医療ダイエットの薬、どれを選ぶ?:カナグル、リベルサス、マンジャロの違いと効果を医師が解説

「食事制限や運動を頑張ってもなかなか体重が減らない」「一度痩せてもすぐにリバウンドしてしまう」——長年のダイエットの悩みは、多くの方が抱える深刻な問題です。かつては個人の努力に頼るしかなかったダイエットですが、医学の進歩により、科学的なアプローチで根本から体の仕組みに働きかける医療ダイエットが、いま大きな注目を集めています。

特に、当院で取り扱っているカナグル、リベルサス、マンジャロという3つの薬剤は、それぞれが全く異なる作用機序を持ち、「糖の処理」「食欲の抑制」「代謝の改善」という多角的なアプローチで、体重減少と体質改善をサポートします。

しかし、選択肢が増えた分、「自分にはどの薬が最適なのか」と迷う方も多いでしょう。

本コラムでは、これら3つの薬剤の違い、期待できる効果、適応となる方のタイプ、そして治療を始める際の注意点を、医師の視点から深く掘り下げて解説します。最適な「オーダーメイド治療」を見つけ、リバウンドのない健康的な体を目指しましょう。


目次

体への作用別比較:カナグル、リベルサス、マンジャロの作用機序

医療ダイエットに使われる薬剤は、大きく分けてSGLT2阻害薬GLP-1/GIP受容体作動薬の2種類に分類されます。それぞれの薬剤が体内でどのように働き、体重減少に導くのかを詳しく見ていきましょう。

カナグル(SGLT2阻害薬):「糖の排出」を促す

カナグル(一般名:カナグリフロジン)は、もともと糖尿病治療薬として開発されたSGLT2阻害薬に分類されます。

  • 作用機序の仕組み: SGLT2(Sodium Glucose Co-Transporter 2)は、腎臓の尿細管という場所で、一度ろ過されたブドウ糖を再び血液中に戻す(再吸収する)働きを持つタンパク質です。カナグルはこのSGLT2の働きをブロック(阻害)します。
  • 体重減少への効果: これにより、血液中に戻されるはずだった糖が、尿と一緒にそのまま体外へ排出されます。この排出される糖のカロリーが、1日あたり約200~400kcal(ご飯お茶碗一杯分以上)にも相当するため、食事量を大きく変えなくても自然にカロリー制限の効果を得られます。
  • 服用方法: 経口薬(内服薬)であり、内服するだけで効果が持続します。

リベルサス(GLP-1受容体作動薬/経口):「食欲の抑制と満腹感の持続」

リベルサス(一般名:セマグルチド)は、体内で血糖値を下げる働きを持つホルモン「GLP-1」と同じような作用をするGLP-1受容体作動薬です。経口薬として世界で初めて開発されました。

  • 作用機序の仕組み:
    1. 脳への作用: 脳の視床下部にある食欲中枢に働きかけ、空腹感を抑え、食欲自体を減退させます。
    2. 消化管への作用: 胃の動き(蠕動運動)を遅らせるため、食べたものが胃に留まる時間が長くなり、満腹感が長時間持続します。
    3. 血糖値のコントロール: 血糖値が高い時だけインスリン分泌を促し、血糖値を安定させます。
  • 体重減少への効果: 自然に食事量が減り、間食が抑制されるため、無理なくトータルの摂取カロリーを大幅に減らすことができます。
  • 服用方法: 経口薬(内服薬)であり、毎日決まった時間に水と一緒に服用する必要があります。

マンジャロ(GIP/GLP-1受容体作動薬/注射):「最も強力な代謝改善と食欲抑制」

マンジャロ(一般名:チルゼパチド)は、現在、最も注目されている薬剤です。従来のGLP-1に加えて、もう一つのインクレチンホルモン「GIP」にも作用する、世界初のGIP/GLP-1受容体作動薬です。

  • 作用機序の仕組み:
    1. GLP-1作用: リベルサスと同様に、食欲抑制と満腹感の持続を促します。
    2. GIP作用: 脂肪の分解を促進したり、エネルギー消費を高めたりする作用があると考えられており、代謝改善に大きく貢献します。
  • 体重減少への効果: この複合的な作用により、従来のGLP-1製剤(リベルサスなど)よりも、さらに高い体重減少効果が臨床試験で報告されています。特にBMIが高い方において、その効果が顕著です。
  • 服用方法: 注射薬であり、週に1回の自己注射で効果が持続します。

患者様のタイプ別:最適な薬剤の選び方

薬剤の作用機序が理解できたところで、ご自身のライフスタイルや体質に合わせて、どの薬が最適かを判断する基準を解説します。

食べ過ぎによる「摂取カロリー」が主な原因の方 → リベルサス or マンジャロ

食事量が多く、食欲をコントロールすることが難しい方に最適です。

  • リベルサスが適している方:
    • 注射に抵抗がある。
    • 間食が多く、食事の量を自然に減らしたい。
    • 注射よりも手軽な内服からスタートしたい。
  • マンジャロが適している方:
    • BMIが特に高い、または高度肥満である。
    • リベルサスで効果が不十分だった。
    • より強力な体重減少効果を求める。

糖質や甘いものが止められない方 → カナグル

特に白米、パン、麺類、甘い飲み物など、糖質の摂取量が多い習慣を持つ方に特に適しています。

  • カナグルが適している方:
    • 食欲自体はコントロールできるが、糖質の誘惑に弱い
    • 摂取カロリーを減らすというよりも、糖質の吸収と排出をコントロールしたい。
    • 血糖値が高めで、その改善も同時に目指したい。

BMIが高く、強力な効果と代謝改善を求める方 → マンジャロ

マンジャロは、最も新しい複合作用を持つため、特に高い効果が期待されています。

  • 体重減少を最優先する方
  • 過去にGLP-1製剤で期待した効果が得られなかった方
  • 血糖値の改善も強く求める方

最適な選択は、必ずしも体重減少効果の強さだけではありません。治療の継続性(注射か内服か)、ライフスタイル、そして何よりも個々の持病や体質を総合的に判断することが重要です。


治療を始める前に知っておくべき副作用と注意点

医療ダイエットは、医師の管理下で行う治療であり、安全性が担保されていますが、薬剤である以上、副作用や注意点を理解しておく必要があります。

共通する主な副作用

ほとんどの薬剤で初期に見られるのは、消化器系の副作用です。

  • 吐き気、嘔吐、便秘、下痢: 特にGLP-1/GIP製剤(リベルサス、マンジャロ)で起こりやすく、体が薬に慣れるまでの初期段階(数週間)で見られることが多いです。投与量を徐々に増やすことで、この症状を軽減します。
  • 低血糖: 血糖値を下げる作用があるため、食事を極端に抜いたり、激しい運動をしたりした場合にリスクが高まります。低血糖症状(冷や汗、動悸、強い空腹感など)を感じた場合は、すぐに糖分を摂取する必要があります。

薬剤特有の注意点とリスク

  • カナグル(SGLT2阻害薬): 糖が尿中に排出されるため、尿路・性器感染症のリスクがわずかに高まります。また、利尿作用により脱水のリスクもあるため、特に夏場は意識的な水分補給が不可欠です。
  • リベルサス・マンジャロ(GLP-1/GIP作動薬): 非常に稀ですが、急性膵炎や甲状腺に影響を与えるリスクが報告されています。過去に膵炎や重度の消化器疾患、甲状腺疾患の既往がある方は、必ず事前に医師に申告し、適応を慎重に判断する必要があります。

自己判断の危険性

医療ダイエットは、個人輸入などで安易に手に入れられるものではありません。これら全てが医師の処方が必要な医療薬です。

  • 医師の管理が必要な理由: 副作用のモニタリング、投与量の段階的な調整、そして最も重要な既往歴や併用薬との相互作用の確認は、専門医が行うべき必須プロセスです。自己判断での使用は、重大な健康被害につながる危険性があります。

まとめ

医療ダイエットの登場により、従来の「努力と根性」に頼るダイエットの時代は終わりを告げました。科学の力で食欲や代謝といった体の根本にアプローチすることで、リバウンドしにくい、健康的な体を手に入れることが可能になっています。

カナグル、リベルサス、マンジャロ、それぞれに強力な効果と特長がありますが、どの薬があなたにとって最適かは、個々の生活習慣、体質、目標、そして持病によって異なります。

当院では、患者様一人ひとりに丁寧な問診と検査を行い、専門医による診断のもと、最適な薬剤と指導を提供する「オーダーメイド治療」を徹底しています。

医療ダイエットは、単に薬の処方で終わりではありません。医師があなたのパーソナルな目標達成をサポートする、継続的なプログラムです。

理想の体を目指し、リバウンドのない健康的なダイエットをスタートさせたい方は、ぜひお気軽にご相談ください。

この記事をシェアする
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次