豊胸を考えている方や、すでに手術を受けた方の中には、こんな不安を抱く方も少なくありません。
「将来、子どもを産んで授乳できなくなったらどうしよう…」
「脂肪やバッグって乳腺に影響しないの?」
医師としてもよくいただくご質問のひとつです。
このコラムでは、脂肪注入豊胸・シリコンバッグ豊胸それぞれが授乳にどう関係するかを、医学的な視点からわかりやすく解説していきます。
妊娠・出産を見据えて豊胸を考えている方、すでに豊胸済みで将来の不安がある方にとって、正しい知識と選択のヒントになればと思います。
バストの構造と授乳のメカニズム

まず、バスト(乳房)は主に以下のような構造でできています:
- 表面の皮膚
- 皮下脂肪層
- 乳腺(乳管や小葉など)
- 大胸筋
- 胸壁・肋骨
授乳に関わるのは主に「乳腺」です。妊娠中〜出産後にかけて乳腺が発達し、母乳が乳腺小葉でつくられ、乳管を通って乳頭へと運ばれる仕組みです。
この授乳機能が傷ついたり、障害されたりしないか?という視点で、脂肪注入・バッグ豊胸をそれぞれ見ていきましょう。
脂肪注入豊胸と授乳の関係
乳腺を避けて注入するため、授乳への影響は基本的に少ない
脂肪注入豊胸では、皮下・乳腺下・筋膜上などに細かく分散して脂肪を注入します。
脂肪は乳腺を避けて注入するのが基本であり、乳管や乳頭に直接触れることはありません。
そのため、術後に妊娠・出産しても、
- 母乳が出にくくなる
- 乳腺が傷ついて機能しない
といった問題が起こることは、基本的にはありません。
ただし、以下のようなケースでは注意
- 注入によるしこり・石灰化ができた場合 → 稀に乳腺炎との鑑別が必要
- 乳腺内や乳管内に誤って注入した場合(技術的問題)
実際には適切な手技で行われれば、将来の授乳に影響することはごくまれです。
シリコンバッグ豊胸と授乳の関係
バッグの位置と乳腺の関係
シリコンバッグを挿入する位置は、
- 大胸筋下
- 乳腺下(乳腺のすぐ下)
の2つが主流です。
どちらの術式も乳腺自体を切除したり損傷したりするわけではないため、基本的には授乳機能は温存されます。
授乳には基本的に支障はないが、変化には注意
- 授乳中、バストのサイズ変化によってバッグの位置が変わったり、張り感が強くなることがあります
- 母乳がたまりやすく、乳腺炎を起こすこともあります(豊胸していない人でも同様のリスクあり)
また、妊娠・出産後に乳腺が委縮した際、バッグだけが残って不自然な見た目になることがあります。
授乳後のバスト変化と“再豊胸”のタイミング
授乳後のバストは、
- 皮膚のたるみ
- 上胸のしぼみ
- ハリの消失
といった変化が起こりやすくなります。
これは豊胸の有無に関わらず、誰にでも起こりうる自然な変化です。
授乳後の再豊胸はいつがベスト?
- 授乳終了後 3〜6ヶ月以上経過し、バストの状態が安定してからが理想
- このタイミングで、必要に応じて再注入やバッグ入れ替えを検討できます
再手術の際は、皮膚のたるみ具合、授乳による左右差、残った脂肪・乳腺のバランスを丁寧に評価することが重要です。
妊娠前に豊胸してもいいの?|タイミングと考え方
基本的には問題なし
妊娠・出産を計画している女性が豊胸を行うこと自体は、医学的には問題ありません。
脂肪注入でもバッグ挿入でも、正しい術式・層の選択・注入量であれば、乳腺を傷つけることは基本的にありません。
ただし妊娠予定までの期間によっては注意が必要
- 1年以内に妊娠予定がある方は、術後の安定期間を十分に取れない可能性があり、あまり推奨されません
- 特に脂肪注入では、術後半年〜1年程度は脂肪の定着過程が続くため、妊娠によるホルモンバランス変化で予期せぬ吸収や左右差が出ることがあります
授乳後のトラブル例と対処法
バッグが浮いたように見える
→ 皮膚がたるみ、乳腺が委縮した結果、バッグの輪郭が目立ちやすくなる。
→ 対処:バッグサイズの見直しや、脂肪注入を併用した「ハイブリッド修正」などを提案。
しこりがある
→ 石灰化、脂肪壊死、バッグ周囲の被膜などが原因のことも。
→ 対処:超音波やMRIで精査。必要に応じて除去・修正手術を行います。
Q&A|よくあるご質問
Q. 豊胸後に母乳が出にくくなることはありますか?
A. 乳腺を傷つけていなければ、基本的に影響はありません。
Q. 母乳検診やマンモグラフィは受けられますか?
A. はい、受けられます。ただし脂肪注入後の石灰化などがある場合、事前に医師へ申告するとスムーズです。
Q. 豊胸したら乳腺炎になりやすいですか?
A. 一部の人ではリスクが上がる可能性がありますが、きちんと授乳ケアを行えば大きな問題になることはまれです。
まとめ|将来の変化も見越して設計する豊胸を
- 脂肪注入もシリコンバッグも、授乳そのものを妨げる施術ではありません
- ただし、妊娠・出産による変化は誰にでも起こり得るため、「将来の変化」も見据えて手術方法や注入設計を選ぶことが大切です
- 乳腺を避けた注入/バッグ位置の選択/トラブル時の対処法など、女性のライフステージに寄り添った設計が重要です
形成外科医として再建も経験してきた私自身も、3児の母です。
“胸が変わる”ことで気持ちが前向きになった患者様を、何人も見てきました。
美容医療としての豊胸であっても、授乳や将来の変化に不安を抱える方に寄り添い、安全性と美しさの両立を常に大切にしています。
少しでも不安なことがあれば、ぜひ一度ご相談ください。
