僕のもとには、他院で鼻の手術を受けたものの結果に満足できず、修正手術を希望される患者様が数多く来院されます。
「鼻先を高くしたのに、顔全体のバランスがおかしい」
「小鼻が埋もれて見え、以前より口元が出て見える」
「プロテーゼを入れたら、鼻だけが唐突に生えているような違和感がある」
こうした悩みを抱え、2回、3回と手術を繰り返しているケースは決して珍しくありません。
なぜここまで手術を重ねても、違和感が残ってしまうのでしょうか。
最大の理由は、鼻そのものの「形」だけに注目し、鼻を支える「土台(中顔面)」の問題が見過ごされていることにあります。
多くの美容外科手術は、皮膚や軟部組織の「見えている形」を整えることに重きが置かれます。
しかし、修正手術、とくに複数回の手術を経た難しい症例では、表面だけをいじるアプローチには限界があります。
必要なのは、マイナスになってしまった組織をゼロに戻し、その上で機能的・形態的に安定した構造をつくり直す「再建」の視点です。
今日はは、僕が専門としている「中顔面の陥没修正(土台再建)」と、それを支える「肋軟骨による構造強化」について、お話しします。
日本人の骨格と中顔面の陥没
鼻の修正を考えるうえで避けて通れないのが、東洋人、とくに日本人特有の骨格です。
それは、日本人は中顔面(土台)が欧米人に比べて後ろに位置しやすいという骨格的な特徴を持っていることです。
とくに、
鼻の穴の縁にあたる梨状口縁から鼻翼基部(小鼻の付け根)にかけての土台が奥側にある
という傾向が強く、この“土台の位置”が鼻の見え方に大きな影響を与えます。

右:日本人に多い中顔面陥没
土台の位置の違いが、鼻・小鼻・口元の見え方を大きく左右する。
土台が奥にあると起きる3つの問題
①小鼻が埋もれて見える(鼻翼の食い込み)
土台となる骨が後方にあるため、鼻翼が頬の組織に押し込まれたように見えます。
② 口元が前に出て見える
歯並びに問題がなくても、中顔面が奥にあることで、相対的に口元が突出して見えることがあります。
③ 法令線が深く見える
鼻翼基部が後ろに下がっているぶん、頬との段差が大きくなり影が強調されます。
鼻先だけを高くしても違和感が残る理由
土台が奥にあるまま、鼻先だけを前に出してしまうと、
鼻だけが浮いて見えたり、鼻先が強調されすぎてしまうことがあります。
「思っていた鼻にならない」
「鼻の形は変わったのに、顔全体の印象は改善しない」
という相談が多いのは、このためです。
鼻柱基部も“土台の位置”の影響を受ける
鼻翼基部だけでなく、鼻柱基部も中顔面陥没の影響で奥まって見えることがあります。
すると、
- 鼻柱が立ち上がらない
- 鼻先だけ高く見える
- 鼻~人中のつながりが弱くなる
といった違和感が生まれます。
こうした土台の後退が、鼻まわりの違和感を生み出す大きな要因です。
では、この不足している“土台”をどのように整えていくのか、実際のアプローチを解説します。
土台再建の要となる「猫貴族手術」
中顔面の土台が後方にある場合、鼻柱基部と鼻翼基部のどちらか一方だけを補っても、鼻まわりの違和感は十分に解消されません。
この“ふたつの支点”を同時に整えるために、私が臨床の中で考え方をまとめ、術式として確立したのが「猫貴族手術」 です。中顔面をより解剖学的に正しい位置へ近づけることを目的にしています。
猫貴族手術は、
小鼻の付け根と鼻柱の付け根を同時に前へ持ち上げることで、不足している土台を補う手術です。
その結果として、
- 中顔面の立体感が出る
顔の中央が物理的に前に出ることで、平坦だった顔立ちに奥行きが生まれます。 - 口元突出の印象が和らぐ
鼻の基部が前方へ出ることで、相対的に口元が引き締まって見え、Eライン(鼻・唇・顎のライン)が整いやすくなります。 - 鼻翼と鼻柱のバランスが整う
鼻翼と鼻柱を同時に持ち上げるため、ACR(Alar-Columellar Relationship:鼻翼と鼻柱の位置関係)が自然な形で保たれます。
美容整形というより、どちらかというと顔面外科的な「骨格移動」の概念に近いアプローチと言えます。
肋軟骨で「柱」を立てる意味
土台(中顔面)を持ち上げたあとは、鼻そのものの形を整えていきます。
この段階で非常に重要になるのが、どれだけしっかりした「支柱」をつくれるかです。
修正手術では、私は基本的に 自己肋軟骨を第一選択としています。
なぜ修正手術で肋軟骨が重要なのか
初回手術であれば、鼻中隔軟骨や耳介軟骨で対応できることもあります。
ただし、修正手術、特に中顔面からしっかり引き上げるような大きな変化を伴う手術では、それらの軟骨では強度が不足することが多くなります。
- 過去の手術による瘢痕や癒着によって、皮膚が硬く伸びにくい
- 皮膚や軟部組織が“元の位置に戻ろうとする力”が強い
- 鼻中隔軟骨がすでに採取されていて、材料が残っていない
こうした状況では、柔らかい軟骨だけでは時間とともに潰れたり、曲がったりしてしまいます。
量と強度の両方を確保できる材料が必要で、その条件を満たすのが肋軟骨です。
構造体としての肋軟骨
私が行う肋軟骨の移植は、「ただ入れる」だけではありません。
肋軟骨を細かくデザインし、既存の鼻中隔軟骨にしっかり固定することで、新しい骨格を組み直す作業に近いイメージです。
この強い支柱があって初めて、猫貴族手術で持ち上げた土台の上に、安定した鼻先を再構築することができます。
土台と柱、この両方がしっかりしていて、はじめて長期的に崩れにくい鼻が成立します。
形成外科専門医としての「再建」の視点
僕は現在、美容外科医として鼻の手術を中心に行っていますが、出発点は形成外科です。
形成外科医として働いていた頃、
顔面骨折の修復や、がん切除後の組織欠損の再建など、「失われた形や機能を元に戻す手術」に多く携わってきました。
再建の現場では、
- 足りない骨や軟部組織を補う
- 顎や頬の骨を正しい位置に戻す
- 皮膚を移植して閉鎖する
といった作業を、解剖学的な“正しさ”を基準に組み立てていきます。
そこには「なんとなく綺麗に見えればいい」という発想はありません。
鼻の修正手術は、この再建の考え方に非常に近い領域です。
度重なる手術で傷ついた組織、変形した軟骨、不自然な位置にある骨格。
これらを一度整理し、本来あるべき位置に戻し、不足している組織を補う。
表面だけを整えるのではなく、内部の構造から立て直す。
これが、形成外科出身の僕が伝えたい「修正手術の考え方」です。
症例から見る、修正の実際
【症例①】他院での肋軟骨鼻中隔延長後に生じた鼻先下垂の修正




術前所見
他院で肋軟骨を用いた鼻中隔延長と隆鼻術を受けた患者様。
術後半年ほどで、鼻先の軟骨が前方へ倒れ込み、正面・側面ともにラインが崩れてしまった とのことでご相談をいただきました。
診察では、
- 鼻中隔延長の支柱が十分に固定されておらず、前方へ傾いている
- 鼻尖支持が弱く、鼻先の角度が下がっている
- 鼻背(鼻筋)が太く見え、全体にのっぺりした印象が出ている
- 中顔面の後退が残り、鼻だけが前方に突き出して見える
といった構造的な問題を認めました。
手術計画
大きく分けて 「鼻先の支持構造の再建」 と「中顔面との調和の再調整」 の2点を軸に方針を立てました。
① 鼻全体の支持構造を立て直す
- 鼻中隔延長(肋軟骨)を再構築
- 鼻尖形成・鼻尖軟骨移植により、鼻先の角度・高さを再設定
- 鼻背細片軟骨移植で、鼻筋のラインを細く整える
- 倒れ込んだ軟骨を除去し、新しい支柱を正中に強固に固定
鼻先が“高いけれど大きい”という印象にならないよう、高さとシャープさの両立 を意識しています。
② 中顔面とのバランス調整(猫貴族手術)
鼻先を整えるだけでは、土台の後退により「鼻だけが強調される」状態が残るため、鼻翼基部・鼻柱基部の不足を肋軟骨で補い、基部そのものを前方へ持ち上げました。
これにより、中顔面の立体感が出て、鼻が顔全体に自然に馴染むようになります。
術後経過
術後は、
- 鼻背のラインが細く、自然に通る
- 鼻先の角度が安定し、倒れ込みの兆候なし
- 中顔面の立体感が増し、顔全体の調和が向上
- 高さを出しながらも“鼻だけ浮かない”Cカールが形成
といった変化が見られています。
この症例のように、肋軟骨を用いた鼻中隔延長でも、
支柱の位置や固定の仕方が不十分だと、時間経過とともに前方へ倒れ込む ことがあります。
修正では、鼻先だけでなく “支えとなる構造そのもの” を立て直し、さらに土台(中顔面)との位置関係を合わせることが、自然な仕上がりにつながります。
【症例②】プロテーゼ後の骨萎縮による凹みを、構造再建で改善した症例




術前所見
以前にプロテーゼを用いた鼻整形を受けた患者様です。
術後しばらくして、
- 鼻周囲の支持組織(骨・軟骨)が痩せて見える
- 顔の中心部がへこんでのっぺりと見える
- 凹みが強調される
といった症状が出現し、改善を希望され来院されました。
診察の結果、プロテーゼによる骨萎縮が主な原因で、鼻の“土台”そのものが低くなっている状態でした。
手術計画
治療の中心となるのは、
①異物の除去、②支持構造の再建、③中顔面との調和の再構築 の3点です。
① プロテーゼ抜去と支持構造の再建
まずプロテーゼを抜去し、
肋軟骨を用いて 鼻中隔延長と鼻尖支持組織の再構築 を行いました。
- 鼻先を支える軟骨の角度と位置を再設定
- 鼻柱〜鼻尖の支持力を強化
- 鼻背には細片軟骨を移植し、最小限の高さ補正
「高くする」ではなく、“本来あるべき立体構造” を取り戻すこと を目的としています。
② 凹みの強い基部(鼻翼基部〜鼻柱基部)の補強:猫貴族手術
プロテーゼの圧迫により、鼻翼基部〜鼻柱基部の骨が痩せていたため、猫貴族手術で土台そのものを前方へ補強 しました。
これにより、
- 顔の中心軸に立体感が戻る
- 鼻だけが浮く印象がなくなる
- 横顔の光の入り方が自然になる
といった改善が期待できます。
③ 立体感の設計と細部の調整
手術では、軟部組織の厚み・骨格の形状・光の反射を総合的に評価しながら、
必要な箇所にだけ最小限のボリュームを補いました。
- 組織の位置関係を「本来あるべき位置」へ戻す
- 顔全体を通した連続した立体を形成
- ミリ単位の調整で自然な陰影を再構築
形成外科専門医としての経験を生かし、長期的に安定する支持構造をつくること を最優先としています。
術後評価
術後1ヵ月の段階でも、顔の中心に自然な厚みが戻り、凹みに伴う影の強さが改善しています。
- 鼻柱〜鼻尖の支持力が安定
- 顔全体の印象が引き締まり、のっぺり感が消失
- “整形した感じ”のない自然な仕上がり
といった変化が認められます。
構造的な問題を抱えた症例ほど、内部を正しく再建するだけで見え方が大きく変わる という良い例です。
まとめ
鼻の修正手術を検討される方の多くは、これまでに大きな迷いや不安を抱え、多くの時間と費用をかけてこられています。
「本当に改善できるのか」
「また同じ結果にならないか」
そうした不安を抱えて来院される方は少なくありません。
修正手術では、
不足している組織・過剰な組織・位置のずれている組織を正確に把握し、必要な部分を適切な位置へ整え直すことが重要 です。
これは、新しい操作を加える前に、現在の構造を正確に理解することが欠かせないという意味でもあります。
猫貴族手術による土台の改善や、肋軟骨を用いた支持構造の再建は、状況に応じて選択されるひとつの方法にすぎません。
しかし、土台の後退や支持組織の不足が明確な症例では、解剖学的に見て合理的なアプローチとなる場面があります。
形成外科専門医として、私はまず CT撮影などによる現状の正確な評価 を重視しています。
骨格・軟骨・瘢痕の状態を把握したうえで、どこまで再建が可能か、どの方法が現実的かを、患者様と一緒に整理しながら進めていきます。
決して無理をするのではなく、再建可能な範囲を明確にし、長期的に安定する形を目指すこと。
それが修正手術において最も大切だと考えています。




