鼻プロテーゼへの老後への影響は?どんな合併症が起こる?

僕は鼻の手術のカウンセリングの際、よく軟骨移植がいいと話すのですが、

「じゃあプロテーゼはだめなのか?」

といった質問を多くされます。他にもプロテーゼを入れていることで老後トラブルが生じたりしたらどうしようと不安に思っている方や、人工物を入れることに抵抗のある方も多くおられます。

今日は鼻プロテーゼについてお話したいと思います。

目次

鼻プロテーゼとは

鼻プロテーゼとは、鼻にプロテーゼという人工物を挿入して鼻を高くしたり、鼻筋を整える施術です。

プロテーゼは、主に2つの素材が使用されています。

・シリコン

・ゴアテックス

どちらも体内に入れても非常に安定している素材で、長期的に入れていても劣化が起きにくい素材です。

似たような素材で輪ゴムがあるのですが、輪ゴムは何年も経つと硬く白くなり、ゴワゴワになりますよね。ですが、シリコンやゴアテックスはこういったことは起こりません。

10年20年たって取り出しても、そのままです。ですので、プロテーゼ自体が悪くなって取り出さないといけなくなる、ということはないのです。

では長期的に体内に置いておいても問題ないのではないか?

というと、そうではないのです。プロテーゼは体に元々あるものではないので、いわば異物です。「異物反応」が体の中で起きることがあるのです。

プロテーゼで起こりうるトラブル

異物反応とは

体の中に自分の組織以外のものが入ってくると、体はその異物を外に出そうとします。被膜という膜でシリコンを包み、ひとつバリアみたいなもので巻いて、体とは別のものとして包み込んでしまう、こういった体の防御反応が働きます。

体の防御機能ですので、常に体も異物として認識するのです。この異物反応があまり激しくなっていない時は、トラブルにはなりづらいのですが、長期的に異物反応が起き続ける慢性炎症は、石灰化や被膜の拘縮(ひきつれ)などのリスクが生じます。

石灰化とは

できた被膜や炎症の組織が、徐々に「異種性の骨化」といってカルシウムが沈着してきます。そうすると、入れているプロテーゼ自体の性質は変わらないのですが、プロテーゼを包む膜や周りの組織が硬くなってしまいます。周りが硬くなってしまうと、触るとこりこりと骨のように触れてしまったりすることがあります。またそこまで石灰化していなくても、被膜が分厚くなってくることでプロテーゼの縁が浮いてきたりすることもあります。

被膜の拘縮とは

拘縮とはひきつれのことですが、できた被膜が徐々に小さくなって、形が変わってしまう、というリスクがあります。プロテーゼそのものは何も変わらない、だけどその周りの組織が変形していき、鼻が変形してしまうのです。

怖いことをたくさん言いましたが、もちろんプロテーゼを入れて何も起こらない人もいます。

むしろ最近はプロテーゼ長期間入れていても石灰化や被膜の拘縮は起きづらくなっている印象です。これは素材がよくなってきているからだと思います。同じシリコンやゴアテックスの中でも、生体親和性といって、より体に適合しやすいような素材が開発されているので、以前に比べるとトラブルは減っているように思います。

ただ異物を受け入れられない体質の人もいるので、同じプロテーゼを入れても、

・全くなにも起こらない人

・すぐに感染してしまう人

・入れたときは何もなかったが長期的にトラブルになる人

がいます。

一番怖いのは長期的にトラブルになる人です。

あとは、プロテーゼを入れた後安定しているように見えても、急にトラブルが起きる場合があります。その代表的なものが「感染症」です。

普段は何もなっていなくても、鼻にニキビや傷ができる、あとはダーマペンやニードルRF等の皮膚科の処置で肌に小さい傷ができる、するとそこから菌が入る可能性があります。プロテーゼが入っていると、皮膚はプロテーゼに押されて少し薄くなっている状態です。薄くなった皮膚を通過し、プロテーゼの近くに菌が入ってしまうと急に感染したりすることがあります。

黄色ブドウ球菌という菌によってニキビの炎症を起こすのですが、この黄色ブドウ球菌がプロテーゼについてしまって感染すると結構大変です。被膜で包まれていたりすると、被膜の中は血流がないので白血球が届かず、菌が付いてしまうと治りません。

プロテーゼを入れているということは、今は何もなくてもそこは常に自分の組織だけの場所とは違い異物があるため、感染のリスクが高くなるというわけです。

反対にメリットもたくさんあります。

やっぱり綺麗な鼻筋はプロテーゼが一番創りやすいです。しかも自分の軟骨や筋膜をとってくる場合とは違って、自分の健康なところを切る必要がありません。

こういったメリット、デメリットをよく考えて使うことが重要です。

プロテーゼは種類によって見た目(形)の違いはあるか?

まず主に使用されるプロテーゼは、

・シリコン

・ゴアテックス

この2つです。基本的にはどちらの素材を使っても見た目(形)の違いはありません。同じ形に作ってしまえば、どちらの素材を使おうと同じ鼻の形ができます。

この2つの違いを簡単に説明します。

素材の違い

✓シリコン
弾性がないので、形が変わりづらい、入れた状態の形で維持しやすい

✓ゴアテックス
スポンジのような素材なので、圧迫に弱く押されると少し沈んだ状態の形になる

組織へのなじみ方

✓シリコン
組織となじみにくいのでプロテーゼが入っている、という感じはある

✓ゴアテックス
組織となじみやすいので、プロテーゼが入っている感じは少ない

癒着の違い

✓シリコン
被膜をつくる、明確に周りの組織と分断されて膜をつくる
感染が起きた時取り出しやすい

✓ゴアテックス
膜がなく組織と癒着する、全部が被膜で覆われているものはあまりない(※一部被膜になっている例外もある)
感染が起きた時取り出しにくい

素材の違いによってこういった違い(メリット・デメリット)があります。

オーダーメイドプロテーゼはいいのか?

顔のCT画像を撮って、ご自身の骨に合わせたプロテーゼを注文して作るのがオーダーメイドプロテーゼです。オーダーメイドだと、眉間や鼻先まで全部形を計算してつくることができますが、既製品でも綺麗に鼻や眉間までつくることは可能です。ですが、一番はドクターの経験とセンスによると思います。

僕の考えるプロテーゼのメリット・デメリット

✓メリット
“楽”です。
つくったものを体の中に入れるだけなので、手術自体も楽だし、患者さんの負担も楽です。

✓デメリット
急性期の合併症(感染や変形)
長期的にみても合併症が起こるリスクがある

プロテーゼで合併症が起きた方の実際の症例

【術式】
鼻中隔延長(肋軟骨)、鼻尖形成、猫貴族手術、鼻骨骨切、ハンプ修正、プロテーゼ抜去、鼻筋再建、オトガイ骨切
術直後

【リスク・副作用】
感染、変形、左右差、後戻り、鼻閉、マヒ、可動性の変化、イメージとの相違等

【施術費用】
鼻中隔延長(肋軟骨)¥860,000、鼻尖形成¥337,000、猫貴族手術¥660,000、鼻骨骨切り¥550,000、ハンプ修正¥440,000、オトガイ骨切¥1,200,000
※再建、他院修正費用別途※これ以外に、検査費用・麻酔費用等がかかることがあります。※モニター等で変動があります。

長年L型プロテーゼを入れられていた方です。

鼻先も鼻尖形成されていましたが、鼻筋から鼻先にかけての拘縮に負けて、鼻先が眉間に向けて引っ張られていました。

引っ張ってみてもびくともしません。開けるとやっぱり粘膜もカチカチに拘縮していました。

丁寧に被膜を剥離して拘縮を解除し、プロテーゼを抜いて凹んだ鼻筋を骨切と軟骨移植で再建しています。

鼻先を5mm以上下げているので、鼻筋の開始点であるナジオンを下げてバランスを調節しています。

これで鼻が長くなりません。

また高くなった鼻先に合わせて猫貴族手術で土台の高さも出しています。

これで鼻だけが長く見えないんです。

同時にオトガイ骨切で、Eラインも整えています。

鼻だけじゃなく顔全体のバランスを見て最適な治療を選択しています。

まとめ

本日はプロテーゼについてお話しました。

プロテーゼはたくさんの先生に使われているだけあって、もちろんメリットも大きいです。

今日お話ししたリスク(デメリット)というのは、ごく稀に起こる感染症や、長期的に色々な人を追っていると時々起こる石灰化などのリスクです。こういったリスクはプロテーゼを入れている多くの人の中のごく一部の人が起こる合併症です。必ず起こるわけではありません。長期的に入れていても合併症が起きていない人ももちろんいます。

ですので、プロテーゼが悪いよというわけではなくて、こういったリスクがあることを理解した上で検討することが大事だということです。

当院はプロテーゼも用意しています。

色々なサイズのものや、オーダーメイドプロテーゼも対応可能です。あと当院はCT撮影ができるため、CT撮影したデータを確認し、3Dのモデルをつくってオーダーメイドプロテーゼを最速でつくることも可能です。

当院でもプロテーゼをやることはあるのですが、割合的には少なくなってきています。軟骨移植をされる方の方が多いです。軟骨を鼻に入れて高さを出すには、ある程度限界はあります。ですが5mm、6mmぐらいの高さを出すのは軟骨でも十分可能です。

プロテーゼを抜去して、自家組織でつくり直す手術も得意としています。お気軽にご相談ください。

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