「鼻の下の中央が不自然にへこんでいる」
そんなお悩みを抱えて来院される方の多くが、他院で“やりすぎ”とも言える操作を受け、かえって構造が崩れてしまったケースです。
人中短縮やCカール形成といった唇まわりの施術は、顔全体の印象を大きく左右する一方、構造や厚みのバランスを誤ると、かえって不自然な凹みや影を生むことがあります。
今回ご紹介するのは、人中短縮を2回、さらにCカール形成を受けたことで、人中中央部(人中窩)が過度に凹み、不自然な形状となった症例の修正手術です。
人中窩が凹んだ理由──「表からの切除+Cカール形成」が招いた構造崩壊
過去に2回行われた人中短縮術は、いずれも表側(鼻の下の皮膚)から切開され、皮膚と皮下組織が大きく切除されていました。
さらにCカール形成により、人中の丸み(Cカール)を作る手術が追加されています。
ただし、こうした処置も正しい層や構造を理解せずに行われると、思わぬ不自然さを生むことがあります。
適切でない処置が行われた結果──
- 鼻と唇の間がへこんで見える
といった審美的な問題が生じていました。
術中さらに詳しく観察すると、鼻柱基部に耳介軟骨が移植されていました。
解剖に基づかない操作により、くぼみや引きつれといった問題が発生しています。下記動画では、軟骨の位置や状態を詳しく解説しています。
この耳介軟骨は、鼻尖形成のために採取され、実際に鼻先にも使用されていました。
ところがその一部が患者様への説明や同意なしに、鼻柱基部の皮下にも移植されていました。
鼻柱基部は、いわゆる「猫手術」で軟骨を移植することがある部位ではありますが、今回のように本来の目的とは異なる部位に、意図なく追加移植された状態は、医学的にも倫理的にも問題があります。
このような解剖構造を無視した操作が行われると、くぼみや引きつれなどのリスクを知らぬ間に抱えてしまうことになります。
誤った位置に入れられた軟骨と、その影響──気づかぬうちに起きる“引きつれ”のリスク
前述の通り、術中の確認により、耳から採取された軟骨が、鼻中基部の浅い層(皮下)に誤って挿入されていることがわかりました。
本来、猫手術や貴族手術で軟骨を挿入する際には、「鼻柱基部」や「鼻翼基部」など、顔の骨に沿った深い層にしっかりと留置する必要があります。
しかし今回のように、皮膚のすぐ下(浅層)に軟骨が置かれている状態では、軟骨が安定せず、ふくらみや浮き出しといった形の違和感が目立ちやすくなります。
さらに、軟骨は本来接するべき骨の面に触れておらず、固定も不十分だったため、周囲の組織が軟骨を取り囲むように硬化し、拘縮(こうしゅく)や癒着を生じていました。
実際には、以下のような問題が重なっており、唇の形状や可動性にも悪影響を及ぼしていました:
- 軟骨が骨に接しておらず、皮下に“浮いた状態”で存在していた
- 固定糸が周囲の健康な組織を巻き込み、引きつれを起こしていた
- 組織が拘縮し、唇の柔らかさや動きが制限されていた
このような状態を放置すると、拘縮が進行し、最終的には健康な組織まで切除しなければならない可能性もあります。
そのため、拘縮が進行する前に、誤った位置にある軟骨を適切に除去し、組織の引きつれを解除する処置を早期に行うことが重要です。
組織が硬く拘縮してしまう前であれば、健康な組織へのダメージを最小限に抑えながら修正が可能になります。
裏側人中短縮だけでなく、“3D厚み調整”で唇の立体を再構築
今回の修正では、単に人中の長さを調整するだけでなく、人中窩の過度な凹みと、凹みによってできた両側の過剰なボリュームを同時に調整する必要がありました。
僕が行ったのは、以下の3ステップからなる構造的な厚みの再設計です。
① 瘢痕組織の剥離(引きつれの解除)
まず初めに行ったのは、前医の手術で形成された瘢痕(はんこん)組織の剥離です。
唇の中央部(人中窩)には、本来あるべき組織の過剰な切除や、誤った位置への軟骨移植によって、組織の引きつれ(拘縮)が生じていました。
この拘縮により、唇の動きが制限され、中央が不自然にへこんで見える“凹み”の原因となっていたのです。
術中では、周囲の健常組織を傷つけないよう慎重に瘢痕を剥離し、唇の柔軟性を回復させました。
② 人中窩の“くぼみ”に皮弁を移植
引きつれを解除しただけでは、くぼんでしまった中央の立体は戻りません。
そこで、口唇内の組織を移動させる「皮弁移植」を行い、凹みを内側から持ち上げるように補正しました。
この皮弁は血流を保ったまま立体的に移動させ、糸で丁寧に固定。
“自分の組織だけで”厚みを作り直すため、異物によるしこりや違和感のリスクもありません。
③ 人中窩“横”のボリュームを減量し、形を整える
逆に、人中窩の両サイド(横)の組織は窪みによって過剰に膨らんでおり、中央とのバランスを崩していました。
そのため、両側のボリュームを減量する処理も同時に行い、全体の形状をなだらかに調整しました。
立体感は“盛る”だけではない。足す×削る=デザイン
こうした「凹んだ中央を補い、盛り上がった部分を抑える」設計によって、人中のラインは、丸く自然なカーブを描くように変化します。
唇の立体は、「ただ厚くすればいい」「ただ引っ込めればいい」ではありません。
足す・削る・剥がす・持ち上げる──それぞれの操作を組み合わせた“再建”が必要です。
当院では、こうした構造の再設計においても、
血流・動き・解剖に基づいた“術後も機能するデザイン”を重視しています。
「構造を理解してから治す」ことの大切さ
過去の施術では、耳介軟骨の位置ミスや説明不足といった“構造を無視した介入”が重なり、結果として機能・審美の両面に問題が残りました。
今回の修正では、見た目の変化だけでなく
- 構造的に理にかなった再建
- 可動性のある唇
- 皮膚に傷を増やさず内部から治す
というアプローチをすることができました。
まとめ|人中短縮の修正には“厚み”と“構造バランス”の再設計が不可欠
人中短縮やCカール形成は、鼻下と唇の距離を整え、若々しく整った口元をつくる有効な手術です。
しかし、構造に対する理解を欠いたままの手術や、過度な短縮は、かえって不自然さを招くこともあります。
よくあるトラブルには、以下のようなものがあります。
- 唇の厚みが失われ、痩せたような印象になる
- 人中窩が凹んだり引きつれたりして、影が目立つ
- 唇の動きが制限され、表情が不自然になる
- 口が閉じにくくなる
僕は単に見た目を整えるのではなく、動き・厚み・立体のバランスがとれた口元を構造から再構築することを大切にしています。
そして当院では、人中短縮後のトラブルに対する修正手術にも数多く対応しており、再建手術を得意としています。
他院での施術後に違和感や後悔が残っている方も、ぜひ一度ご相談ください。

