この記事は 木下 恵里沙 医師(形成外科専門医・美容外科医) が監修しています。
「豊胸手術」と聞くと、多くの方がまず思い浮かべるのは“大きな胸”ではないでしょうか。
確かにある程度のボリュームは女性らしさを強調しますが、それだけで「美しい胸」とは言えません。
私が形成外科専門医として大切にしているのは、
- 自然な丸み
- 左右差の少なさ
- 適度なハリ
- 体型とのバランス
この4つが揃った胸をデザインすることです。
特にやせ型の方は「脂肪がないから無理」「バッグを入れるしかない」と思い込んでしまうことが少なくありません。
しかし実際には、やせ型でも脂肪注入豊胸は十分可能です。
本記事では、痩せていても自然に叶う脂肪注入豊胸について、デザインの工夫や実際の症例を交えながら解説していきます。
痩せ型の方に多い悩みと不安
やせ型の方からは、豊胸に関して次のようなお悩みをよく伺います。
「脂肪が少ないから、私には脂肪注入はできないですよね?」
「シリコンバッグを入れるほど大きくしたいわけではないんです」
こうした声は非常に多いです。
確かに痩せていると脂肪採取の量が限られるため、カウンセリング時に「バッグでしか方法がない」と説明されてしまうケースも少なくありません。
また痩せ型の方特有の悩みとして、
- デコルテの骨っぽさが目立つ
- バスト上部が平坦で“のっぺり”見える
- 薄手の洋服や水着を着たときにボディラインが寂しく感じる
といった特徴があります。
「大幅なサイズアップを望んでいるわけではないけれど、少しでも自然に女性らしい丸みがほしい」──。
このようなニーズは非常に多く、実際にはバッグを入れるよりも脂肪注入の方が適しているケースもあります。
やせ型の方にとって大切なのは、「どれだけ入れるか」ではなく「どのように入れるか」 という点です。
つまり、限られた脂肪をうまくデザインしながら注入すれば、自然なふくらみを実現することができるのです。
脂肪注入豊胸の特徴と魅力
脂肪注入豊胸は、自分の体から採取した脂肪をバストに移植する方法です。
シリコンバッグなどの人工物を入れる手術と大きく異なるのは、“自分の組織を使う”という安心感と、自然な仕上がりです。
自然な柔らかさと触感
バストを触ったとき、脂肪注入では「自分の胸と同じ柔らかさ」が得られます。
シリコンバッグ特有の張り感や異物感がなく、温かみや質感が自然なのが最大の魅力です。
オーダーメイドでデザインできる
脂肪注入の大きな利点は、「どこに・どのくらい」入れるかをデザインできることです。
例えば、
- 上胸のボリュームを足してデコルテをふっくら見せたい
- 下乳を丸くして自然なアンダーラインを作りたい
- 左右差を整えたい
といった希望に合わせて調整できます。
これは“単に胸を大きくする手術”ではなく、体型や骨格に合わせた美しい胸をつくる手術だといえます。
デメリット・リスクもある
もちろん脂肪注入にも課題があります。
脂肪は100%定着するわけではなく、一部は吸収されてしまいます。
また脂肪が固まってしこりになることや、左右差が残る可能性もあります。
それでも、異物を入れず自分の組織で仕上げられることから「自然さを重視したい方」「控えめでナチュラルな変化を望む方」には大きなメリットがあります。
デザインの工夫が仕上がりを左右する
脂肪注入豊胸で自然な仕上がりを得るために最も大切なのは、「どこに・どのように」脂肪を配置するかというデザインです。
単に胸に脂肪を注入するだけでは、不自然な丸みや“のっぺり感”につながることもあります。
アンダーライン形成
正面から見たときの胸の印象を大きく左右するのが、アンダーバストのラインです。
下乳が直線的だと、どうしても「豊かさ」に欠けた印象になります。
そこで、脂肪を下方に沿って配置することで、なだらかな曲線を描くアンダーラインをつくり、より女性らしい胸の形をデザインします。
トップ位置の調整
乳頭の位置が外側や上方にずれていると、全体のバランスが崩れてしまいます。
注入位置を微調整することで、「バストトップが胸の中央にくる」ように整えることが可能です。
このわずかな位置の違いが、仕上がりの自然さを大きく左右します。
デコルテ補正
痩せ型の方に多いのが「デコルテが骨っぽく見える」お悩みです。
上胸部の凹みにピンポイントで脂肪を注入することで、ふんわりと柔らかい印象に仕上げられます。
これにより胸だけでなく“首から胸元にかけての美しいライン”をつくることができます。
このように、脂肪注入豊胸は 「入れる量」よりも「入れる場所」 が仕上がりを決めます。
オーダーメイドで一人ひとりの骨格・胸の形・体型に合わせてデザインすることが、自然な美しさを実現する最大のポイントです。
症例紹介:やせ型でも叶う自然なボリュームアップ






今回ご紹介するのは、40代女性・身長157cm・体重44kg の患者様です。
過去にヒアルロン酸豊胸を受けられていましたが、「思ったより長持ちしない」「しこりができるのではと不安」と感じ、より自然で安心できる方法を探して当院を受診されました。
患者様のご希望は、
「すごく大きくしたいわけではないけれど、夏に薄着や水着を着るときに、少しふくらみが欲しい」
というものでした。
手術内容
- 脂肪採取部位:大腿後面
- 注入量:右220ml/左225ml
- 注入の工夫:
- アンダーラインを丸く形成
- バストトップの位置を中央に調整
- デコルテの痩せ感を補正
結果
術後3ヶ月の時点で、脂肪はデザイン通りに定着。
正面からはアンダーバストに自然な丸みが生まれ、横から見てもふんわりとしたカーブが形成されました。
痩せ型であっても「無理なく、体型に合ったバストアップ」が可能であることを示す症例です。
リスクと注意点
脂肪注入豊胸は安全性の高い施術ですが、次のようなリスクがあります。
- 出血や血腫
- 感染
- 脂肪壊死によるしこり
- 脂肪の吸収による左右差・物足りなさ
- 脂肪採取部(大腿・腹部など)の凹凸や拘縮
まとめ
脂肪注入豊胸は、単に胸を大きくするための手術ではありません。
大切なのは「どれくらい入れるか」ではなく「どのように配置するか」という点です。
やせ型の方でも、大腿や腹部から少量ずつ脂肪を採取し、アンダーライン・トップ位置・デコルテをバランスよくデザインすることで、自然で女性らしい胸をつくることが可能です。
今回の症例のように、「すごく大きくしたいわけではなく、少しふくらみが欲しい」「自然に見える仕上がりを求めたい」という方にとって、脂肪注入豊胸は非常に現実的で満足度の高い選択肢となり得ます。
もちろんリスクはゼロではありませんが、オーダーメイドのデザインと丁寧な注入技術によって、痩せ型でも安全に、そして自然な仕上がりを目指すことができます。
私は形成外科専門医として、これまで乳がん術後の乳房再建にも数多く携わってきました。
「胸の形をゼロから再建する」という経験は、美容領域での脂肪注入豊胸にも直結しています。
ただ大きくするのではなく、一人ひとりに合った“美しい胸”をデザインすること──それこそが私のこだわりです。