脂肪注入豊胸はどこに打つと定着しやすい?皮膚・乳腺・筋膜の層別注入を専門医が解説


脂肪注入による豊胸は、ナチュラルな見た目・柔らかさ・異物感のなさなどから、近年ますます人気が高まっています。

ただ、初めてこの施術を検討される方からよく聞かれる質問があります。

「脂肪って…どこに入れるんですか?」
「皮膚の下?それとも中?何層もあるんですか?」

実はこの「どこに打つか」は、仕上がり・定着率・しこりリスクに大きく関わる、とても重要なポイントなのです。

私はこれまで、形成外科専門医として乳房再建や豊胸を数多く手がけてきました。
その中で痛感しているのが、「どこにどれだけ、どうやって打つか」で、結果はまったく変わるということ。

今回は、“脂肪をどの層に入れるか”に着目しながら、

  • 層によってどう違うのか
  • 医学的に「定着しやすい層」はどこか
  • しこりや失敗を防ぐために医師がしている設計とは

といったテーマを、医学的に、でも分かりやすくお伝えします。


目次

脂肪注入豊胸の基本と“定着”のしくみ

脂肪注入豊胸では、自分の体から吸引した脂肪をバストに注入して、ボリュームと形を整えていきます。

ただし、注入された脂肪はすべてが生き残るわけではなく、ある程度は吸収・消失してしまいます。

定着のしくみ(基本)

  1. 採取した脂肪を、適切に処理(コンデンスリッチ法など)
  2. 脂肪をバスト内の組織に注入
  3. 注入された脂肪が、周囲組織から血流(酸素・栄養)を得て生着
  4. 生着しなかった脂肪は、吸収または壊死して体に吸収される

この“定着”を成功させるには、「脂肪が生き延びやすい環境に、丁寧に置いてあげること」が最も大切です。
その環境の違いを決めるのが、「どの層に打つか」なのです。


バストの解剖を知る|皮膚・乳腺・筋膜・筋肉、それぞれの層とは

脂肪注入を正確に理解するには、まずバストの構造(層構造)を知っておくとイメージしやすくなります。

バストは、おおまかに以下の層でできています:

  1. 皮膚(表面)
  2. 皮下脂肪層(皮膚のすぐ下)
  3. 乳腺層(乳管を含む脂肪組織の混在領域)
  4. 乳腺下脂肪層/筋膜上層
  5. 大胸筋
  6. 肋骨・胸壁

脂肪注入では、主に(2)〜(4)の層をターゲットにして注入します。
(筋肉や骨の下に打つことは原則ありません)


各層の特徴と、脂肪注入で得られる効果・注意点

ここからは、それぞれの層に脂肪を注入したときに何が起こるか?どんなメリット・リスクがあるか?を詳しく解説していきます。

皮下層|柔らかさと丸みを出すが、量とリスクに注意

皮膚のすぐ下にある“浅い層”で、ふんわりとした丸みや質感を演出するのに適しています。

  • メリット:柔らかさ/形の調整/輪郭をぼかす
  • リスク:皮膚が薄いと浮き・凹凸・しこりのリスクあり
  • 定着:血流はあるがスペースが限られ、大量注入には向かない

▶︎この層は仕上げや輪郭調整に使うことが多く、主役ではなく脇役的な使い方をされます。

乳腺下層|定着しやすく、ボリュームの中心になる

乳腺と大胸筋の間の“中間層”で、脂肪注入では最もよく使われる層です。

  • メリット:血流が良く、脂肪が定着しやすい/ボリューム形成しやすい
  • リスク:入れすぎると腫れ・しこりの原因になる
  • 定着:最も安定しやすく、「バストの高さ」や「ふくらみの軸」をつくるのに最適

▶︎この層が「豊胸で最も脂肪が活躍する主戦場」です。

筋膜下層・大胸筋表面|形を整える/谷間を寄せる/縁を整える

乳腺のさらに下、大胸筋の上にある「筋膜」とその周辺も有効な注入ターゲットです。

  • メリット:バスト下縁・内側ライン・外輪郭の微調整に有効
  • リスク:動きが多い部位なので、硬さが出やすい層でもある
  • 定着:設計力が問われるが、“ライン作りの最後の仕上げ”として重要

▶︎ここは谷間の寄せ具合や、自然なカーブの調整に使う「立体設計の微調整ポイント」です。


「一か所にまとめて打つ」のがNGな理由

脂肪注入は、「たくさん入れればいい」わけではありません。
むしろ、一箇所にまとめて打つと以下のような大きなリスクが出てきます:

  • しこり・石灰化:血流が追いつかず、脂肪が壊死して固まりやすい
  • 凹凸・不均一なふくらみ:表層だけに偏ると不自然な段差に
  • 定着不良:酸素が届かず、脂肪が吸収されて消えてしまう

そのため、脂肪注入では「いかに分散させるか」が非常に重要です。


分散注入とマルチレイヤー設計|“3D設計”の豊胸とは

単層で打つのではなく、複数の層に少しずつ分けて注入するのが、脂肪注入豊胸の鉄則です。

この設計は、単に定着率を上げるだけでなく、以下のような立体的な美しさを作る上でも欠かせません:

  • デコルテの自然なふくらみ
  • 下乳のカーブ
  • 谷間の形成
  • 脇下の丸み

私の豊胸では、バストを“ひとつの立体構造物”としてとらえ、各層に分散して「配置」するように脂肪を注入します。

それが、ただ入れるだけでは生まれない「動き」「触感」「なじみ」を生む秘訣です。


【症例紹介】層ごとに注入して“削げたデコルテ”を自然に再構築した例

術式:コンデンスリッチ脂肪注入豊胸(+乳輪乳頭縮小)
術後経過:1ヶ月時点
施術対象:出産・授乳歴あり

妊娠・出産・授乳によってバストがしぼみ、デコルテから下乳にかけて段差ができたというご相談でご来院された患者様。

この方には、皮下・乳腺下・筋膜上の3層に分けて脂肪を分散注入し、デコルテ〜上胸〜下縁にかけてなだらかな曲線が戻るようデザインしました。

また、お写真は掲載できませんが、乳輪乳頭縮小術も同日に実施
ボリュームだけでなく、全体のバランス感・印象まで整えることを目的とした施術です。


この症例のポイント

  • 皮膚がやや薄めだったため、皮下層には少量ずつ丁寧に注入
  • 中心ボリュームは乳腺下層に配置し、しぼみをふっくらと補正
  • 下縁ラインは筋膜上層に注入し、自然なカーブと下垂予防を両立
  • 「ボリュームを出すだけでなく、形を作る」ことに重点を置いた設計

「ただ大きくしたいわけではなく、自分の胸らしさを取り戻したい」というご希望を、注入層の設計で叶えた一例です。

このような症例は、授乳後のボリュームロス・皮膚の張りの変化・左右差など、複合的な要素に合わせてオーダーメイドで対応する必要があります。


形成外科・再建外科で学んだ“生き残る脂肪”の条件

再建外科では、乳がん手術後の傷ついた皮膚や、放射線で硬くなった組織に対しても脂肪を注入します。

その中で私が学んできたのは、

  • 組織の血流を読む力
  • 層の選び方
  • 微細な注入操作

こうした“脂肪が生き残れる環境”を見極める視点は、美容外科における脂肪注入でも非常に役立ちます。

形成外科的な視点があるからこそ、しこりを作らず、定着を高め、自然に仕上げることができるのです。


まとめ

脂肪注入豊胸は、ナチュラルさと安全性を両立させた、非常に魅力的な施術です。ですが、その成功の鍵は“どれだけ脂肪を入れるか”ではなく、“どこに、どれだけ、どうやって打つか”にあります。

体の構造は一人ひとり異なります。皮膚の厚み、乳腺の発達、筋膜の硬さ、脂肪のつき方──それぞれの条件に合わせて層を見極め、丁寧にデザインされた脂肪注入こそが、定着率・見た目・触感のすべてを決めるのです。

そしてそれは、単なる技術ではなく、形成外科での再建経験、美容外科での数々の症例、そして何より“女性の胸の変化”に寄り添ってきた日々の積み重ねから得た知見によって支えられています。

「体質だから定着しないかも」「痩せているから向いていないかも」と悩んでいる方も、あきらめる必要はありません。正しい評価と、層を意識した注入設計があれば、あなたの体に合った、美しく自然なバストはきっと実現できます。

まずはぜひ、お気軽にご相談ください。

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