【実際の手術映像あり】魔女顎(オトガイ下垂)手術のすべて|専門医が構造~原因、手術方法まで解説

この記事は 前田 翔 医師(形成外科専門医・美容外科専門医) が監修しています。

目次

魔女顎とは?──笑ったときに“顎が下がる”なぜ?

「笑うと、顎の先がぐにゃっと下がる」
「横顔のラインが段差になって見える」

そうした症状の多くは、いわゆる“魔女顎(まじょあご)”と呼ばれる状態です。
正式には「オトガイ下垂(chin ptosis)」といい、顎先の軟部組織や筋肉が下方向に引かれてしまうことで、本来よりも顎が長く・垂れたように見える現象を指します。

もともと生まれつき顎の組織がやや下がり気味の方もいますが、実は美容整形後に起こる“後天的な魔女顎”も少なくありません。

特に、過去に「オトガイ形成術」や「Vライン形成」「骨切り」を受けた方で、術後しばらくしてから顎先が下がってきたと感じるケース。それが、まさにこの“医原性魔女顎”です。

顎先の形が変わるだけでなく、笑ったときや話すときに筋肉が不自然に動き、「顎がゆるむ」「しゃくれるように見える」など、表情にも影響します。

笑顔時に顎先が下がる“魔女顎”の典型所見

なぜ起こる?魔女顎の原因と構造を専門医が解説

魔女顎は「骨がずれた」のではなく、顎先を支える構造の緩みによって起こります。
僕はこの状態を、形成外科の言葉で“支持構造の破綻”と呼んでいます。

オトガイ形成では、骨の操作を行うために「骨膜」という膜を一度剥がします。
この膜は、筋肉や皮膚を支える大切な構造です。
再癒着が不十分だと、皮膚や筋肉が下方向にずるっと下がってしまいます。

この映像では、上層を剥離すると上が緩み、下方付着が相対的に強くなるという構造を説明しています。

上層は剥離で緩む → 下方付着が相対的に強くなり、顎先が下がる

この状態が続くと、笑ったときに顎先が強く引き下げられ、“魔女顎”特有の下垂が起こります。

実際の手術映像で見る|魔女顎修正のリアルな手術プロセス

ここからは、実際の術中映像をもとに、魔女顎手術の流れをリアルに追っていきます。

① 支えをリセットする「剥離」工程

まずは、皮膚と筋肉、そして筋肉と骨膜の間を丁寧に剥離します。
下の映像では、軽く引っ張るだけで顎先が動く“緩み”の状態が見て取れます。

術中映像①可動の確認
骨膜下の緩みを確認。軽い牽引で顎先が動く=支持構造が緩んでいる所見

次に、上方向に持ち上げる動きを確認します。

術中映像②上方ベクトル
顎先は“上へ支える”のが鍵。骨膜ごと上方に持ち上げると形が安定する

このように、顎先は“下に引く力”ではなく“上へ支える方向”に整えていくのがポイントです。

② 軟部組織の減量と上方固定

剥離によって可動をリセットしたあとは、顎先の構造を正しい位置で支え直す工程に入ります。

映像では、口腔内から顎先の軟部組織を展開し、どの方向に持ち上げると自然なラインが再現されるかを説明しています。

形成外科の手術では、“どの層をどの方向に支えるか”が仕上がりを大きく左右します。
ここで扱うのは、皮膚よりも深い、筋膜・骨膜レベルの支え
皮膚表面を引っ張るのではなく、構造そのものを上に支えることで、顎先の位置と動きを同時に安定させます。

実際の手術では、下垂を生じさせている余剰の軟部組織を減量し、その後、骨膜と筋膜を複数点で上方に固定していきます。この固定が「再下垂を防ぐ支え」となり、笑ったときに顎先が下がらない、滑らかなラインを形成します。

下方向に働く筋肉の牽引力も、ボトックスを用いて一時的に緩めます。
上への支えと下への牽引のバランスを整えることで、形態だけでなく、表情の動きも自然に回復します。

③ 骨膜を温存しながら、全体のラインを整える

今回の症例では、魔女顎の修正と同時に、Vラインの骨切りを併用しています。
これは、フェイスラインをわずかに調整して下顔面全体のバランスを整えるためです。

ただし、主目的は骨の形を変えることではなく、
垂れ下がった顎の軟部組織を骨膜に再固定し、支えを再構築することにあります。

通常、固定力を得るために骨に穴を開けて縫合することもありますが、今回は骨膜を温存しながら、その膜自体を支点として固定しました。

この方法では、骨に新たな穴を開けるのではなく、骨膜を再固定の基点とすることで、骨への負担を最小限に抑えながら自然なリフト効果を得ることができます。

骨膜は血流や神経を守る大切な層であり、この層を活かして構造を再建することが、形成外科的に最も安定した支え方だと考えています。

まとめ:構造を“支え直す”という発想で自然なラインへ

魔女顎は、単なる見た目の問題ではなく、顎を支える構造の再建が必要な“機能的変化”です。

骨や皮膚そのものではなく、それらをつなぐ膜や筋肉の支え方に乱れが生じることで、形が崩れて見えてしまうのです。

構造を正しい位置で“支え直す”ことで、形態も動きも自然に回復します。

骨を削るよりも、構造を理解し、支点を再構築すること──
それが形成外科的アプローチの本質です。

この治療は、派手な変化を目的とした手術ではなく、「本来あるべきラインを取り戻す」ためのデザイン再建。笑ったときに顎が下がる、横顔の段差が気になるという方は、まずはその構造的な原因を正確に見極めることが第一歩です。

今回は術中の様子を中心に解説しましたが、今後は術後の経過・ダウンタイム・完成までの変化についても、実際の症例をもとに詳しくお伝えしていく予定です。

構造を理解し、支えを整え直すことで、自然で上品なフェイスラインを、確実に取り戻すことができます。

顎先の下がりや口元のバランスが気になる方は、どうぞお気軽にご相談ください。

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