術後のダウンタイムを予防する薬は飲まないといけないのか?

手術をするとどうしても腫れや内出血などの『ダウンタイム』が生じます。 日常生活を送る上で、ダウンタイムは一日でも短くしたいところです。

最近では『腫れや内出血をおさえる薬』もあり、処方しているクリニックも少なくありません。

「手術のあと、ダウンタイムをおさえる薬を飲んだ方がいいですか?」 「実際に効果はありますか?」 などのご質問をいただくことがよくあります。

結論から言うと、効果はないので、飲む必要はありません。 もう少し細かく言うと、効果がないお薬と、飲まないよりは多少は効果のあるお薬があります。

目次

ダウンタイムをおさえるとしてよく処方されている薬

シンエック

シンエックは、ナチュラルハーブのアルニカモンタナが配合されたサプリメントです。 アルニカモンタナは、スイスのアルプス地方に生息する野生の植物で、何百年もの間、腫れや傷の治療に使用されてきました。術後の腫れ、内出血を抑制、回復を早める効果が期待できるとして、多くのクリニックで処方されています。

シンエックは術後のダウンタイム軽減に効果があるか?→ありません。

シンエックは医療用医薬品ではなくホメオパシーです。 ホメオパシーとは、「その病気や症状を起こしうる薬(や物)を使って、その病気や症状を治すことができる」という考えのもとできた代替医療。異なる2つの理論を基にしています。

①「同種の法則」 ある物質を健康な人に投与すると起こる症状に関して、その症状がある人にその物質を投与すると治るという考え。 ②「超微量の法則」 薬剤が微量であるほど、その有効性が高くなるという考え。 多くのホメオパシー製品は、元の物質の分子が残らないほど非常に希釈されています。

シンエックはこの②の「超微量の法則」に基づいたものになります。 有効成分であるアルニカモンタナの分子が残らないほど希釈してできたものがシンエックです。分子が残らないほど薄めているので効果はないと思います。

インディバ

薬ではありませんが、ダウンタイムを軽減させる施術としてよくインディバもおすすめされています。 インディバは、体内にジュール熱と呼ばれる摩擦熱を発生させ、深部・局部加温ができる高周波温熱機器です。体を温めて新陳代謝が高まることで、体内の老廃物が排出され、術後の内出血や腫れを改善すると、術後のインディバをおすすめしているクリニックやエステも多くあります。

インディバは術後のダウンタイム軽減に効果があるか?→ありません。

内出血と腫れの原因と対処法をみていきましょう。

内出血の原因

手術により皮下で出血が起こっている状態です。

◇対処法 ・基本的には2週間程かけて徐々に自然に吸収されるので待ちます。 ・術直後は冷やすことで、血管が収縮し、内出血をおさえることができます。 ・血行がよくなる行動(スポーツ、飲酒、長風呂等)は避けます。

腫れの原因

手術によって傷ついた部位を治そうと、体が血流を増やして傷の再生に必要な養分を集めている状態(免疫・防御機能)です。

◇対処法 ・手術による侵襲が大きいと腫れも大きくなりますが、傷が治る過程で起こるもので正常な反応です。 自然に落ち着きます。(感染による腫れの場合は別の治療が必要となります。) ・炎症が起こっている状態なので、血行がよくなる行動(スポーツ、飲酒、長風呂等)を避けることで 腫れをおさえることができます。 ・術直後は冷やすことで、血管が収縮し、炎症をおさえることができます。

基本的にダウンタイムを少しでもおさえるためには、 ・冷やす ・血流を促進しない が重要です。インディバは血流を促進するので、ダウンタイム中の照射はしない方がいいと思います。

リザベン

リザベン(トラニラスト)という内服薬が、現在唯一国内で保険適応があり処方されている肥厚性瘢痕、ケロイドに対する治療薬です。肥厚性瘢痕やケロイドの組織中にある各種炎症細胞が出す化学伝達物質を抑制することにより、痒みをはじめとする自覚症状を抑え、さらには病変自体を沈静化させると考えられているものです。

リザベンは術後のダウンタイム軽減に効果があるか?→ダウンタイム軽減というよりはケロイドや肥厚性瘢痕に効果あり。ただ、単独での効果は非常に少ないため、肥厚性瘢痕やケロイドが起こってしまった際には他の治療と併用する必要があります。

また、リザベンの副作用として膀胱炎があるため、飲みにくい人は柴苓湯を処方することもあります。

柴苓湯

柴苓湯は、小柴胡湯(しょうさいことう)と五苓散(ごれいさん)を併せた合方(ごうほう)漢方です。

小柴胡湯

体の免疫機能を調整し炎症をやわらげます。そして、体の疲れをとり、病気の回復を助けます。

五苓散

体のはたらきを高めて、余分な水分を体の外へ出す作用(利水作用)があるため、浮腫に対し有効に働きます。

従って、苓湯は、線維芽細胞の増殖抑制作用があり、リザベンと同様の効果があります。

柴苓湯は術後のダウンタイム軽減に効果があるか?→リザベンと同様の効果があります。尚且つ、炎症に伴った組織の浮腫に対しての利水作用も働き、術後のむくみにも効果があると考えられます。

リザベンと同様で、単独での効果は強くないので、肥厚性瘢痕やケロイドが起こってしまった際には他の治療法と合わせて用いられます。また、リザベンと違って保険適応外での処方となります。

まとめ

・シンエック 有効成分であるアルニカモンタナの分子が残らないほど希釈しているため効果はない。

・インディバ インディバは血流を促進するので、ダウンタイム中の照射はしない方がいい。

・リザベン ダウンタイム軽減というよりはケロイドや肥厚性瘢痕に効果あり。ただ、単独での効果は非常に少ないため、肥厚性瘢痕やケロイドが起こってしまった際には他の治療と併用する必要がある。

・柴苓湯 リザベンと同様の効果+利水作用もあるため術後のむくみにも効果がある。

当院では基本的にダウンタイム軽減の内服薬は処方していません。 内服よりも、術後の過ごし方に注意する方がダウンタイム軽減に繋がると思っているからです。(もちろんダウンタイムが少しでもおさえられるような手術をすることは大前提で。)

ですが術後のダウンタイムはとても不安な気持ちになるものです。 少しでも心配なことがあればなんでもご相談くださいね。

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