過去にアクアミドやメッシュなどの異物を使用した鼻整形を受け、年月が経つにつれて違和感や変形に悩まされている方は少なくありません。今回ご紹介するのは、10年以上前にアクアミド注入、数年前に他院でメッシュを使用した鼻整形を受けた患者様のケースです。
異物による鼻の変形や組織癒着が進行しており、単なる異物除去では対応できない状態でした。ここでは、そのような高難易度の鼻修正に対して、どのような再建手術が行われたのか、動画と写真を交えながら詳しく解説していきます。
患者様の背景と手術の全体像
この患者様が今回当院で受けた手術は、以下の通りです。
- 鼻尖形成術
- 鼻中隔延長術(肋軟骨を使用)
- 鼻尖部への肋軟骨移植
- 隆鼻術
- 貴族手術(鼻翼基部形成)
- アクアミド・メッシュ除去
すべて全身麻酔下で施行され、鼻背から鼻柱、鼻翼基部にかけて骨格レベルでの再建が行われました。
術前診察と除去前の状態


10年以上前にアクアミドを鼻筋に注入されて以降、鼻には慢性的な赤みが残り、過去には膿の排出も見られました。皮膚が薄くなった鼻背部には、穿孔のリスクも懸念される状態です。
加えて、異物の影響により不自然な位置から鼻筋が始まり、顔全体のバランスとしても鼻が長く見えてしまっています。鼻のラインには硬さがあり、自然な印象が損なわれていました。
CT検査・視診・触診の結果、鼻尖には膨隆があり、皮膚の菲薄化も明らかでした。10年以上経過した今も異物の影響が残る状態で、再建には高い注意が必要と判断しました。
そこで今回は、アクアミドと共にメッシュを除去し、鼻中隔への軟骨移植(肋軟骨使用)を行い鼻尖を整える、組織の損傷を最小限に抑えながら、外見と機能の両面での改善を目指す、という治療計画を立てました。
アクアミドと異物の除去手術
鼻内部にはアクアミドだけでなく、メッシュやオステオポールの残存も確認されました。これらは周囲の軟部組織と強固に癒着しており、除去には非常に繊細な操作が必要でした。
除去された異物の実物

実際に摘出された異物は、アクアミド様のゲル状物質だけでなく、繊維性の人工物や硬化した残留物も含まれていました。
異物が長期的に体内にあると、体はそれを包み込むように反応し、瘢痕や炎症性の組織変化が起こります。これが鼻のラインの歪みや触感の異常を引き起こす原因となります。
異物除去後の状態と再建戦略
アクアミド除去の瞬間
動画では、実際にゲル状のアクアミドが排出される様子が確認できます。この操作により、異物が圧迫していた部分の緊張が一気に緩み、同時に組織の陥没が明確になりました。
異物除去直後の鼻の状態

異物除去後、鼻背および鼻尖部に目立った凹みが生じており、構造的な支持が失われていることが明確でした。
異物除去を行えば元の鼻の形に戻ると思われがちですが、実際には異物が正常組織を巻き込んで癒着しているため、除去後に皮膚や軟部組織が薄くなったり、元の形状以上に凹みが生じることがほとんどです。さらに、異物が長期にわたり内部から圧迫することで、周囲の正常組織自体が押しつぶされたり変形したりするケースも多く見られます。したがって、単なる除去ではなく再建手術が必須であることを理解していただくことが大切です。
鼻の再建:軟骨移植による立体構築

再建後の鼻の状態です。
除去後の凹みや構造的空白を埋めるため、肋軟骨を用いた支持構造の再建が行われました。鼻中隔を延長し、鼻尖に強固なストラットを設置することで、過去の異物注入によって弱くなっていた構造を根本から再構築しています。
鼻先には筋膜を被せる処理を行い、軟骨移植後の凹凸や浮き感を防ぎ、より滑らかな形状に仕上げています。皮膚が菲薄化している場合には、筋膜や真皮脂肪複合組織など、他の組織を用いて厚みを補う処置が必要です。
また、鼻翼基部には細片軟骨(左右1.0cc)、鼻背には1.3ccの細片軟骨を移植することで、凹みの修復と立体的な輪郭形成を行いました。
まとめ|異物除去+再建の重要性
アクアミドやメッシュなどの異物が原因で鼻に変形を生じた場合、単純に異物を除去するだけでは理想的な形には戻りません。異物は正常な組織と癒着し、圧迫や炎症によって周囲の構造にも影響を与えます。そのため、除去後には皮膚の菲薄化、組織の陥没、支持構造の欠損など、さまざまな問題が現れます。
本症例のように、過去の施術歴や使用された材料、異物による組織への影響を的確に評価し、除去+再建をセットで行うことが再修正の成功に直結します。特に、皮膚が薄くなっているケースでは、筋膜や真皮脂肪複合組織での補強が欠かせません。
また、今回のように複数の術式(鼻中隔延長、鼻尖形成、貴族手術、隆鼻術など)を組み合わせることで、機能と形態の両立を目指すことが可能です。軟骨の量や配置、固定方法にまで配慮し、長期的に安定する構造を作ることが、修正手術成功の鍵になります。
手術は全身麻酔で行い、術後の腫れは2週間程度で落ち着いてきます。完成までは約3〜6か月を想定しています。
「異物を抜けば終わり」ではなく、「抜いたあと、どう形を整え直すか」。そこまで見据えた計画が必要です。
異物除去を検討されている方、また「何度手術しても理想の鼻にならない」とお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
見た目だけでなく、構造から美しく、安全で再現性のある鼻を一緒に考えていきましょう。
なお、今回の患者様については、今後も定期的に経過観察を行い、移植軟骨の定着や皮膚の状態、全体のバランス変化を丁寧に追っていきます。術後のリアルな経過も含めて、またあらためてご紹介していく予定です。

