「鏡を見るたび、胸が外側を向いているのが気になる」 「寄せるブラを外すと、胸が離れてしまい谷間が消える」 「胸の真ん中の骨が浮き出ていて、貧相に見えるのがコンプレックス」
バストの悩みといえば「大きさ」や「垂れ」が注目されがちですが、実は多くの女性が人知れず悩み、解決策が見つからずにいるのが「離れ乳(外向きバスト)」です。
カウンセリングで胸を見せていただくと、ご自身で「私は胸が小さいから離れているんだ」と思い込んでいる方が多くいらっしゃいます。しかし、医学的な視点で診察すると、その原因は単なる大きさの問題ではなく、骨格、靭帯、そしてライフステージによる変化など、複合的な要因が絡み合っています。
特に「骨格が原因」と診断されると、「生まれつきの骨格なら治せない」と諦めてしまう方がいらっしゃいますが、それは誤解です。 確かに骨格そのものを手術で変えることはできません。しかし、脂肪注入の「デザイン(配置)」と「層(レイヤー)」を緻密に計算することで、視覚的に骨格のハンデを修正し、理想のバランスに整えることは十分に可能です。
本記事では、離れ乳を引き起こす5つの根本原因と、骨格のハンデを克服する「立体的デザイン注入」について、50代・痩せ型の方の実症例を交えて解説します。
なぜ胸は離れてしまうのか?5つの原因
離れ乳の原因は一つではありません。複数の要因が組み合わさっていることも多くあります。 医学的には、主に以下の5つの要因が考えられます。
原因1:生まれつきの「骨格」と「乳腺の付着部位」
最も根本的かつ、ご自身での改善が難しいのが「骨格」の問題です。
- 胸郭(きょうかく)の広さと形状: バストの土台である肋骨(胸郭)の幅が広い場合、その上に乗るバストの距離も自然と遠くなります。特に注目すべきは、胴体の断面形状です。 日本人は比較的扁平な「平胴」が多いとされますが、離れ乳に悩む方の多くは、胴体が丸い筒状に近い「丸胴(まるどう)」タイプです。丸胴の方は、身体の中心から脇にかけてのカーブ(湾曲)が急であるため、バストトップ(乳頭)が自然と外側(斜め45度〜真横)を向きやすい構造になっています。
- 乳腺の付着位置: そもそも乳腺組織が、身体の外側寄りに発達しているケースもあります。
- 大胸筋の発達不足: バストの土台となる大胸筋の内側が弱いと、胸を中央に引き寄せる力が弱くなります。
これらは遺伝的要因も大きいです。
原因2:授乳後の「乳腺萎縮」と「靭帯の緩み」
出産・授乳を経験された方に非常に多いパターンです。 妊娠中は女性ホルモンの影響でバストが一時的に大きく膨らみます。しかし、授乳が終わると「乳腺」は萎縮して小さくなります。
問題は、一度伸びてしまった「皮膚」や、バストを吊り上げている「クーパー靭帯」です。これらはゴムのように伸縮自在ではないため、中身(乳腺)が小さくなっても、伸びたままの状態になります。 「中身が減って、皮だけが余っている」状態になるため、重力に負けてバストが外側・下方へと流れやすくなってしまうのです。「授乳前は気にならなかったのに」という方が多いのはこのためです。
原因3:加齢による「組織の変化」と「重力」
30代後半から40代以降にかけて顕著になるのが、加齢による変化です。
- 皮膚の弾力低下: 肌のハリを支えるコラーゲンやエラスチンが減少することで、バストを中央の高い位置に留めておく力が弱まります。
- 乳腺の脂肪置換: 若い頃のバストは、硬さのある「乳腺組織」が主体ですが、年齢とともに乳腺が減少し、柔らかい「脂肪組織」へと置き換わっていきます。脂肪は流動性が高いため、寝ている時やノーブラの時間に、重力に従って外側へ「液状化」するように流れてしまいやすくなります。
原因4:体重変動による「ボリュームロス」
過度なダイエットや急激な体重減少も一因です。 脂肪が落ちてバストのボリュームが減ると、授乳後と同様に、皮膚との間に隙間が生まれます。 中身が詰まっていれば張りで形を維持できますが、支えを失ったバストは、より低い位置、より外側へと移動してしまいます。「痩せたら胸から落ちて、離れてしまった」というお悩みが多いのはこのメカニズムによるものです。
原因5:生活習慣による「形状崩れ」
日常的なブラジャーの選び方や習慣も、長い年月をかけてバストの形を変えてしまいます。
- カップが大きすぎる: 隙間があるとバストが動き、定位置が定まりません。
- ワイヤーが合わない: バージスライン(胸の輪郭)を正しくホールドできていないと、脂肪が背中や脇に逃げてしまいます。
- サポート力不足: 楽だからといって、ホールド力の弱いスポーツブラやカップ付きキャミソールばかり着用していると、重力を支えきれず、徐々に外向きの癖がついてしまいます。
本症例の主原因「丸胴」骨格へのアプローチ
今回、ご紹介する症例の患者様は、上記の原因のうち「原因1:骨格」の要素が非常に強いタイプでした。 「丸胴」かつ「痩せ型」の離れ乳に対しては、特に慎重な治療計画が必要です。
痩せ型×丸胴の特徴
このタイプの方は、肋骨のカーブが強いため、バストトップが外を向いているだけでなく、胸の中央(正中線)にある胸骨や肋骨の形が皮膚表面に浮き出ていることが多いです。 骨のゴツゴツとした質感や、左右のバストの間にある「平らな余白」が目立ってしまうことで、視覚的に「左右の胸が遠い」という印象が強められてしまいます。
従来の豊胸術(シリコンバッグ)の限界
このような「骨格性の離れ乳」に対して、安易にシリコンバッグ豊胸を行うことは推奨できません。 シリコンバッグは、あらかじめ形の決まった人工物であり、底面は平らです。これをカーブの強い丸胴の骨格に乗せると、どうなるでしょうか。
- 位置のズレ: バッグが骨格のカーブに沿って外側に滑り落ちてしまい、脇の方へ流れてしまうリスクがあります。
- 不自然な段差(リップリング): 谷間を作ろうと無理に内側(正中線寄り)にバッグを入れると、皮膚の薄い中央部分でバッグの縁(エッジ)が浮き出てしまい、「お椀を貼り付けたような」不自然な見た目になります。
つまり、骨格性の離れ乳を自然に修正するには、「既製品」を入れるのではなく、「オーダーメイド」で形を作る技術が必要不可欠なのです。
専門医が教える解決策「立体的デザイン注入」とは
そこで当院が推奨しているのが、ご自身の脂肪を用いた豊胸術です。しかし、ただ脂肪を入れれば良いわけではありません。重要なのは「どこに、どの深さで、どれだけ入れるか」というデザインです。 具体的には、次のような工夫を取り入れてデザインしていきます。
視覚的な中心をずらす「錯視効果」
骨格を変えることはできませんが、「バストの頂点(ピーク)」に見える位置を変えることはできます。 通常の豊胸ではバスト全体に均一に脂肪を入れますが、離れ乳修正の場合は、外側への注入は必要最小限に留めます。その代わり、「内側(デコルテ〜谷間ライン)」に重点的に脂肪を配置します。
バストの内側のボリュームを増やすことで、胸のトップの位置が内側にシフトしたように見えます。これにより、実際の乳頭位置がそのままでも、正面から見た時に「胸が中心に寄っている」という視覚効果(錯視)を生み出すことができるのです。
マルチプレーン注入(多層注入法)
痩せ型で皮膚が薄い方の場合、1箇所に大量の脂肪を入れると「しこり」のリスクが高まります。また、のっぺりとした不自然な胸になりがちです。 そこで当院では、以下の4つの層を使い分けて、ミルフィーユのように脂肪を丁寧に重ねていきます。
- 大胸筋内・大胸筋下(最深部): 土台となるボリュームを作ります。
- 乳腺下(中間層): バストの本体を形成し、高さを出します。
- 皮下脂肪層(浅層): 表面の滑らかなラインを作り、触り心地を調整します。
- 【重要】前胸部(デコルテ・谷間)の移行部: 胸骨の上の薄い皮膚の下に、ごく微量の脂肪を膜のように敷くことで、骨っぽさを消し、谷間の「影」を作ります。
この注入法により、骨格のカーブになじむ自然な傾斜を作り出し、自然な谷間を形成します。
【実際の症例】50代・痩せ型・離れ乳を克服した実症例
当院で「骨格性の離れ乳」と「デコルテの削げ」を改善された患者様の症例を詳しく解説します。

患者様プロフィール
- 年代: 50代女性
- 体格: 身長152cm / 体重42kg(BMI 18.2 / 痩せ型)
- バストの状態: 授乳歴なし・豊胸歴なし
- お悩み:
- ずっとコンプレックスだった「離れ乳」をどうにかしたい。
- 年齢とともにデコルテが寂しくなってきた。
- 50代という年齢や、痩せている体型でもできるか不安。
診断とデザインプラン
【診断】 典型的な「丸胴」タイプの骨格です。肋骨のカーブが強く、バストトップが外側を向いています。また、痩せ型であるため、正中線(胸の真ん中)の肋骨が浮き出ており、これが左右のバストの距離をより遠く見せています。
【今回の施術プラン】
- 脂肪採取: 42kgという体重のため、1箇所からは十分な脂肪が取れません。大腿(太もも)全面と腹部から、質の良い脂肪を丁寧に採取し、コンデンス(濃縮)加工を行いました。
- 注入計画: 片側190mlという、この体格にしては多めの量を注入します。ただし、外側に広げると太って見えるため、注入量の約6〜7割を「内側半分」と「デコルテ」に集中させます。
術後6ヶ月の変化




POINT 1:骨格の「余白」が埋まり、自然な谷間が出現
術前は左右のバストの間に、平らなスペースがありましたが、術後はこの部分に内側からなだらかな傾斜ができています。 ふっくらとした自然な谷間に仕上がりました。
POINT 2:内側からの立ち上がり
横や斜めのアングルから見ると、デコルテの変化がよく分かります。 以前は鎖骨の下に骨感がありましたが、術後は内側からふっくらと立ち上がるラインになりました。デコルテがふっくらすることで女性らしい丸みが生まれ、鎖骨もきれいに見えています。
POINT 3:どの角度から見てもバレない自然さ
もう一つ大切なのが、「いかにも」といった不自然さがない点です。 シリコンバッグで寄せすぎた時に見られるような、くっきりとした境界線はありません。皮下脂肪の層と馴染むように境目をぼかして注入しているため、寝転がった時も自然に流れる柔らかさです。
この手術のメリット・デメリットとリスク管理
どれほど優れた手術にも、メリットとデメリットが存在します。
メリット
- 触り心地・揺れ方が本物:
自分の組織なので、異物感が全くありません。 - 痩身効果:
脂肪を採取した太ももやお腹はサイズダウンするため、全身のスタイルアップが叶います。 - メンテナンスフリー:
一度定着した脂肪は、基本的には半永久的に自分の身体の一部として残ります。シリコンバッグのような破損の心配は不要です。
デメリット・リスク
- 定着率の個人差:
注入した脂肪の全てが残るわけではありません。一般的には60〜70%程度が定着しますが、喫煙や術後の圧迫、体質によって変動します。 - しこり(石灰化・オイルシスト)のリスク:
1箇所に塊で注入すると、中心部が壊死してしこりになるリスクがあります。これを防ぐために、当院では前述の注入法と、直径数ミリ単位で細かく注入する方法を徹底しています。 - ダウンタイム:
胸よりも、脂肪を採取した部位(足やお腹)の筋肉痛のような痛みや内出血が1〜2週間程度続きます。
まとめ
「私の胸は、骨格のせいだから仕方ない」 そう考えて、長年コンプレックスを解消できずにいる方は少なくありません。
しかし、今回ご紹介した症例のように、骨格そのものは変えられなくても、脂肪の配置を工夫することで、見た目のバランスを整えることは医学的に可能です。
豊胸手術において重要なのは、単に「何cc入れるか」という量だけではありません。 「骨格の特徴」 「現在の皮膚の厚みや状態」 これらを冷静に診断し、無理のない範囲でその方に合った計画を立てられるかが、自然な仕上がりを左右します。
カウンセリングにてお一人おひとりの状態を拝見し、「どこにどう注入すれば、離れ乳が目立たなくなるか」を具体的にシミュレーションいたします。ぜひお気軽にご相談ください。
【このコラムの症例の施術概要】
- 施術名: コンデンスリッチ脂肪豊胸(脂肪注入豊胸)
- 施術内容: ご自身の皮下脂肪(太もも・腹部等)を採取し、不純物を除去・濃縮した上でバストに注入する手術です。
- リスク・副作用: 腫れ・内出血(2週間程度)、疼痛(筋肉痛程度)、感染、石灰化、しこり形成、左右差など。
- 費用: コンデンスリッチ脂肪注入豊胸:¥1,100,000
※2025年12月時点での施術料金です。
※これ以外に、他院修正代・検査費用・麻酔費用等がかかることがあります。
※モニター等で変動があります。





