【専門医解説】ヒアルロン酸やプロテーゼに頼らない!自家肋軟骨で行う顎形成のメリット

この記事は 前田 翔 医師(形成外科専門医・美容外科専門医) が監修しています。

目次

顎は「顔の輪郭」を決める重要なパーツ

横顔を見たときに「顎が小さい」「引っ込んでいる」「Eラインが整っていない」と感じたことはありませんか?
顎は、顔全体のバランスを決める非常に重要な部位です。わずかに前へ出るだけで横顔の印象は大きく変わりますし、正面から見ても小顔に見せる効果があります。

僕のクリニックにも「顎が小さいせいで顔が丸く見える」「Eラインを整えたい」「横顔をもっとスッキリさせたい」といった理由でご相談に来られる方が多くいらっしゃいます。

顎形成にはいくつかの方法がありますが、それぞれにメリットとデメリットがあります。安易に「手軽だから」と選んでしまうと、将来的に後悔につながるケースも少なくありません。

本記事では、僕が実際に行った 自家肋軟骨を用いた顎形成術 の症例写真を交えながら、

  • 顎形成の一般的な方法とリスク
  • ヒアルロン酸やプロテーゼの限界
  • 骨切り手術との違い
  • 自家組織で行う顎形成のメリット
  • 顎の解剖学とEラインの基準
    を詳しく解説していきます。

顎形成の一般的な方法とそれぞれの特徴

顎を前に出したり、形を整えたりする方法はいくつかあります。大きく分けると次の4つです。

ヒアルロン酸注入

もっとも手軽でポピュラーなのがヒアルロン酸注入です。
注射だけで済むためダウンタイムもほとんどなく、数分〜十数分で顎のラインを整えることができます。

メリット

  • 施術が短時間で終わる
  • ダウンタイムが少ない
  • 修正がしやすい

デメリット

  • 数ヶ月〜1年程度で吸収されるため、繰り返し注入が必要
  • 長期間繰り返すと顎の骨が吸収されてしまうことがある
  • 感染やしこりのリスク

「まずは試してみたい」「ダウンタイムを取れない」という方には向いていますが、長期的に顎を整えたい方にはあまりおすすめできません。

プロテーゼ挿入

小さな切開をしてシリコン製のプロテーゼを挿入する方法です。
ヒアルロン酸よりも長く効果が持続し、形もある程度自由にデザインできます。

メリット

  • 半永久的に効果が持続する
  • 顎の大きさや形を自由に調整できる

デメリット

  • 異物反応による炎症や感染のリスク
  • 位置がずれてしまうことがある
  • 骨が吸収され、顎がかえって小さくなってしまうケースがある

実際に「プロテーゼを入れたのに顎がなくなってしまった」という相談を受けることもあります。

骨切り(オトガイ形成術)

下顎の骨そのものを切って前に出す方法です。
顎の形を根本的に変えることができ、大きな変化を得られます。

メリット

  • 骨を直接動かすため確実性が高い
  • 大きな変化を出すことができる

デメリット

  • 全身麻酔が必要
  • ダウンタイムが長い(数ヶ月)
  • 神経障害や感覚異常のリスク

確実に大きな変化を求める方には適していますが、身体的負担が大きいため「できれば避けたい」と思う方も少なくありません。

自家肋軟骨移植

自分の肋骨から採取した軟骨を顎先に移植する方法です。
異物を使わないため、拒絶反応や骨吸収のリスクがなく、安全性が高いのが最大の特徴です。

メリット

  • 異物反応がなく、半永久的に維持できる
  • 感染しにくく、自然な仕上がり

デメリット

  • 肋軟骨を採取する必要がある
  • 稀に変形や後戻りが起こる

「異物は入れたくないけれど、骨切りのような大掛かりな手術は避けたい」──そんな方にとって、非常に現実的で安全な方法といえます。

自家肋軟骨による顎形成とは?

自家肋軟骨による顎形成は、自分の胸部(肋骨)から採取した軟骨を移植する方法です。
「異物を入れたくない」「ヒアルロン酸を繰り返すのはもう限界」という方にとって、非常に現実的で安全な選択肢になります。

どのように肋軟骨を使うのか?

手術では胸の下部を数センチ切開して軟骨を取り出します。
採取した軟骨を顎先に合わせて削り、自然なラインになるように移植します。

他の軟骨との違い

顎形成に使える軟骨は、耳や鼻中隔からも採取可能です。
しかし、これらは量が少なく柔らかいため、顎先のようにしっかり支えが必要な部位には不向きです。
その点、肋軟骨は大きさも硬さも十分にあり、長期的に安定した形を保つことができます。

「なぜ肋軟骨なのか」

  • 骨のように固さがある → 顎先の形をきちんと作れる
  • 異物ではない → 拒絶反応や骨吸収の心配がない
  • 加工性に優れる → 1mm単位で細かいデザインが可能

メリット・デメリットの再整理

メリット

  • 半永久的に維持できる
  • 骨が溶けない
  • 感染リスクが少ない
  • 自然でしなやかなラインが作れる

デメリット

  • 胸に小さな傷が残る
  • 採取部位に一時的な痛みが出る
  • ごく稀に変形や後戻りが起こる

Eライン(エステティックライン)の基準とは?

一般的には「唇がEラインから大きくはみ出していない」ことが、美しい横顔の条件とされています。
欧米の基準では、

  • 上唇がEラインより数mm内側
  • 下唇がEラインよりさらに少し内側

にあるのが理想的とされています。

ただし、この基準はアメリカの矯正歯科医ロバート・リケッツが提唱したものです。
そのため、日本人を含むアジア人には必ずしも当てはまるとは限りません。

日本人にとってのEライン

日本人は欧米人と比べて

  • 鼻が低め
  • 顎がやや後退している傾向

があるため、唇がEラインに少し触れる程度でも十分に美しい横顔に見えます。
むしろ「Eラインより唇がすべて内側に収まっている」状態だと、かえって不自然に感じることもあります。

僕の臨床経験から言えば、上唇がEラインに軽く触れ、下唇がそこから少し内側にある横顔が、日本人にとってもっとも自然でバランスの取れたラインだと感じます。

ただし、これはあくまで一つの目安にすぎません。
鼻の高さや唇の厚み、顎の出方など、顔のバランスは人それぞれです。
同じ「Eラインからの距離」でも、ある人には美しく見え、別の人には不自然に映ることもあります。

つまり、Eラインは横顔の美しさを考える上で便利な指標ではあるけれど、絶対的な基準ではないのです。
実際の手術では、この指標を参考にしながらも、患者さん一人ひとりの骨格や顔全体のバランスを見極めてデザインすることが重要だと僕は考えています。

顎形成とEラインの関係

顎形成は単に「顎を前に出す手術」ではありません。
大切なのは、Eラインを整えることで横顔全体の調和をととのえることです。

顎を少し前に出すだけで起こる変化

  • 鼻と唇、顎の位置関係が整い、横顔がスッキリ見える
  • 唇がEラインに近づくことで「口ゴボ(口元の突出感)」がやわらぐ
  • フェイスラインが引き締まり、小顔効果が出る
  • 首との境界がくっきりして、若々しく見える

このように、顎先のわずかな移動が「横顔の印象全体」を大きく左右します。

個人ごとの最適バランス

ただし、Eラインを「誰もが同じ形に近づければいい」というものではありません。
唇の厚さ、鼻の高さ、顔の骨格などによって、似合うラインは変わります。

僕が実際にデザインするときは、Eラインを参考にしつつも「患者さんごとに最も自然に見える位置」を探ります。
無理に基準に合わせるのではなく、その人自身が持つ雰囲気や骨格を活かした顎形成を行うことが、美しい仕上がりにつながります。

症例紹介:自家肋軟骨による顎形成で自然なEラインへ

ここからは、実際に僕が担当した患者様の症例をご紹介します。

患者様は、顎が小さいために横顔が平坦に見え、Eラインが整わず口元がやや前に出ている印象でした。
このようなケースでは、写真を撮った際や会話中に横顔が強調されやすく、全体のバランスが気になる方が多くいらっしゃいます。

診察とデザイン

診察すると、顎先がやや後退しており、正面からも下顔面にボリューム不足が見られました。
Eライン上では、上下の唇が少し前方に位置していて、口ゴボ感が強調される状態でした。

僕はこの方に対し、自家肋軟骨を移植して顎先を適度に前方へ出すデザインを提案しました。
ただ単に前へ出すのではなく、下方向にもわずかにボリュームを足すことで、フェイスラインの流れをなめらかにし、小顔効果も狙っています。

施術内容

  • 施術名:顎形成術(自家肋軟骨移植)
  • 使用軟骨:肋軟骨
  • 費用:40万円

胸部から小さく切開して肋軟骨を採取し、顎先に合わせて成形。
顎先の骨にしっかりフィットするように配置し、自然なカーブを意識して移植しました。

経過と結果

  • 術後2週間
    腫れが落ち着き、顎先が前方に出ることで横顔のラインが自然に整いました。
    正面からは輪郭がシャープになり、フェイスラインの印象がすっきり。
    横顔ではEライン上に上唇が軽く触れ、下唇がわずかに内側へ入る理想的なバランスに近づきました。

この症例からも分かるように、自家肋軟骨を使った顎形成は「ただ顎を大きくする」のではなく、横顔全体のバランスを整えることが目的です。

まとめ

顎は、顔全体の印象を決定づける大切なパーツです。
ほんの数ミリ整えるだけで、横顔のバランスが改善され、若々しさや小顔効果までも引き出すことができます。

顎形成にはいくつかの方法がありますが、

  • ヒアルロン酸は手軽だが繰り返しが必要で、長期的には骨吸収のリスクがある
  • プロテーゼは半永久的に保てる一方、異物反応や位置ずれのリスクがある
  • 骨切りは確実だが身体への負担が大きい

こうした方法の中で、自家肋軟骨を用いた顎形成は、異物を使わずに自然で長期的な結果を得られる点でとても優れた選択肢です。

Eラインの基準はあくまで目安であり、すべての人に同じ形が当てはまるわけではありません。
その人の骨格や唇の厚さ、鼻の高さなどを踏まえ、個々に最も調和の取れたラインをデザインしていくことが重要です。

僕は常に「顎単体を大きくする」のではなく、顔全体のバランスをどう整えるかを重視しています。
無理に理想値に合わせるのではなく、その人らしい自然さを引き出す顎形成を心がけています。

「横顔に自信を持ちたい」「顎が小さいせいでバランスが悪い気がする」
そんな方は、ぜひ一度ご相談ください。

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