間に進む組織のダメージ
医療の原則として、膿が溜まっている場合は外に出し、人工物が感染の原因であればすぐに取り除く必要があります。鼻の中に原因(人工物)が残っている限り、体はそれを追い出そうと反応し続けるため、激しい炎症が治まることはありません。
この状態を放置すると、炎症の影響で周りの正常な組織や軟骨まで溶けてしまい、結果として皮膚の穴を広げることになります。早めに原因を取り除けば小さな傷で済んだはずの状態が、時間を置くことでダメージが広がり、後からきれいに治すことが難しくなるリスクがあります。
鼻が縮んで固まってしまうリスク
炎症が長く続くと、体はダメージを受けた部分を埋めようとして「きずあとの組織(瘢痕)」を作ります。この組織は、周りの皮膚を引っ張りながらギュッと縮んでいく性質があります。
数ヶ月間待っている間にこの縮みが進むと、鼻先が短く持ち上がってしまったり、鼻の穴の形がひきつれたりします。さらに鼻全体の組織がカチカチに固まって皮膚の柔軟性が失われます。一度この状態になると、後の修正手術で鼻を高くしたり伸ばしたりしようとしても、皮膚が伸びないために物理的な限界が生じ、理想の形に戻すことが非常に困難になります。
MAe Clinicの治療アプローチと医師選びの重要性
当院では、穴が開いた鼻に対して、原因の除去と再建を同時に行う手法を一つの有効な選択肢としています。
感染源の徹底的な除去
手術の第一段階は、感染の直接的な原因となっている人工物や、ダメージを受けた組織を細部まで丁寧に取り除く処置です。 原因となっているプロテーゼやオステオポールだけでなく、周囲の汚染された軟骨や、人工物を包んでいた膜(カプセル)まで外科的にすべて除去します。少しでも付着物が残っていると再発の恐れがあるため、顕微鏡などを用いて、鼻の内部が健全な状態になるまで念入りに処置を行います。
なぜ肋軟骨が必要なのか
一度感染が起きた鼻の組織には、再び人工物を入れるべきではありません。また、耳の軟骨などでは、縮もうとする皮膚の力に耐えられるだけの強度が足りません。そこで、ご自身の胸から採る肋軟骨が必要になります。
- 感染への強さ: 自分の生きた組織を移植すると、周囲から新しい血管がつながり、血流が戻ります。血の巡りが回復することで、体内の免疫細胞や薬剤が届くようになり、感染に対して非常に強い抵抗力を持ちます。
- 強力な支持力: 肋軟骨は非常に硬く丈夫です。ひきつれて縮もうとする組織を内側から力強く押し広げ、鼻の長さと高さを維持するための確かな柱となります。
穴が開いた皮膚を塞ぐ再建技術
皮膚に穴が開いている場合、単に左右から寄せて縫い合わせるだけでは、ひきつれや凹みの原因になります。 当院では、肋軟骨で鼻先の柱を立て直して鼻先を前方に引き出しつつ、周囲の健康な皮膚をスライドさせて移動させるなどの技術を使い、穴を無理なく塞ぎます。
写真で見る:術前と術後6ヶ月の比較
これまで解説した、感染の原因を丁寧に取り除く処置と、肋軟骨を用いた再建によって、皮膚に穴が開いた状態からでも以下のように回復することが可能です。

- 左(術前): 鼻先に明確な穴が開き、内部の感染により鼻全体のバランスが崩れています。
- 右(術後6ヶ月): 穴は跡形もなく塞がり、皮膚の質感が健康的に回復しています。肋軟骨による土台作りにより、左右の対称性も整っています。

- 左(術前):皮膚が薄くなって穴が開き、内部の構造が不安定なため、鼻先の高さが失われてラインが不明瞭になっています。
- 右(術後6ヶ月):肋軟骨で支柱を立て直すことで、適正な高さと形状を取り戻しています。鼻筋から鼻先にかけて、滑らかなラインが再建されています。
修正手術を検討する際の医師選びの基準
皮膚に穴が開くほど悪化した状態の再建は、美容外科の中でも特に高度な技術を要します。執刀医には以下の3つの能力が不可欠です。
的確な介入時期の判断力: リスクをコントロールしながら、適切なタイミングで一刻も早く手術に踏み切れる医学的な判断力が、患者様の鼻を守る鍵となります。
形成外科の専門知識: 単に形を整えるだけでなく、「傷がどう治るか」「血流をどう確保するか」という再建外科の基礎知識が欠かせません。病的な状態にある組織を、医学的根拠に基づいて健康な状態に戻す視点が重要です。
自家組織(肋軟骨)を扱う熟練した技術: 人工物に頼らず、自分の軟骨を採取・加工し、適切な位置に移植するには豊富な経験が必要です。
まとめ
鼻整形後の感染や、皮膚に穴が開くトラブルは、患者様にとって絶望的な状況です。鏡を見るのが辛くなり、外に出られなくなる方もいらっしゃいます。
しかし、医学的に正しい手順、すなわち、早期に異物を取り除き、血流の良い自分の組織で作り直すこと——を行えば、必ず治ります。そして、今回の症例写真が示す通り、単に治るだけでなく、美しさを取り戻すことも十分に可能です。
「傷が治るまで待ってください」という言葉に従って、ただ耐える必要はありません。その待機期間中にも、貴重な鼻の組織は失われ続けています。
MAe Clinicでは、他院で「治療困難」と判断された重度感染症例に対しても、形成外科・再建外科の知見を活かし、機能と見た目の回復に全力を尽くします。
症例データ・施術詳細
| 項目 | 内容 |
| 執刀医 | 前田 翔(MAe Clinic 院長) |
| 術式 | 鼻中隔延長(肋軟骨)、鼻尖形成、鼻尖軟骨移植、隆鼻(肋軟骨)、猫貴族手術、他院プロテーゼ抜去 |
| 費用(税込) | 総額 ¥2,747,000 (内訳:鼻中隔延長¥860,000、鼻尖形成¥337,000、鼻尖軟骨移植¥240,000、隆鼻¥650,000、猫貴族手術¥660,000) |
| 経過観察期間 | 6ヶ月 |
| 合併症・リスク | 感染、変形、後戻り、神経麻痺、瘢痕形成、弯曲、拘縮、左右差 |





