【修正症例】「異物」に「異物」を重ねる代償。30年前のプロテーゼ+メッシュが招いた「鼻尖部の崩壊」と、自家組織による完全再建

鼻先が赤く腫れ上がり、内部の膿が今にも破裂しそうな状態で来院された今回の患者様。 一見してわかる皮膚の緊張と、内側から圧迫されたような強い赤みは、内部で深刻な感染が進行していることを示していました。

なぜ、ここまで事態が悪化してしまったのか。 問診を進めると、その背景には、美容医療において「避けるべき組み合わせ」が行われていたことが分かりました。

それは、長期間体内に入っていた「古いプロテーゼ」の上に、「メッシュ(オステオポール等)」を重ねてしまったという点です。

今回のコラムでは、この患者様のケースをもとに、異物を重ねることの医学的リスク、進行する「アバター化」と「魔女鼻」変形の原因、そしてそれを自家組織のみで立て直した再建手術について解説します。


目次

30年前の「L型」に、現代の「メッシュ」を乗せるリスク

本症例は、長期間留置されていたプロテーゼの上に、新たにメッシュを挿入したことが感染の直接的な原因です。

終わらない感染の理由:バイオフィルムの形成

患者様は約30年前に「L型プロテーゼ」による隆鼻術を受けていました。 そして最近になり、他院で「鼻先をもっと高くしたい」と希望したところ、その古いプロテーゼが入ったままの状態の上に、鼻先を高くする「メッシュ(オステオポール)」を挿入されたそうです。

しかし、挿入からわずか1週間後に感染が発生しました。 そのクリニックでメッシュだけを抜去したものの、感染は治まりませんでした。 これは、感染源である細菌が、土台にある古いプロテーゼや、その周囲に形成された被膜(カプセル)にまで波及していたためと考えられます。

長期間体内にあるプロテーゼには、「バイオフィルム」と呼ばれる菌の膜が形成されていることが少なくありません。普段は免疫によって抑え込まれていますが、メッシュ挿入という新たな侵襲(手術)をきっかけに、細菌が活性化し、治まりにくい感染を引き起こすことがあります。

診察時の所見:「浮いている」プロテーゼと組織の溶解

当院に来院された際の状態は、非常に危険なものでした。

  • 鼻尖部の発赤・腫脹:内部に膿が溜まり、皮膚が限界まで引き伸ばされ、破裂のリスクがある状態でした。
  • プロテーゼの浮動:鼻筋を触ると、プロテーゼがプニプニと動き、完全に浮いている状態でした。これは、周囲の組織が強い炎症によってドロドロに溶け(融解し)、プロテーゼと組織の接着が失われているサインです。

実際の診察時の様子を、動画でご覧ください。 ※手術中の映像を含みますので、苦手な方はご注意ください。

「魔女鼻」への変形メカニズム

動画内でも解説していますが、この方の鼻先は「魔女鼻」のような変形を来していました。

本来、L型プロテーゼによって支えられていた鼻先ですが、感染によってプロテーゼが異物として排除されようとする力が働き、同時に周囲の支持組織(鼻翼軟骨など)が炎症で脆くなってしまいました。 その結果、鼻先の皮膚と軟骨が重力と圧迫に耐えきれず、下方へ垂れ下がるように崩れてしまったのです。 これは見た目の問題だけでなく、鼻の構造そのものが破壊されつつある危険な状態です。


「アバター化」の病理と複合異物のリスク

この症例のように、異物トラブルで多く見られるのが、鼻全体が太く隆起する「アバター化」です。

なぜ鼻は太くなり続けるのか

「プロテーゼを入れた当初はスッとしていたのに、年々鼻筋が太くなってきた気がする」 そう感じる患者様は少なくありません。 これは、入れているプロテーゼ自体が太ったわけではありません。異物に対する慢性的な炎症反応により、周囲の組織(被膜や皮下組織)が分厚く線維化してしまうことが原因です。

今回のケースのように、プロテーゼの上にさらにメッシュを足すという行為は、この炎症反応を助長させます。 炎症を起こした組織は、むくみ(浮腫)、硬くなり、本来の鼻筋のラインを失わせてしまいます。 これが「アバター鼻」の状態であり、吸収されるはずのメッシュが逆に鼻を太くしてしまう原因の一つです。

「皮膚壊死」と「穿孔」の危険性

さらに注意が必要なのが、皮膚へのダメージです。 炎症を起こして血流が悪くなっている組織の中に、プロテーゼやメッシュなどの異物が詰め込まれている状態は、皮膚にとって負担が大きいです。 内側からの圧迫と、炎症による組織の劣化が重なると、皮膚の血流が途絶え、「皮膚壊死」を起こします。 最悪の場合、異物が皮膚を突き破って外に出てくる「穿孔」に至ります。

今回の患者様も、皮膚が薄く引き伸ばされ、穿孔の一歩手前でした。 ここまで進行すると、単に異物を抜くだけでは済まない場合があり、皮膚の欠損や傷跡を残すリスクが高まります。


感染源の除去と自家組織による再建

感染を起こしている「複合異物」の場合、治療は「感染源の除去」と「構造の再建」を確実に行う必要があります。

Step 1:感染源の完全除去(デブリードマン)

まず優先すべきは、感染源の徹底的な除去です。 「とりあえずプロテーゼだけ抜いて様子を見る」という対応では不十分なケースが多いです。

手術では、鼻の中を切開し(オープン法)、直視下で以下の処置を行いました。

  1. 30年物のL型プロテーゼの摘出:感染の温床となっていた古いシリコンを除去。
  2. 残存メッシュと被膜の切除:以前の手術で取りきれていなかったメッシュの破片や、炎症で分厚く石灰化した被膜(カプセル)、感染した不良肉芽を徹底的に掻き出します。

これを医学用語で「デブリードマン(感染・壊死組織の除去)」と言います。 この処置を徹底しない限り、赤みや腫れは引かず、再発のリスクが残ります。

Step 2:自家組織による「失われたボリューム」の置換

異物を抜き、炎症組織を除去すると、その分だけ鼻の体積が減ります。 さらに、長期間の圧迫と感染で、もともとの鼻翼軟骨は変形し、薄くなっています。

つまり、除去した直後の鼻は、支持性が弱く、皮膚もダメージを受けた状態です。 ここで「除去だけ」に留めると、鼻が低くなったり、変形が残ったりしてしまいます。 かといって、感染を起こしている組織に、再びシリコンなどの人工物を入れることは再感染のリスクが高く、推奨されません。

そこで必要になるのが、「自家組織(患者様自身の組織)」による再建です。 この状況で僕が第一選択とするのは、「肋軟骨」と「軟骨膜」です。

  • 肋軟骨による構造再建: 耳の軟骨では強度が足りず、鼻中隔軟骨はすでにダメージを受けていることが多いです。その点、肋軟骨は量も豊富で、十分な強度があります。 感染に強い自分の組織でありながら、傷んだ鼻を内側から支える柱を作り直すことができます。
  • 軟骨膜によるボリューム補填: プロテーゼの厚みの分を補うために、肋軟骨を包んでいる膜(軟骨膜)や、細かく砕いた軟骨を使用し、鼻筋になめらかな高さを出します。

こうして、異物を使わず、自分の組織だけで鼻の構造を作り直しました。


実際の症例経過

それでは、実際の修正手術の結果をご覧ください。

左 術前:右 術後
左 術前:右 術後

術前: 鼻先が赤く腫れ上がり、皮膚が薄くなっていることが確認できます。 また、感染と組織のダメージにより支持力が失われ、鼻先が下方へ垂れ下がる「魔女鼻」のような変形が生じていました。慢性的な炎症による浮腫(むくみ)で、鼻筋のラインも太く不明瞭になっています。

術後: 異物除去と自家組織による再建を行った後の状態です。 まず、感染源がなくなったことで皮膚の赤みと緊張が消失し、正常な肌の状態に戻りました。 形状については、肋軟骨で強固な支柱を作り直したことで、垂れ下がっていた鼻先が適切な位置に持ち上がっています。これにより、鼻筋から鼻先にかけて、自然で美しいカーブが形成されました。 機能的な回復とともに、見た目においても「重たく垂れ下がった鼻」から「洗練された鼻」へと修復されています。


まとめ

今回の患者様は、プロテーゼの上にメッシュが重ねて挿入されていた症例です。 そのメッシュが感染し、除去したあとも炎症が続き、鼻の組織がダメージを受けていました。

ここでお伝えしたいのは、「異物を安易に重ねて入れる」ことのリスクです。 すでに異物が入っている場所に、さらに別の異物を追加すると、感染リスクが高まります。 一度感染すれば炎症が長引き、皮膚が薄くなり、最悪の場合は異物が露出することにつながります。

異物の使用には、慎重な判断が必要です。

MAe Clinic では、以下の3つを徹底しています。

  1. 必要最小限の操作:組織へのダメージを抑えること。
  2. 経年変化を見据えたデザイン:長期的な経過を考慮すること。
  3. 異物を無闇に入れない安全第一の方針:リスクの高い異物の挿入は行わないこと。

もし今、鼻の違和感・赤み・痛み・曲がりがある方は、組織の状態が悪化する前に、早めにご相談ください。 現状を正確に診断し、適切な治療をご提案します。

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