オトガイ形成術は、フェイスラインを美しく整える目的で行われる施術です。しかし中には、術後に「顎が尖って見える」「思っていた印象と違う」といった違和感を感じる方もいらっしゃいます。
とくに「魔女顎」と呼ばれる、顎先が鋭く見える状態は、日常的なコンプレックスや後悔につながることも少なくありません。
この記事では、魔女顎が起こる原因やその改善方法について、医師の立場から詳しくご説明します。
「魔女顎」とは?

「魔女顎」とは、顎先が尖りすぎて不自然に見える状態を指します。
主に以下のような特徴が見られます。
- 顎が長く、前方へ尖って見える
- 横顔のラインが鋭角になりすぎる
- 顔全体が硬く、キツい印象を与える
このような状態は、ナチュラルでバランスの取れたフェイスラインとはかけ離れ、見た目だけでなく日常生活にも影響を及ぼすことがあります。
原因はさまざまで、先天的な骨格の影響に加えて、ヒアルロン酸注入や脂肪移植による顎周りのボリューム変化などが挙げられます。
中でも、最も多くご相談いただくのが「オトガイ形成後に魔女顎になってしまった」というケースです。
今回はこのオトガイ形成後に起こる変化について詳しく解説します。
オトガイ形成後に魔女顎になる理由とは?
1. 骨の移動が過剰 or 不適切な方向
顎先を前に出すオトガイ形成術で、移動量が多すぎたり、前ではなく下方向に移動されてしまった場合、顎が過剰に尖ったり垂れたように見えることがあります。
この場合、顎の自然なラインが崩れ、横顔が鋭角になりすぎて魔女顎のような印象になります。
2. 顎先の削りすぎ・切り飛ばし・過度の短縮
「顎を目立たせたくない」「引っ込めたい」といった希望に応じて、顎先を大きく削ったり、切り飛ばすような骨切りが行われることがあります。
しかし、これによって骨の土台が小さくなりすぎると、皮膚が余って顎先がたるみ、下に伸びたようなラインになることがあります。
さらに、過度に短縮された顎はバランスを失い、顔全体の縦の比率が崩れてしまうため、逆に顎が浮き立って見える原因にもなります。
3. 顎先の後退・幅の調整不足
顎を後退させた場合、顎下の皮膚や脂肪が余ってたるみやすくなるため、結果として二重顎や魔女顎のような下垂が目立つケースがあります。
また、顎先の幅が狭すぎたり、ラインが急激に細くなるようなデザインも、不自然な尖り感の原因となります。
4. 筋肉の切離によるアゴ下のたるみ
オトガイ形成術の際に、骨の裏側に付着する顎二腹筋や顎舌骨筋を切離する場合があります。
これらの筋肉は、顎下の軟部組織を支える役割を担っているため、切離によって支えが弱まり、術後にアゴ下のたるみや二重顎が生じる可能性があります。
特に骨の移動方向や組織の処理が不十分な場合、このアゴ下の弛みが前方へ垂れて魔女顎のような形状につながることもあります。
5. 術後の皮膚・筋肉の拘縮や癒着
骨の形状が変わることで、皮膚や筋肉・脂肪といった軟部組織がうまく馴染まず、引きつったり癒着を起こすことがあります。
この拘縮により、顎先が引っ張られたり浮いたような形になり、自然なラインが失われることも、魔女顎の一因となります。
魔女顎は治せる?改善のための手術方法

魔女顎の改善にはいくつかの方法がありますが、オトガイ形成術後に皮膚や軟部組織が下に垂れてしまったケースに対しては、口腔内アプローチによる軟部組織の引き上げ手術(いわゆる魔女顎手術)が有効です。
この手術では、外からの見た目に傷が残らないよう口腔内(下唇の裏側)からアプローチし、顎下のたるみや尖りを根本から整えていきます。
魔女顎手術の具体的な流れ
- 口腔内(下唇の裏)を切開
外から見えない場所を切開するため、術後に表面に傷が残ることはありません。 - 過剰な脂肪・軟部組織の除去
魔女顎の原因となっている顎先〜顎下にかけての余分な脂肪やゆるんだ組織を丁寧に取り除きます。
単に脂肪を減らすだけでなく、たるみの元になる組織ごと整えるのがポイントです。 - 筋肉・組織を骨膜方向に引き上げて固定
この手術の最大の特徴は、筋肉や皮膚の土台となる軟部組織を骨の膜に向かってしっかり縫合・引き上げる処置にあります。
この工程により、顎先の垂れ感やたるみを根本的に改善し、自然でシャープなラインを形成します。 - 切開部を丁寧に縫合して終了
吸収糸を使用するため、基本的に抜糸の必要はなく、術後のダウンタイムも比較的軽度です。
この手術が向いている方
- オトガイ形成後に顎先が下に垂れて見える方
- 顎が細く尖りすぎてしまったと感じる方
- 骨やプロテーゼは問題ないが、皮膚や筋肉のたるみが原因でラインが崩れている方
- 自然なフェイスラインを取り戻したい方
メリットと特徴
- 外表に傷が残らない(口腔内からのアプローチ)
- 脂肪除去+組織引き上げによりたるみ改善効果が高い
- 再骨切り不要で、比較的低侵襲
- 顎の形を大きく変えるのではなく、“整える”施術
魔女顎手術は、「何となく顎のラインが不自然」「垂れて見える」といった感覚的な違和感にもしっかり対応できる、繊細かつ的確なアプローチです。
「再手術までは考えていなかったけれど、今の顎に納得できていない」という方にもおすすめの施術です。
術後の経過と注意点
魔女顎手術は比較的ダウンタイムの少ない施術ですが、術後は体の回復期間として、以下のような経過が予想されます。
【ダウンタイムについて】
- 腫れ・むくみ
術後1週間程度は、顎周りに目立つ腫れが生じます。徐々に落ち着いていき、約2〜3週間で目立たなくなる方が多いです。 - 内出血
まれに顎下〜首元に内出血が出ることがありますが、1〜2週間で自然に吸収されていきます。 - 痛み・違和感
術後数日は軽い痛みやつっぱり感が出ることがありますが、処方された鎮痛剤でコントロール可能です。 - しびれ感
一時的なしびれや感覚の鈍さが出る場合がありますが、通常は時間の経過とともに改善します。
【生活上の注意点】
- 洗顔・メイク:当日から可能ですが、強くこすらないようにご注意ください。
- シャワー・入浴:シャワーは翌日から可能です。入浴は腫れが落ち着くまでは軽めにしてください。
- 食事:術後数日は柔らかいものを中心に。口の中の傷を刺激しないようにしましょう。
- 飲酒・運動:腫れや内出血が悪化する可能性があるため、1週間程度は控えてください。
【アフターケア】
- 抜糸:使用するのは吸収糸のため、基本的には抜糸の必要はありません。
希望される場合は、術後1週間以降に対応可能です。 - 通院:特別な通院は不要ですが、腫れや痛みが強い場合、不安がある場合はいつでもご連絡ください。
【考えられるリスク・副作用】
- 腫れ、内出血、痛み
- 表情の違和感
- 一時的なしびれ
- 後戻りの可能性(組織が元の位置に戻ろうとする力)
いずれの症状もほとんどの場合は時間とともに改善しますが、術後の経過が不安な際は、無理せず早めにご相談ください。
オトガイ形成後、魔女顎手術のタイミング
オトガイ手術後に魔女顎手術がしたい場合ですが、前回の手術から3〜6ヶ月以上経過していることが望ましいです。これは、腫れや拘縮が落ち着き、組織の状態が安定してからでないと、正確な診断と適切な修正が難しいためです。
実際の症例




施術内容:お鼻と顎先の修正手術を受けられたお客様の症例です。
お鼻は、以前投稿したワシ鼻と鼻先が垂れた魔女鼻の治療を行い、自然なラインを整えました。
そして今回は、術後1年半が経過し、骨切りによって垂れ下がった顎先を引き上げる「魔女顎手術」を実施しました。
顎の軟部組織のボリュームを適切に調整し、筋膜を挙上・固定することで、骨切り後に目立ちやすい顎のたるみを改善しています。フェイスライン全体のバランスを意識したアプローチです。
まとめ
オトガイ形成術は、理想のフェイスラインを手に入れるための有効な選択肢のひとつです。しかしながら、術後の結果がイメージと異なり、「顎が尖ってしまった」「横顔が不自然に見える」などの違和感を抱える方も少なくありません。
中でも「魔女顎」と呼ばれる状態は、顎先が細く下がって見えることで、顔全体の印象が硬く見えたり、年齢以上に老けて見られる原因になることもあります。このような変化は、決して患者様ご自身の責任ではなく、骨格・施術内容・組織の反応など複合的な要因が関与して起こるものです。
とはいえ、術後の違和感を抱えたまま生活を送るのは、心にも大きなストレスを与えてしまいます。「治すことはできないのでは…」と不安になる方もいらっしゃいますが、ご安心ください。魔女顎は、原因を丁寧に診断し、適切なアプローチを選択することで、修正・改善が可能な状態です。
当院では、オトガイ形成後の修正を含む輪郭形成術のご相談を多くいただいており、CT撮影や触診を通して、現在の状態を正確に評価したうえで、再骨切りや組織の引き上げなど患者様に最適な治療プランをご提案しております。
「本当に修正できるの?」「どこに相談すればいいか分からない」とお悩みの方はお気軽にご相談ください。