「小顔になりたい」「Vラインを綺麗にしたい」という思いで受けた骨切り手術。しかし、結果として顎の骨を失い、深刻な違和感に悩まされている方が増えています。
まずは、こちらの画像をご覧ください。他院での骨切り手術後に、顎の骨が大きく消失してしまった方の状態です。

このように骨がなくなってしまうと、単に見た目が損なわれるだけでなく、皮膚を支える土台が消え、ひきつれや不自然な質感を招きます。 今回は、こうした「骨の消失」という難症例に対し、自身の組織(肋軟骨)を用いて構造を復元する「顎再建手術」について解説します。
なぜ、顎の骨が「失われて」しまうのか
骨切り手術は、本来「不要な部分をミリ単位で調整し、理想のラインを整える」極めて精密な手術です。しかし、実際には以下のような理由で、本来残すべき骨まで失われてしまうケースが見受けられます。
過度な切除(オーバーリセクション)
「とにかく小顔にしたい」「顎を極限まで短くしたい」という患者様の強い要望に応えようとするあまり、解剖学的な安全域を超えて骨を切り取ってしまうケースです。骨は一度切り取ると二度と再生しません。流行の「Vライン」を追い求めるあまり、将来的な組織のたるみや構造の脆弱性を無視したデザインがなされることが、失敗の大きな要因となります。
術後感染による骨溶解
今回の症例でも大きな原因として考えられたのが、術後の細菌感染です。 手術そのものに問題がなくても、術後に重い感染が起きてしまうと、強い炎症反応によって周囲の骨が溶けてしまうことがあります。
異物注入による「誤魔化し」が招く違和感
骨を失った顎先を補うために、多くのクリニックではヒアルロン酸やレディエッセ、あるいはプロテーゼなどの注入・挿入手技が行われます。しかし、土台となる骨が大きく欠損している場合、これらはあくまで「一時的なボリュームアップ」という誤魔化しに過ぎません。
「ブヨブヨ」とした触感と不安定さ
骨という硬い土台がない場所に、柔らかいヒアルロン酸などを繰り返し入れると、顎先がブヨブヨとした締まりのない質感になってしまいます。 今回の症例の患者様が長年悩まれていた「強い違和感」や「ブヨブヨした触感」は、まさにこの土台の不在と、異物が組織を圧迫し続けていることによる拒絶反応に近いサインなのです。
組織の拘縮(ひきつれ)と限界
骨が失われ、そこに異物が長期間留まっていると、周囲の軟部組織は「拘縮(こうしゅく)」を起こし、ガチガチに硬く縮まってしまいます。こうなると、単に注入物を追加しても組織が押し返されてしまい、綺麗な形を作ることは物理的に不可能です。むしろ注入を繰り返すことで、さらに組織に負担がかかり、皮膚の質感が悪化するという悪循環に陥ります。
自身の組織「肋軟骨」による顎再建の意義
当院では、失われた顎先を「異物」で埋めるのではなく、ご自身の「肋軟骨」を用いて再建します。これは、単なる美容整形の枠を超え、形成外科・再建外科の高度な技術を必要とするアプローチです。
肋軟骨が「再建」に最適な理由
顎先は、食事や会話によって常に動き、強い圧力がかかる部位です。そのため、耳の軟骨(耳介軟骨)や鼻の軟骨(鼻中隔軟骨)では強度が不足し、吸収されてしまう恐れがあります。 一方、肋軟骨は以下の点で再建に最も適しています。
- 十分なボリューム: 下顎骨の欠損を補うのに十分な量を採取できる。
- 優れた強度: 顎の突出を維持するための硬度を持ち、変形しにくい。
- 自己組織としての定着: 自分の体の一部となるため、定着後は異物のような「ブヨブヨ感」がなく、感染に対しても強い抵抗力を持ちます。
神経機能を守り、拘縮を解除する
手術において最も重要なのは、単に軟骨を置くことではありません。 過去の手術や感染によって硬くなった組織の拘縮を丁寧に剥離し、元の柔軟な状態に戻す「スペースの確保」が必要です。この際、顎先の感覚を司る「下歯槽神経」を傷つけないよう、再建外科の精密な手技が求められます。 本症例では、一部保たれていた神経機能を温存しながら、肋軟骨を強固に固定し、顎の「構造」をゼロから作り直しました。
【症例分析】構造の復元がもたらす変化
こちらの画像群は、他院骨切り後の欠損に対し、顎の再建と鼻のトータルデザインを行った患者様の経過です。




顎先のライン:不自然な段差の消失
術前(before)の横顔を見ると、骨が失われた部分が凹み、その下の注入物だけが浮いているような、不自然な段差が見受けられます。 術後8ヶ月では、移植した肋軟骨が周囲の骨と一体化するように定着し、滑らかで力強い顎先のラインが形成されています。これにより、口元の突き出し感も改善され、上品な横顔へと変化しました。
鼻と顎の「黄金比」を再構築する
この患者様のように、骨切りで顔の土台が崩れてしまった場合、顎だけを直しても本当の美しさは取り戻せません。当院では以下の手術を同時に行い、顔全体の構造を整えました。
- 鼻中隔延長・隆鼻術(肋軟骨使用): 顎の突出に合わせて、鼻先を高く、長く調整し、理想的なEラインを形成。
- 猫貴族手術(鼻翼基部プロテーゼ/軟骨移植): 鼻の付け根の凹みを改善し、中顔面の平坦さを解消。
骨切り手術の真実:流行ではなく「適応」
骨切り手術は、近年非常に身近な選択肢になりました。しかし、同時に「取り返しがつかないリスク」があることも忘れてはいけません。
SNSで見かける「極細のVライン」や「顎を極限まで短くする」デザインは、あくまで一時的な流行に過ぎないことがあります。人間には、皮膚を支え、表情を作るために必要な「骨の量」というものがあります。それを無視して削りすぎれば、今回のような骨の消失や、数年後の深刻なたるみを招くことになります。
大切なのは流行を追うことではなく、ご自身の骨格構造と、それに対する「適応」を見極めることです。そして万が一、もし他院の手術で本来の構造が損なわれているのであれば、表面的な処置を繰り返すのではなく、土台から作り直す「再建」という選択肢を検討していただきたいと考えています。
まとめ
顎の再建手術において僕が最も重視しているのは、単に外見を整えることではなく、解剖学的に無理のない「本来あるべき構造」へ戻すことです。
本症例のように、術後8ヶ月が経過して移植した肋軟骨が周囲の骨と馴染み、自身の組織として定着した状態は、構造的な復元が成功した一つの指標と言えます。難易度の高い他院修正であっても、形成外科・再建外科の知見を用いれば、機能を守りながら土台から作り直すことが可能です。
骨切り手術後の「削りすぎ」や不自然な違和感に悩まれている方は、ヒアルロン酸などの表面的な処置を繰り返すのではなく、構造そのものを見直す「再建」という選択肢を検討していただきたいと考えています。
