脂肪注入豊胸は1回じゃ足りない?2回に分ける理由とメリットとは

この記事は 木下 恵里沙 医師(形成外科専門医・美容外科医) が監修しています。

「1回で終わらないといけないと思っていました」
「もう少しボリュームがほしいけど、再注入ってしてもいいんですか?」

脂肪注入豊胸のカウンセリングで、こういったご相談をいただくことは少なくありません。

美容医療の世界では、“1回で完結する施術”に人気が集まりがちです。
ですが実際には、「無理に1回で完成させようとしない方が、仕上がりも満足度も高くなる」ことも多々あります。

特に脂肪注入による豊胸は、「育てるように仕上げていく」という考え方がとても大切です。

今回は、私が実際に担当した「40代女性・2回に分けて脂肪注入を行った症例」をご紹介しながら、

  • 脂肪注入を2回に分ける理由
  • 1回では難しいケースとは?
  • 2回に分けるメリットと、医師としての考え方

を、形成外科専門医の視点から、できるだけ分かりやすくお伝えしていきます。


目次

なぜ「1回で終わる」と思われがちなのか?

脂肪注入による豊胸を検討している患者様の多くが、最初に希望されるのは「1回で終わる方法」です。

これはごく自然な感覚で、

  • 手術の回数はなるべく少なくしたい
  • 何度もダウンタイムを取るのは難しい
  • 1回で“完成”すると思っていた

といった、生活や感情に基づいたお声によるものです。

ですが、脂肪注入という方法の本質を知っていただくと、「1回で完成させること」そのものが目的ではないということが見えてきます。

たとえば、バッグ豊胸であれば、1回で確実なボリュームアップが可能です。
一方で、脂肪注入は「生きた脂肪細胞」を胸に移植するという考え方になるため、「どれくらい定着するか」「どこまで入れられるか」には個人差や限界があります。

そのため、1回で無理に詰め込むよりも、2回に分けて“育てるように注入”した方が、結果的に理想のバストに近づけることがあるのです。

脂肪注入の基本|なぜ“全部”は残らないのか?

脂肪注入豊胸は、自分の脂肪を使って胸を大きくするという、非常に自然でナチュラルな豊胸術です。

ただし、「自分の脂肪を入れる=100%残る」と思ってしまうと、期待と結果にギャップが生まれてしまうこともあります。

実際には、脂肪注入後に胸の中に“生きて定着する脂肪”と、“吸収される脂肪”があり、全てが残るわけではありません。

脂肪は「生きもの」だからこそ吸収も起きる

脂肪注入は、単にボリュームを詰めるのではなく、「脂肪細胞を胸の中に移植し、そこに生きてもらう」という発想です。

脂肪細胞は血流のある組織内でないと生きられません。
そのため、胸に注入された脂肪がすべて血流を得られるわけではなく、一部は自然に吸収されてしまいます。

この“定着率”は、さまざまな報告がありますが、一般的に50〜70%程度とされており、患者さんによって個人差があります。

無理にたくさん入れる=かえってリスクになることも

「じゃあ、たくさん入れればその分残るのでは?」と思う方もいらっしゃいますが、これは逆効果になるリスクもあります。

脂肪は、一度にたくさん入れすぎると、

  • 中央部に酸素や栄養が届かず、脂肪が壊死してしまう
  • しこりや石灰化ができるリスクが高まる
  • 定着しないどころか、美しい形が崩れてしまう

といった問題を引き起こすことがあります。

だからこそ、“安全に定着できる量を見極めて注入する”というのが、脂肪注入豊胸の本質です。

この考え方に立つと、「1回で大量に入れるよりも、2回に分けて、皮膚や組織の状態を見ながら、無理なく仕上げていく」ことの合理性が見えてきます。

1回で終われる人、2回必要な人の違いとは?

脂肪注入豊胸は「回数ありき」ではなく、その人の体・バストの状態、脂肪の採取量、ご希望のボリュームなどによって、1回で十分な場合と、2回以上の注入が望ましい場合に分かれます。

ここでは、1回で終わる方・2回が必要になる方の典型的なパターンをご紹介します。


1回で終わることが多いケース

状況説明
もともとある程度バストがある方脂肪の“受け皿”があるため、必要量を1回で注入しやすい。仕上がりも自然になりやすい。
体型にある程度脂肪の余裕がある方採取できる脂肪の量が豊富なので、1回で目標ボリュームに届く可能性が高い。
控えめなバストアップを希望する方A→Bカップ程度の変化を希望する場合は、1回で十分満足されることも多い。
皮膚にハリがあり、伸びしろが少ない方注入スペースが限られるため、1回で適量を入れるのがベスト。

2回以上が望ましいケース

状況説明
バストのボリュームがかなり少ない方(Aカップ以下)1回で入れられる量が限られるため、2回に分けて“育てていく”必要がある。
皮膚に余白がある方(授乳後、ダイエット後など)スペースがある分、段階的に注入することで自然にボリュームを増やせる。
より大きなサイズアップを希望される方(C→Eカップなど)定着率を保ちながらボリュームを出すためには、複数回の注入が適している。
脂肪の採取可能量が1回で限られている方(痩せ型など)初回に少量注入→数ヶ月後に再注入というステップで理想に近づける。

バストの皮膚や脂肪の受け入れスペースというのは、“風船”に例えるとわかりやすいかもしれません。

  • 一気に空気を入れると破れてしまう(=過注入によるリスク)
  • 少しずつ膨らませることで、形もきれいに育つ(=段階的注入)

一度にすべてを詰め込むのではなく、「体にとって受け入れやすい量を、適切なタイミングで分けて注入する」ことで、結果としてバストの仕上がりも満足度も高くなります。

実際の症例紹介|40代女性・2回注入で育てたナチュラルバスト

今回ご紹介するのは、授乳歴のある40代女性
バストのボリュームロスに対する自然な回復をご希望され、脂肪注入豊胸を2回に分けて行うプランをご提案しました。


1回目術後3ヶ月:ベースの立体感を形成

コンデンスリッチ脂肪注入豊胸 症例
コンデンスリッチ脂肪注入豊胸 症例

初回の施術では、大腿後面から採取した良質な脂肪を、左右それぞれ300mlずつ注入。
胸の下部から外側にかけてバランスよく分散させ、自然な丸みとベースの立体感を意識して注入しています。

1回目の注入術後3ヶ月時点での変化は以下の通り:

  • バスト下部〜外側にかけてのボリューム増加
  • トップの位置が引き上がり、自然な乳房下縁のカーブが形成
  • 土台としてのラインが整い、無理のないボリューム感が出現

2回目術後1ヶ月:さらに丸みと高さをプラス

コンデンスリッチ脂肪注入豊胸 症例
コンデンスリッチ脂肪注入豊胸 症例

2回目の施術では、腹部から採取した脂肪を使用し、
右230ml/左180mlと、左右差を考慮した細やかな調整を行いました。
すでに1回目で皮膚の張りや注入スペースが整っていたため、より立体感とボリュームの精度を高める目的でデザインしています。

2回目の注入術後1ヶ月時点では:

  • デコルテ〜トップにかけての丸みと高さが明確にアップ
  • 下垂感が少なく、若々しい張りのあるバストラインに
  • 側面から見たときの前方への立体感もしっかり出現

Before →After

コンデンスリッチ脂肪注入豊胸 症例
コンデンスリッチ脂肪注入豊胸 症例

この症例からわかるのは、1回でも確かに変化は出るけれど、2回目を重ねることで「本当に目指したいバスト」に近づけるということ。

特に40代以降で、

  • 加齢や授乳後のボリュームロスが気になる方
  • 自然でやわらかい質感を大切にしたい方

にとっては、2回に分けてじっくり育てる豊胸は、非常に理にかなった選択肢だと感じています。

脂肪注入豊胸、2回に分けるメリット

脂肪注入豊胸において、「1回で終わらせたい」というお気持ちはよくわかります。
ですが、2回に分けて注入することで得られるメリットも非常に大きく、
“より安全に・より自然に・より理想に近づく”ための選択肢として有効です。

ここでは、医学的な視点と実際の仕上がりの観点から、2回注入のメリットを整理してお伝えします。


① 脂肪の定着率が高まりやすい

1回で多くの脂肪を詰め込むと、脂肪細胞がうまく血流を得られずに壊死したり、しこりになってしまうリスクがあります。

その点、2回に分けて適量ずつ注入することで、脂肪が生着しやすい環境を整えることができます。
結果として、脂肪の定着率が高まりやすくなり、見た目も触感も自然に近づきます。


② “土台”を作ったうえでの微調整ができる

1回目で全体のシルエットやベースの立体感を整え、
2回目で左右差やデコルテ・トップの丸みなど、細かいバランスを微調整できるのが2回注入の強みです。

これにより、「やっぱりもう少しデコルテに高さが欲しい」「トップの位置をもう少し出したい」など、
1回目の仕上がりを見てから、理想に近づけていく戦略がとれるのです。


③ よりナチュラルな質感・形になる

1回で一気にボリュームを出すと、どうしても「詰め込んだ感」が出やすくなります。
一方で、2回に分けると皮膚や周囲組織が段階的に変化に適応できるため、バストラインが自然に仕上がります。

とくに40代以降の方や授乳後のバストでは、皮膚の伸び・質感の調整が仕上がりに大きく影響します。
そういった方にこそ、段階的なアプローチが向いています。


④ 安全性と満足度の両立がしやすい

脂肪注入は「無理に入れすぎない」ことが基本ですが、
それは言い換えれば、「安全性を優先すると、1回で物足りなさを感じることがある」ということでもあります。

2回に分けることで、リスクを抑えながらも、満足いくボリュームを追求できる点は、
術後の満足度の高さにも直結します。

まとめ

脂肪注入豊胸は、“自分の体を活かして、自然なバストをつくる”という、非常にナチュラルで安全性の高い豊胸術です。

ただし、脂肪という素材の特性上、1回で理想のボリュームや形に到達しきれない場合もあるという点は、知っておいていただきたい大切なポイントです。


1回で終わる方も、もちろんいます

元々のバストにある程度ボリュームがある方や、控えめな変化をご希望の方では、1回の脂肪注入で十分ご満足いただけるケースも多くあります。

無理なく、自然な変化で終えられるのであれば、それが一番シンプルで理想的です。


でも、2回に分けることで得られる「理想」もある

一方で、しっかりとボリュームを出したい方や、皮膚に余裕のある方では、2回に分けて計画的に注入した方が、定着率・仕上がりともに優れた結果につながることが多いのです。

  • 脂肪が生きやすい環境をつくり
  • デザインを微調整しながら仕上げていく
  • 安全性と美しさを両立するための最善策として

「2回に分ける」という選択は、決して妥協ではなく、“あなたにとってのベスト”を叶えるための手段だと、私は考えています。


当院では、患者様一人ひとりの

  • 体型
  • ご希望のサイズ感
  • 採取できる脂肪の量
  • バストの皮膚の状態

などを丁寧に診察し、1回で終えるべきか、2回に分けた方がよいかを個別にご提案しています。

決して回数ありきではなく、あなたに合った方法を一緒に考えますので、まずはカウンセリングでご相談ください。


私はこれまで、乳がん手術後の乳房再建や、複雑な胸の再建にも多く携わってきました。
脂肪や組織の扱いには熟知しており、美容医療の分野でも、安全性と仕上がりの両立を大切にしています。

だからこそ、美しさだけでなく、医学的な根拠に基づいた提案ができるのが当院の強みです。

ぜひお気軽にご連絡ください。

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