「パーツは悪くないのに垢抜けない」原因はどこ? 中顔面の凹みを整える「構造改革」の話

こんにちは。形成外科専門医・美容外科専門医の前田翔です。

今日のテーマは、多くの患者さんが抱えているけれど、うまく言葉にできない「なんとなく垢抜けない」という悩みについてです。

鏡を見ながら、ふとこんな風に感じることはありませんか?

「目はパッチリしているし、二重の幅も悪くない」 「鼻だって、そこまで低いわけじゃない」 「でも……なぜか顔が洗練されない」 「メイクを頑張っても、どうしても“子供っぽさ”や“野暮ったさ”が消えない」

SNSで見る憧れのインフルエンサーやモデルさんと、自分の顔。 パーツの形だけ見れば似ているはずなのに、並べて見ると何かが決定的に違う。この「何か」の正体が分からず、目頭切開を考えてみたり、涙袋を入れてみたりと、迷走してしまう方が非常に多いのです。

実は、この「パーツは悪くないのに垢抜けない」という現象の正体は、目や鼻の形そのものではなく、それらが乗っている「土台(骨格)」のバランスにあります。


目次

「垢抜けない顔」の解剖学

日本人に多い「中顔面の陥凹」という落とし穴

(左)理想的なバランス: 鼻先と顎先を結ぶ線(Eライン)の内側に、唇が軽く触れるか、少し内側にある状態。鼻、口、顎のバランスが整っています。
(右)中顔面の陥没による口ゴボ感: 鼻の土台(中顔面)が後ろに凹んでいるため、相対的に口元が前に出て見え、Eラインからはみ出しています。これが「陥没した中顔面」の特徴であり、口ゴボに見える原因の一つです。

まず、私たちアジア人、特に日本人の骨格的特徴からお話しなければなりません。 「垢抜けない」「平たい」「子供っぽい」 これらの印象の元凶となっているのが、「中顔面の陥凹」です。

中顔面とは、文字通り顔の中心部分。眉間から鼻、小鼻の横、そして上唇の上あたりまでのエリアを指します。 欧米人の頭蓋骨を見ると、この中顔面全体が前方にグッと張り出しており、顔全体が「卵型」や「前後に長い立体型」をしています。

一方で、日本人の骨格は、この中顔面が顔のフレーム(輪郭)に対して、奥に引っ込んでいるケースが非常に多いのです。

「テント」と「地面」の関係で考える

分かりやすくイメージするために、顔を「テント」に例えてみましょう。

  • 鼻の高さ = テントの支柱の長さ
  • 中顔面(頬や小鼻の土台) = テントを張っている地面

もし、地面(中顔面)が平ら、あるいは窪地のように凹んでいたらどうなるでしょうか? いくら長い支柱(プロテーゼや高い鼻)を立てても、テントの裾野は地面に埋もれたままです。結果として、「鼻だけが唐突に高いけれど、顔全体はのっぺりしている」という、違和感のある仕上がりになってしまいます。

これが、「鼻整形をしたのに垢抜けなかった」という失敗の典型的な原因です。 地面そのものが沈んでいるため、顔の中心に影ができ、暗い印象や、どこか未発達な「子供っぽさ」を与えてしまうのです。


あなたの口元は本当に出ているのか?

「口ゴボ」の正体を見極める相対性理論

中顔面が凹んでいると、もう一つ厄介な視覚トリックが生まれます。 それが「相対的な口ゴボ(くちごぼ)」です。

「横顔を見ると、口元が出ている気がする」 「Eライン(鼻先と顎を結んだ線)に唇が当たってしまう」

そう悩んで、「歯列矯正」や「セットバック(口元を骨ごと下げる手術)」を検討される方がいます。もちろん、実際に顎の骨や歯が出ているケースもあります。 しかし、僕の診察室に来られる方の約半数は、「口が出ているのではなく、中顔面が凹んでいるだけ」なのです。

顔の凹凸は「相対評価」で決まります。 隣り合う「小鼻の横(中顔面)」が凹んでいれば、その隣にある「口元」は当然、前に出っ張って見えます。 この場合、本当に必要な治療は、口を引っ込めること(引き算)ではなく、凹んでいる中顔面を前に出すこと(足し算)です。

原因を取り違えたまま、正常な口元を無理やり下げてしまうと、顔全体が平坦になりすぎて、逆に老け込んでしまうリスクすらあります。 まずは「自分の顔の現在地」を正しく診断することが、垢抜けへの第一歩です。


僕の骨格理論|凹みを埋めて土台を作り、余分な広がりを整える

では、どうすればこの骨格の傾向を修正し、綺麗なバランスを作れるのでしょうか。

僕が提案するのは、単に鼻を高くするだけの「点」のアプローチではありません。 お顔全体を見て、物理的に足りない部分を補い、余分な部分を取り除く「トータルデザイン」です。

【足し算】猫貴族手術で「凹み」を埋めて土台をしっかりさせる

まず最初に行うべきは、沈んでいる中顔面の土台を前に出すこと。 専門用語では「鼻柱・鼻翼基部細片軟骨移植」と言いますが、これだと少しイメージしづらいですよね。 そこで、鼻柱の基部を持ち上げる「猫手術」と、小鼻の横を埋める「貴族手術」の効果を統合し、中顔面を根本から変えるこの術式を、僕は「猫貴族手術(ねこきぞくしゅじゅつ)」と名付けました。

鼻と小鼻の付け根の、一番深い凹みに材料を移植し、土台をグッと底上げします。 これにより、以下の変化が生まれます。

  • 法令線が浅くなる: 深い影が消え、お顔全体が明るく見えます。
  • 口元のバランスが整う: 相対的に口の突出感が消え、横顔のEラインが綺麗に整います。
  • 中顔面が引き締まる: 顔の中心が高くなることで、のっぺり感が解消され、小顔に見える視覚効果が生まれます。

なぜ「肋軟骨」なのか? ここで重要になるのが「材料」です。 この手術にはプロテーゼを使うこともありますが、僕は「安全性」と「仕上がりの自然さ」を考え、基本的には「肋軟骨(ろくなんこつ)」などの自家組織を使用することをおすすめしています。

中顔面は表情を作る時によく動く場所です。ここに異物が入っていると、どうしても感染のリスクや、ズレるリスクがゼロではありません。 一方、ご自身の軟骨であれば、移植後に血管が通って自分の体の一部として生着します。 「凹みを埋める」だけでなく、「しっかりとした強い土台を作る」という意味でも、自家組織は非常に理にかなった材料なのです。

【引き算】その人のバランスを崩している「余分な要素」を取り除く

土台をしっかりさせたら、次は「鼻そのもの」のデザインです。 ここで重要になるのが、「あなたの顔にとって、何がバランスを崩しているか?」を見極める引き算の視点です。

「洗練された美しさ」とは、余計な凹凸がなく、ラインが整っている状態を指します。 しかし、患者様によっては骨格的に以下のような特徴を持っていることがあります。

  • 鼻骨が横に広がっている(ワイドノーズ)
  • 鼻筋にボコッとした節がある(ハンプ)
  • 鼻先の脂肪が厚く、丸い(団子鼻)

これらは、お顔に「無骨さ」や「野暮ったさ」を残してしまう原因になります。 もし、土台を上げたとしても、この「広がり」や「出っ張り」が残っていれば、シャープな印象にはなりません。

だからこそ、必要な場合には「骨を切って幅を狭める」「骨を削って滑らかにする」「余分な脂肪を取る」といった引き算を組み合わせます。 全員に同じ手術をするのではありません。あなたの骨格のどこが過剰なのかを見極め、そこだけをピンポイントで修正する。これが専門医の役割です。


実際の症例

ここで、ある患者様のケースをご紹介します。 ご希望は「可愛らしさは残しつつ、より洗練された印象になりたい」というものでした。

【術前の診断】

  • 骨格(足し算の必要性): 中顔面が深く凹んでおり、小鼻の横に影ができている状態。これが顔全体を平面的に見せていました。
  • 鼻の形状(引き算の必要性): 鼻筋の骨が横に広がっており、さらにハンプ(骨の出っ張り)があるため、ラインが太く不整に見えていました。

彼女に必要な治療は、「中顔面の凹み」を埋めることと、「鼻骨の広がり」を抑えることの2点でした。

【僕が行った複合アプローチ】

骨格のバランスを整えるため、以下の3つの手順を行いました。

  1. 猫貴族手術(肋軟骨): まず、陥没している鼻柱基部と鼻翼基部に加工した肋軟骨を移植し、土台を物理的に高くしました。これにより、ほうれい線付近の影が消え、中顔面に立体感が出ます。
  2. 鼻骨骨切り + ハンプ削り: 鼻筋の骨が太く広がっていたため、骨切りを行って左右の幅を狭め、ハンプを削って平らにしました。これにより、太かった鼻筋がスッと通った直線的なラインに整いました。
  3. 鼻中隔延長(肋軟骨)による再構築: 鼻先は、肋軟骨を用いて支柱を立て直し、少し上向き(アップノーズ)のデザインにしました。ツンとさせすぎず、適度な丸みを残すことで、きつい印象にならないよう調整しました。

【術後の変化】

術後半年が経過した状態です。 もともとの可愛らしい雰囲気は残しつつ、平面的だった中顔面に高さが出て、太かった鼻筋が細く整いました。 「影」と「骨の太さ」という構造的な問題を取り除くことで、メイクでは作れない、骨格レベルでの自然な立体感が完成しました。


まとめ

美容外科手術は、単に目や鼻の形といった「パーツ」を変えるだけのものではありません。 個々の骨格構造を医学的に分析し、顔全体のバランスを整えることがとても重要で、僕はそれを大切にしています。

「垢抜けない」という印象には、必ず物理的な原因があります。 多くの場合、それは数ミリ単位の骨格の高さや位置のズレに起因しています。

メイクや髪型による視覚的な補正には限界がありますが、外科手術によって骨格構造そのものを修正すれば、根本的な解決が可能です。

「どこを直せばいいのか分からない」 「自分に適した術式を知りたい」

といった段階でのご相談でも構いません。 まずはカウンセリングで、CT画像を用いてご自身の骨格の状態を客観的に確認してみませんか? 医学的な根拠に基づき、あなたに最適な治療計画をご提案します。


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