【専門医解説】のっぺり顔・口ゴボの原因は中顔面陥没|最新の改善アプローチ

この記事は 前田 翔 医師(形成外科専門医・美容外科専門医) が監修しています。

顔の立体感を決める重要な要素のひとつが「中顔面」です。
中顔面とは、鼻の付け根から上顎骨の前方部にかけての領域を指し、顔の中央を支える土台として機能しています。

この中顔面の支持が十分でない場合、いわゆる 「中顔面陥没」 と呼ばれる状態になります。

中顔面陥没があると、

  • 正面からは「顔が平坦」「影が入りやすい」「老けて見える」
  • 側面からは「口元が突出して見える=口ゴボ様の印象」
    といった変化が生じます。

この状態は歯列や顎の形態異常と混同されやすく、誤った治療選択につながることも少なくありません。
本稿では専門医の立場から、中顔面陥没の構造的な理解と、骨格レベルでの改善方法について解説します。

目次

中顔面陥没とは?

中顔面とは、眼窩下縁から上唇の上にかけて、顔の中央を占める領域を指します。
美容外科的に問題となるのは、特に鼻翼基部(小鼻の付け根)や鼻柱基部(鼻柱の根元)を含む、口元と鼻を支える土台の部分です。
この支えが不足すると、顔が平坦に見えたり、口元が強調されて「口ゴボ」のように見える原因となります。

鼻翼基部・鼻柱基部の役割

  • 鼻翼基部は、小鼻の付け根にあたる部分で、鼻と口の境界を支えています。
  • 鼻柱基部は、鼻柱(左右の鼻孔を隔てる柱)の根元であり、上唇と鼻の接合点を形成します。
    この二つの基部が前方に適切な位置を保っていることで、顔の中心に自然な段差が生まれ、立体感が保たれます。

中顔面陥没があるとどう見えるか

中顔面陥没

鼻翼基部や鼻柱基部が後退していると、顔の中央が支えを失ったように見え、のっぺり・平坦な印象になります。その結果、ほうれい線が強調されたり、相対的に口元が前に出て見えることがあります。

このように、中顔面陥没は単なる「見た目の平坦さ」ではなく、骨格の支え不足が生み出す構造的な問題です。

口ゴボとの違いを専門医が解説

「横顔で口元が前に出て見える」という悩みは、しばしば 口ゴボ と呼ばれます。
しかし、すべてが歯列や顎の突出による“本当の口ゴボ”とは限りません。

骨格性の口ゴボ(歯列・顎骨が原因)

骨格性の口ゴボ:歯列や上下顎骨の位置異常による突出
  • 上顎骨や下顎骨の位置異常、あるいは歯列不正によって口唇が前方へ押し出されている状態。
  • 歯科矯正や顎の骨切り手術が適応となるケースが多い。

口ゴボ様に見える状態(中顔面陥没が原因)

中顔面の支え不足(鼻翼基部・鼻柱基部の後退)によって口元が前に出て見える状態
  • 歯列や顎は正常でも、鼻翼基部や鼻柱基部の後退により、相対的に口元が前に出て見える状態。
  • 実際には口が突出しているのではなく、「鼻と口の間の支えが足りない」ことが原因。

誤診のリスク

中顔面の支え不足による口ゴボは、しばしば 骨格性の口ゴボ(歯列や顎の突出) と混同されてしまいます。

しかしこの二つは原因がまったく異なるため、治療法も大きく変わります。

  • 骨格性の口ゴボ → 歯列矯正や顎の骨切り手術が適応
  • 中顔面の支え不足による見かけの口ゴボ → 猫貴族手術で基部の支えを補強するのが適応

もし誤って「歯列や顎が原因」と診断されてしまうと、

  • 不必要な歯列矯正
  • 効果の乏しい顎の骨切り手術

が行われ、本来の原因である 中顔面の支え不足 は解決されません。

結果として「治療を受けたのに改善しない」「むしろバランスが悪くなった」と後悔につながるケースも少なくありません。

“骨格性”か“中顔面陥没によるもの”かを正しく鑑別することが、治療方針の決定において極めて重要です。

中顔面陥没が強調されるケース(他院修正で多い)

中顔面陥没は先天的な骨格要因だけでなく、受けた施術によって強調されることもあります。
他院修正のご相談で多いのは、以下のようなケースです。

鼻先だけを高くした鼻整形

鼻尖形成やプロテーゼで鼻先だけを前方に出した場合、鼻翼基部や鼻柱基部が相対的に後退して見えることがあります。
その結果、鼻先と口元の距離が広がり、中央部分が凹んだような不自然な印象となります。

人中短縮を土台不足のまま行った場合

人中短縮術は鼻下を短くする効果がありますが、基部の支えが不十分な状態で切除すると、鼻柱基部がさらにめり込んで見えることがあります。
そのため「鼻下は短くなったが、立体感はむしろ失われた」というご相談も少なくありません。

誤った治療選択による悪化

「口元が出ている」と考え、歯列矯正や顎の骨切りを受けたものの、実際には中顔面陥没が原因だったケースもあります。
この場合、治療後も改善が得られず、むしろ顔全体のバランスを崩してしまうこともあります。

中顔面陥没を改善する代表的なアプローチ

①鼻の形成と猫貴族手術で“顔の中心”に自然な立体感をつくる

鼻中隔延長(肋軟骨) 鼻尖形成 鼻尖軟骨移植 猫貴族手術(肋軟骨) 外族人中短縮 他院修正 術後6ヶ月
鼻中隔延長(肋軟骨) 鼻尖形成 鼻尖軟骨移植 猫貴族手術(肋軟骨) 外族人中短縮 他院修正 術後6ヶ月

術式:鼻中隔延長(肋軟骨)、鼻尖形成、鼻尖軟骨移植、猫貴族手術(肋軟骨)、外側人中短縮、他院修正
術後:6ヶ月

本症例は、他院で人中短縮と鼻形成を受けた50代女性です。術後に「人中がまだ長く見える」「鼻先が下がって魔女鼻のように見える」といった悩みが残り、当院にご相談いただきました。

診察では、鼻先の変形に加えて鼻柱基部・鼻翼基部の凹みによる中顔面の支え不足が確認されました。そこで、異物を除去したうえで鼻中隔延長・鼻尖形成を行い、さらに猫貴族手術で基部を前方に補強。外側人中短縮と組織移植も組み合わせ、中顔面全体に立体感を与えました。

術後6ヶ月では、鼻先の角度と高さが安定し、人中と口元の間延び感が改善。中顔面の凹みが解消されたことで、Eラインも自然に整い、横顔・正面ともにバランスの良い印象となりました。

このように、鼻先を高くし、猫貴族手術で中顔面の凹みを持ち上げるとともに、人中短縮で唇のボリュームと形態を整えることで、Eライン全体を滑らかに整えることが可能です。

②鼻の形成と猫貴族手術で口元の突出感をやわらげる

︎鼻中隔延長(肋軟骨) ▶︎鼻尖形成 ▶︎鼻尖軟骨移植 ▶︎猫貴族手術(肋軟骨) 症例
︎鼻中隔延長(肋軟骨) ▶︎鼻尖形成 ▶︎鼻尖軟骨移植 ▶︎猫貴族手術(肋軟骨) 症例

術式:鼻中隔延長(肋軟骨)、鼻尖形成、鼻尖軟骨移植、猫貴族手術(肋軟骨)
術後:7ヶ月

本症例は、横顔でわずかな口元の突出感(いわゆる口ゴボ)を気にされていた患者様です。原因は歯列や顎ではなく、中顔面の軽度な陥没=鼻柱基部・鼻翼基部のボリューム不足によるものでした。

治療では、肋軟骨を用いた猫貴族手術で鼻柱基部・鼻翼基部を前方に補強し、中顔面の凹みを改善。同時に鼻中隔延長・鼻尖形成・鼻尖軟骨移植を行い、丸みの強かった鼻先を自然に整えました。これにより、顔全体の重心が前方に移動し、Eラインがバランスよく整いました。

術後7ヶ月では、中顔面が持ち上がったことで口元の突出感が軽減され、横顔が上品にアップデートされた印象に。鼻や口元といった単独のパーツではなく、顔全体の調和と動きの中で自然に見えるデザインを意識して仕上げています。

このように、鼻先を整えつつ猫貴族手術で基部を持ち上げることで、中顔面の陥没と口ゴボ様の印象を同時に改善することが可能です。

③全顔整形で中顔面を中心に立体感を再構築

おとがい形成(水平垂直) 鼻中隔延長(肋軟骨) 鼻尖形成 鼻尖軟骨移植 鼻翼縮小(内側) 隆鼻術(肋骨) 猫貴族手術(肋軟骨) 裏側人中短縮 人中窩形成 症例写真 術後1年
おとがい形成(水平垂直) 鼻中隔延長(肋軟骨) 鼻尖形成 鼻尖軟骨移植 鼻翼縮小(内側) 隆鼻術(肋骨) 猫貴族手術(肋軟骨) 裏側人中短縮 人中窩形成 症例写真 術後1年

術式:おとがい形成(水平垂直方向)、鼻中隔延長(肋軟骨)、鼻尖形成、鼻尖軟骨移植、鼻翼縮小(内側)、隆鼻術(肋軟骨)、猫貴族手術(肋軟骨)、裏側人中短縮、人中窩形成
術後:1年

今回ご紹介するのは、複数の施術を組み合わせて行った「全顔整形」の症例です。患者様はもともと整った骨格をお持ちでしたが、中顔面の支え不足や口元の間延び感を補正し、よりバランスの取れた立体感を目指しました。

治療では、肋軟骨を用いた猫貴族手術で鼻柱基部・鼻翼基部を前方に補強し、中顔面の凹みを改善。鼻中隔延長・鼻尖形成・隆鼻術を組み合わせて鼻の高さと角度を整え、さらに裏側人中短縮と人中窩形成で口元のバランスを調整しました。加えて顎の形成を行い、顔全体の前後バランスを最適化しています。

術後1年では、中顔面の陥没感が解消され、横顔のEラインが滑らかに整いました。鼻・人中・顎を含めた顔全体の連続性と調和が高まり、過度な変化ではなく「自然に垢抜けた」仕上がりとなっています。

このように、中顔面の支えを基盤にしながら、鼻・口元・顎を立体的に組み合わせることで、本来の魅力を引き出す全顔デザインが可能です。


今回ご紹介した症例のように、陥没した中顔面を持ち上げる主な方法は猫貴族手術です。ただし猫貴族単体ではバランスが崩れることも多く、鼻の形成と組み合わせることで中央全体の支えが整います。さらに口元のデザインも加えることで、横顔・正面の両方で自然な調和が生まれます。 このように、骨切りで骨を大きく動かさなくても、軟骨移植を中心としたアプローチで骨格レベルの改善が可能です。

治療法の選び方と注意点

中顔面陥没の改善には、「どの施術が本当に必要か」を正しく見極めることが不可欠です。

まず、ヒアルロン酸や脂肪注入によって一時的にボリュームを補う方法もあります。見た目の印象を多少やわらげることはできますが、これはあくまで“厚みを足すだけの処置”であり、骨格の支えを作る治療ではありません。根本的な改善にはつながらないため、僕としては中顔面陥没の治療として積極的にはおすすめしていません。

根本的に改善するためには、鼻中隔延長や鼻尖形成に加えて猫貴族手術を組み合わせる方法が有効です。鼻柱基部や鼻翼基部を前方に持ち上げ、中顔面の支えを再構築することで、平坦な印象を改善できるだけでなく、口ゴボ様に見える横顔のバランス改善にも直結します。

注意すべきは、誤った治療選択です。
中顔面の凹みを「歯並びや顎のせい」と誤診して矯正治療を行ったり、鼻先だけを高くしてしまうと、かえって凹みが強調されて不自然になることがあります。また、人中短縮だけを行った場合も、土台が不足したままなのでバランスを欠いた結果になりがちです。

実際、他院修正でご相談いただくケースでは「変化が少なかった」「むしろバランスが悪くなった」という声が少なくありません。その多くは、鼻翼基部や鼻柱基部の評価が不十分だったことが原因です。中顔面を整えるうえで、この基部の診断とデザインを治療計画に組み込むことは非常に重要です。

まとめ|中顔面陥没は“支えを再構築する治療”で改善できる

中顔面陥没は、一見すると「歯並び」や「口元の突出」と混同されやすい症状です。
しかし実際には、鼻柱基部や鼻翼基部の支え不足が原因となっていることが少なくありません。

注入治療で一時的にごまかすことはできますが、根本的な改善には至りません。
本当に必要なのは、鼻中隔延長や鼻尖形成と組み合わせた猫貴族手術で、顔の中心にしっかりと支えを作ることです。
これにより、横顔のEラインや口元の印象が自然に整い、正面から見たときの平坦さも改善されます。

もちろん、鼻だけでなく顔全体のバランスにあわせて口元の施術を組み合わせることもあります。
大切なのは、鼻や口元といったパーツ単体ではなく、顔全体の調和をどのようにデザインするかという視点です。

笑ったとき・話したときといった動きの中でも違和感がなく、長期的に安定した仕上がりを目指すことが、僕が最も重視している点です。

中顔面の凹みや口元のバランスにお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。骨切りをしなくても、軟骨移植を中心としたアプローチで骨格レベルの改善が可能です。

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