「ルフォー手術をしたら鼻が広がった」「鼻先が潰れて団子鼻のようになった気がする」──そういった相談を受けることは、実は少なくありません。
ルフォー(Le Fort)手術は上顎の骨格を大きく動かす高度な骨切り術ですが、顎だけでなく“鼻の形”にも影響することをご存じでしょうか?
今回の記事では、形成外科専門医・美容外科専門医の立場から、ルフォー術後に起こり得る鼻変形の原因と、その対策や修正法について、構造医学的な視点でわかりやすく解説します。
ルフォー手術とは?

ルフォー術は、上顎骨を水平方向に切離し、前後・上下・左右に骨を移動させる手術です。咬合や歯列の改善が主目的ですが、輪郭形成や中顔面のボリューム改善といった美容的効果を求めて受ける方も増えています。
ただし、上顎骨は鼻の土台にもなっているため、この手術は必然的に鼻周囲の構造にも影響を及ぼします。
実際、術後に「鼻が広がった」「鼻先が潰れた」といった声は少なくなく、骨だけでなく筋肉や靱帯の緊張バランスが変化することが、その本質的な要因と考えられます。
ルフォー後に起こる鼻の変形とは?
術後に患者さんが感じやすい鼻の変化は、以下のようなものがあります。
- 鼻の穴が正面から見えるようになった
- 小鼻が横に広がった
- 鼻柱(鼻の真ん中の縦の柱部分)がなくなったように見える
- 鼻先がつぶれて、団子鼻のようになった
- 鼻と唇の距離感やバランスが変わった
これらはすべて、骨格構造・筋肉・軟部組織のテンション変化によるものです。
なぜルフォーをした後、鼻の変形が起きるのか?
鼻まわりの支持構造と牽引バランスの崩れ
ルフォー術では、骨を切るために上顎骨の骨膜を広範囲に剥がし、周囲の筋肉や靱帯も一時的に剥離されます。これによって、鼻翼(小鼻)を内側に引き寄せていた構造的な支持力が弱まり、術後の治癒過程で組織が外側に引っ張られるように癒着してしまうことがあります。その結果、鼻の穴が外側に開いたように見える、いわゆる「鼻が広がった」ような変化が生じることがあります。
さらに、鼻周囲には上唇挙筋・鼻中隔下制筋・鼻翼下制筋などの表情筋や靱帯が密集しており、これらのバランスが崩れることで、鼻尖(鼻先)が下方向に引かれたり、鼻柱が上に押し上げられてしまうといった変化も起こりえます。これにより、鼻先が潰れたように見えたり、鼻の穴が正面を向いてしまうケースも見られます。
鼻翼基部の横方向の押し広げ
上顎骨を前方に出すと、鼻翼(小鼻)の支点が前に押し出され、結果として鼻の穴が外に広がって見えます。これも術後に「鼻が広がった」と感じる要因のひとつです。
ただし、実際のルフォーI型骨切り術では、上顎を“前に出す”ケースは少数派で、多くの場合は後方に引いたり、上方向へ移動させたりすることで、中顔面のバランスや口元の突出感を整えます。したがって、鼻翼基部が前に押し出される変化は、適切な術式設計によって避けられることがほとんどです。
鼻柱基部の位置変化
骨の移動により、鼻柱の基部が後退または突出し、正面から見た印象が変わることがあります。とくに“鼻柱が潰れた”ように見えるケースでは、支える骨が下がった影響が大きいです。
術後の腫れによる一時的な変形
術後の腫れが強い時期には、鼻の形そのものが変わって見えることがあります。特に鼻先のむくみや鼻翼の浮腫によって、「鼻が団子鼻になった」「広がった」と感じることがありますが、
これらはおおむね術後3〜6ヶ月で自然と落ち着いていくケースが多いため、焦って修正を考える必要はありません。
鼻整形は同時にやるべき?【僕の答えはNO】
よく「ルフォーと同時に鼻整形もした方が効率的では?」という相談を受けますが、僕の答えははっきりしています。
ルフォーと鼻整形の同時手術は、おすすめしません。
その理由は、
- 術中・術後の腫れや癒着で鼻の形が読めない
- 顔の重心が変わるため、想定と異なる位置に鼻尖が来る
- 鼻整形の再手術率が上がる
からです。
特に、軟骨移植などの繊細なデザインを伴う鼻整形においては、骨格が安定してからのほうが圧倒的に精度が高い仕上がりになります。
では、鼻整形はいつ行うのがベスト?
ルフォー術後の鼻整形は、少なくとも術後6ヶ月〜1年経過してから行うのが望ましいとされています。
理由は以下の3つです。
① 組織の腫れ・むくみが落ち着くまでに時間がかかる
ルフォー術後は、上顎の骨移動だけでなく、軟部組織(皮膚・脂肪・筋肉・骨膜など)も大きく操作されます。術後1〜3ヶ月は特に浮腫が強く、鼻先や鼻翼が腫れて正確な形が分かりにくい状態が続きます。
この時期に鼻整形をしても、腫れが引いたときに思った位置に収まっていないというリスクが高くなります。
② 骨格の位置と軟部組織のバランスが安定するのは半年〜1年後
術後すぐはまだ骨の癒合が不安定で、鼻柱基部や上顎前面の骨もわずかに動く可能性があります。特に軟骨移植やプロテーゼを用いる鼻整形の場合、土台となる骨が安定していないと変形やズレのリスクが上がります。
そのため、骨の位置と軟部組織の癒着が落ち着いた後の施術が最も安全で、再現性も高くなります。
③ 表情の動き・笑顔の筋肉バランスも整ってくる
ルフォー後は表情筋のバランスも変化しており、「笑ったときの鼻の動きが不自然」「鼻が潰れる」などの症状が一時的に出ることがあります。
これらは術後半年〜1年で自然と整ってくることが多いため、安易に整形で修正しようとせず、まずは様子を見るのが賢明です。
鼻変形が起きた場合の修正術
術後に「やっぱり鼻が気になる」と感じた場合、以下のような修正術が選択肢になります。
- 鼻柱基部の軟骨移植(貴族手術)(鼻の支柱を再建)
- 隆鼻術(細片肋軟骨などで鼻筋を整える)
- 鼻翼縮小(横に広がった小鼻をコンパクトに)
- 鼻中隔延長(鼻先を再構築)
注意点として、修正手術は早すぎると失敗しやすいため、組織の癒着・萎縮・浮腫が落ち着き、骨もしっかり安定した後に行うことが絶対条件です。
当院ではルフォー術後や輪郭形成後に鼻や口周りの手術を行うことも多く、CTや顔貌のバランス評価を踏まえたデザインにこだわっています。
まとめ|ルフォー後の鼻変形は“構造変化”であり、“予測可能”
ルフォー手術は、非常にパワフルな骨格手術です。
その影響は中顔面全体におよび、当然ながら鼻の見え方にも変化をもたらします。
ただし、それは決して「失敗」ではありません。
事前にどのような変化が起こるのかを理解し、それに応じた設計とタイミングを選べば、自然で美しい中顔面の構造は十分に作れます。
重要なのは
- 鼻の変形リスクを軽視しないこと
- 顔全体を“構造単位”でとらえること
- 必要があれば段階的に修正・調整を行うこと
ルフォー後の顔のバランスや鼻の変化が気になる方は、ぜひお気軽にカウンセリングにお越しください。