【他院修正】口角挙上の失敗で「水がこぼれる」…機能障害を治す再建手術の全記録

「他院で口角挙上を受けたら、口が閉じなくなってしまった」 「うがいをしようとすると、口の端から水がピュッと飛び出てしまう」 「飲み物を飲むとき、こぼれてしまって服が汚れる」

近年、SNS等での症例写真の流行に伴い、口角挙上術を行うクリニックが急増しています。それに比例するように、こうした深刻な機能障害に悩まれている方からの相談が後を絶ちません。

美容外科手術は、本来コンプレックスを解消し、笑顔で前向きに生きるためのものです。しかし、皮膚表面の形だけに囚われ、解剖学的な構造を無視した手術が行われると、見た目の美しさ以前に、食事や会話といった「当たり前の日常生活」を送ることすらままならない状態に陥ってしまいます。

今回は、実際に当院で行った「口角形成の修正手術(機能再建)」の症例を基に、なぜこのような失敗が起きるのか、そしてどうすれば治せるのかを解説します。

目次

口角挙上における「機能障害」とは?

口角挙上は、下がってしまった口角の皮膚を切除し、物理的に引き上げることで明るい印象を作る手術です。しかし、適切な操作が行われない場合、以下のような症状が現れます。

日常生活を脅かす具体的症状

  • 口唇閉鎖不全: 意識して力を入れないと、口が自然に閉じない。常に半開きのような状態になる。
  • 液体・食物の漏出: スープや飲み物を飲む際、口角の隙間からダラダラとこぼれてしまう。ストローがうまく吸えない。
  • うがいができない: 口に水を含んで頬を膨らませようとすると、締まりのない部分から水や空気が漏れ出す。
  • 不自然な引きつれ・拘縮: 無理やり縫い合わされた皮膚が突っ張り、口を開けると痛みや違和感がある。笑うと引きつれが目立つ。

これらは、単なる「ダウンタイム中の腫れや麻痺」ではありません。手術によって、口を動かすための筋肉や組織の連続性が物理的に断たれていることが原因であるケースが大半です。待っていれば治るものではなく、外科的な修復が必要な状態と言えます。

【術中所見】なぜ「水が漏れる」状態になったのか

今回の患者様も、他院での術後、口角からの水漏れや食事のこぼれに深く悩まれていました。 修正手術を行う際、皮膚の下で一体何が起きていたのか。実際の手術動画で解説します。(※手術中の映像が含まれますのでご注意ください)

【術中の所見と解説】

① 上下口唇の断裂と離開

動画を見ていただくとわかるように、口角部分がパックリと開き、本来つながっているべき上口唇と下口唇の結合部が完全に断裂していました。

本来、私たちの口の周りには「口輪筋」というドーナツ状の筋肉が走行しています。これが巾着袋の紐のようにギュッと収縮することで、口を閉じたり、水を保持したりすることができます。 しかし、この症例では前回の手術により、この重要な筋肉の連続性が断たれてしまい、物理的に「隙間」が空いている状態でした。これでは、口を閉じようとしても筋肉が連動せず、構造的に閉じることができません。

② 組織の欠損と誤った位置での癒着

さらに問題だったのは、必要な組織が過剰に切除されて不足している上に、離れ離れになった組織が本来あるべきではない位置(外側の皮膚など)に無理やり縫い付けられ、そこで強固に癒着していたことです。

断裂した筋肉や皮膚が、解剖学的に誤った位置関係のまま固まってしまうと、口を開け閉めするたびに不自然な引っ張られ方をします。これが、機能不全だけでなく、見た目の変形(パカッと開いた不自然な口角)を引き起こす直接的な原因となっていました。

修正手術のアプローチ:機能と審美の両立

一度切り取られてしまった皮膚や組織は、二度と戻ってきません。そのため、口角の修正手術は、初回の手術よりも遥かに難易度が高く、高度な技術が要求されます。 当院では、失われた機能を取り戻すために、以下の緻密なステップで再建を行いました。

Step 1:瘢痕の解除

まず最初に行うのは、前回の手術で作られた硬い傷跡(瘢痕組織)と癒着の剥離です。 無理に縫い合わされ、引きつれ(拘縮)を起こしていた組織を、顕微鏡レベルの繊細さで丁寧に剥がしていきます。 術前に見られた口周りの不自然なシワは、無理な力で縫い合わされていたことが原因です。まずはこの拘縮をリリースしてあげることが、再建のスタートラインとなります。

Step 2:Z法(Z形成術)による皮弁作成と再建

単に穴を塞ごうとして縫い合わせるだけでは、すでに皮膚が切り取られているため、組織が足りずに再び引きつれを起こしてしまいます。

そこで今回は、形成外科の基本かつ重要な手技である『Z法(Z形成術)』を用いました。 これは、傷跡周辺の皮膚にZ型の切開を加え、「皮弁」と呼ばれる血流の通った皮膚組織を作成し、パズルのように互い違いに入れ替える技術です。

これにより、以下の効果が得られます。

  1. 拘縮の解除: 突っ張っている傷跡を延長し、緊張を解く。
  2. 組織の補充: 足りない部分に周囲から組織を移動させて補う。

深部の口輪筋を正しい位置で縫合して「閉じる力」を取り戻しつつ、表面の皮膚はZ法で再配置することで、機能的にも構造的にも無理のない形を作り直しました。

Step 3:審美性の調整と微調整

機能を最優先しますが、美容外科医として見た目も疎かにはしません。 Z法による皮弁移動を行う際も、重力や傷の収縮によって口角が下がってしまわないよう計算してデザインします。「完全に口角が上がらなくなってしまわないように」調整しながら、わずかに口角を挙上させるベクトルをかけて形成しました。

術後直後の変化:失われた機能の回復

手術直後の口元の様子です。

【術直後の口元】

「閉じている感覚」と「緊張からの解放」

術後、鏡をご覧になった患者様が最初に口にされたのは、「口を閉じている感覚がすごくある」「隙間が全然なくなりました」という、安堵の言葉でした。

視覚的な変化も明らかです。 術前に見られた口周りの不自然な「しわ」や凹凸がきれいに消失しました。これは、これまでは閉じない口を無理やり閉じようとして過度な力が入り、皮膚が常に緊張状態にあったためです。

今回の手術で組織の癒着を解除し、筋肉や組織を正しい位置に戻したことで、以下の大きな変化が得られました。

  • 自然な閉鎖: 意識して力を入れなくても、唇が自然と重なり、口が閉じるようになった。
  • 緊張の緩和: 無理な力が不要になり、患者様も「すごく楽になった、不思議な感覚」とおっしゃるほど、口元の負担が消えた。
  • 整容面の改善: 平坦で不自然だった形状が、立体感のある綺麗な口角の形状に整った。

「これまで口を閉じるのが本当にきつかった」という患者様の言葉からも、機能障害がいかに日常生活のストレスになっていたかが分かります。

よくある質問

Q1. 修正手術はいつから受けられますか?

基本的には、前回の手術から6ヶ月以上空けることを推奨しています。 術後数ヶ月間は、生体の反応として傷跡が赤く硬くなる「瘢痕増殖期」にあたります。この時期にメスを入れると、組織が硬くて正確な判断ができず、さらに傷跡を汚くしてしまうリスクがあるためです。 ただし、今回のように「水が漏れる」「食事がまともにできない」といった著しい機能障害がある場合は、QOL(生活の質)の低下を防ぐため、組織の状態を慎重に見極めた上で、6ヶ月を待たずに早期手術を行うこともあります。まずは一度ご相談ください。

Q2. 修正すれば、傷跡は完全に消えますか?

一度メスを入れてできた傷跡を、完全に「無かったこと」にすることは不可能です。 しかし、今回の症例のように、無理なテンションがかかって幅が広くなったり目立ったりしていた傷跡は、緊張を取り除いて再縫合することで、細く目立ちにくい線に変えることができます。また、位置を微調整して口角のシワに紛れ込ませることで、パッと見では分からないレベルまで改善することは十分に可能です。

Q3. リスクやダウンタイムはどのくらいですか?

【ダウンタイム】

  • 腫れ・内出血: 術後2〜3日がピークで、1〜2週間かけて徐々に落ち着いていきます。マスクで隠せる範囲です。
  • 抜糸: 通常、術後1週間目に行います。

【リスク・合併症】

  • 後戻り: 口周りは食事や会話で常によく動く場所です。そのため、多少の後戻り(傷が縮んで口角が下がろうとする力)を計算に入れ、術直後は少し強めに(オーバーコレクション気味に)形成することがあります。
  • 感覚異常: 術後一時的に、口周りの感覚が鈍くなることがありますが、神経の回復とともに数ヶ月かけて徐々に改善します。

まとめ

「口角挙上は、単純に皮膚を切って縫うだけの手術ではない」ということです。

口元は、食事、会話、表情作りなど、人間が社会生活を送る上で欠かせない複雑かつ重要な機能を担っています。 僕は形成外科専門医として、顔面の外傷や癌切除後の再建手術など、「機能を守りながら形を作る」手術に数多く携わってきました。だからこそ、解剖学を無視した安易な切除がいかに危険か、そして一度壊された機能を治すのがいかに難しいか、身にしみて感じています。

「手術を受けたけれど、水が漏れる」 「口が閉じにくく、常に口の中が乾いてしまう」 「口元のつっぱり感が取れず、笑うのが怖い」

もし、このような症状でお悩みであれば、それは決して経過観察で治るものではなく、手術による失敗である可能性が高いです。

そうなって困っている方でも、壊されてしまった構造がどうなっているのかを正しく診断し、適切な再建手術を行えば、失われた機能と自然な笑顔を取り戻すことは可能です。 修正手術は、初回の手術よりも遥かに高度な技術と経験が求められます。だからこそ、一人で悩まず、解剖学を熟知し、修正手術の経験が豊富な専門医にご相談ください。

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