10年前の豊胸バッグを取りたい!除去後の脂肪注入は安全?

こんにちは。美容外科・形成外科専門医の木下恵里沙です。

今回のコラムでは、「過去にシリコンバッグによる豊胸を受けた方が、バッグの取り出しを考えたときに感じる不安」や「除去後の胸の状態」「その後に脂肪注入での再建は可能か?」といったテーマについて、専門的な視点からわかりやすく解説していきます。

実際に「10年以上前に豊胸をしたけど、最近違和感が出てきた」「抜きたいけど、その後どうなるの?」というご相談はとても多く、豊胸経験者にとって“バッグ抜去”は今やごく身近な選択肢となっています。


目次

なぜ今、バッグを取りたい人が増えているのか?

10〜20年前は、豊胸といえばシリコンバッグや生理食塩水バッグを使うのが一般的でした。当時の技術でも多くの方が満足されていましたが、年月の経過とともに、次のような理由から「そろそろバッグを外したい」と感じる方が増えています。

  • 被膜拘縮(カプセル)の進行:長期間体内に留置されていると、バッグの周囲に硬い膜ができることがあり、形の変化や違和感の原因になります。
  • 加齢による体型変化:皮膚のハリや筋肉の支えが弱くなり、バッグの位置や重みの影響が出てくることがあります。
  • 見た目・感触の変化:年齢とともに、過去のデザインが“今の自分”に合わなくなったと感じる方も。
  • 健康リスクへの意識の高まり:稀に報告される合併症(例:BIA-ALCLなど)をきっかけに、安心を求めて除去を検討される方もいます。

特に古いタイプのバッグでは、素材や構造の違いから経年による変化が出やすいこともあります。現在主流のバッグは安全性・柔らかさともに大きく改良されており、必ずしも“バッグ=将来不安”ではありません。

ですが、「今の自分の体に合った選択肢を考えたい」と思ったとき、バッグの見直しや除去はとても前向きな判断です。「なんとなく違和感がある」「昔と形が違う気がする」と感じたら、画像検査で一度状態を確認しておくと安心です。


バッグ除去後の胸はどう変化する?

バッグを除去すると、バストは一時的にボリュームを失います。特に皮膚が長年バッグにより伸展されていた場合、その余りによってたるみやしぼみが強調されることがあります。

代表的な変化は以下のとおりです。

  • 皮膚の余りによるたるみ
  • デコルテ部分のボリュームロス
  • 輪郭の不整や左右差の目立ち

加齢とともに皮膚の弾力は低下していきますので、抜去後は「想像よりもボリュームが減った」「張りがなくなって気になる」と感じる方も少なくありません。こうした変化に対応するため、脂肪注入による自然な再建を希望される方が増えています。


バッグ抜去手術の流れとポイント

バッグの抜去手術は、適切な術前評価と丁寧な操作が求められる治療です。手術の概要は以下のとおりです。

  1. 術前診察とエコー評価:バッグの種類、位置、被膜の状態、破損の有無を確認します。
  2. 麻酔:全身麻酔または静脈麻酔を選択。
  3. 皮膚切開:既存の傷(脇や乳房下縁など)を再利用して切開。
  4. バッグ除去:癒着をはがしながら慎重に取り出します。
  5. 被膜の処理:拘縮が強い場合は被膜も一緒に除去(カプセル除去)。
  6. 止血・縫合・圧迫固定

術後は圧迫固定を行い、炎症や浮腫を防ぎながら回復を待ちます。日帰り手術が可能な場合もありますが、症例によっては一泊入院が推奨されることもあります。


バッグ除去後に脂肪注入はできる?

はい、バッグを除去したあとに脂肪注入で再建することは可能です。ただし、除去と同時に注入するのではなく、炎症や腫れが落ち着いたあと、数ヶ月おいてから再注入を行うのが基本です。

脂肪注入は、ただ脂肪を入れるだけではなく、「どの層に・どれだけ・どう分散して入れるか」という繊細な設計が求められる施術です。バッグ除去によって変化した胸の構造を正確に把握し、その方の皮膚の厚みや弾力、希望のボリュームなどを丁寧に評価したうえで、最も自然で美しいバストをつくるようにデザインします。

バッグ抜去後の胸は、皮膚の伸びや皮下組織の癒着などにより、通常の脂肪注入とはまた違った注意点があります。だからこそ、形成外科と美容外科の両方の視点からアプローチできる経験が重要です。


脂肪注入の設計と注入層の考え方

脂肪注入で重要なのは、どの層にどのように入れるかという「層別設計」です。

  • 皮下脂肪層:やわらかなボリューム感を作りやすく、デコルテラインの丸みを演出します。
  • 乳腺下層:バスト中央に高さや張りを持たせる役割があります。
  • 筋膜下・大胸筋下層:比較的厚みのある基盤層で、全体の安定性と土台を作ります。

これらを層ごとにミルフィーユ状に重ねながら、1ヶ所にまとめて注入するのではなく、微量ずつ分散させることで定着率を上げ、しこりを防ぐことができます。


脂肪の採取と生着率を高める工夫

脂肪注入には、患者様ご自身の脂肪を使います。よく使用する採取部位は腹部・太もも・腰回りなどで、痩せ型の方でも丁寧に計画すれば十分な量を採取することが可能です。

生着率を高めるための工夫として、

  • コンデンスリッチファットなど、濃縮処理された脂肪を使用
  • 脂肪を痛めないように低圧・低速で吸引
  • 空気に触れないように脂肪を管理し、無菌状態を保つ
  • 喫煙や過度の飲酒、術後の過度な運動を控えていただくなど、生活習慣の指導も重要です

脂肪は“植える”感覚で扱う必要があります。一箇所にまとめて入れると酸素不足により壊死を起こし、しこりや石灰化の原因になります。


再注入の必要性とスケジュール

バッグサイズや皮膚の状態によっては、1回の脂肪注入で理想のボリュームに到達することが難しい場合もあります。そのため、多くの方は2回に分けて再注入を行う計画を立てています。

一般的なスケジュール:

  • バッグ抜去(0ヶ月)
  • 術後の回復期間(約2〜3ヶ月)
  • 第1回目の脂肪注入
  • 必要に応じて第2回目の脂肪注入(3〜6ヶ月後)

初回は「土台作り」、2回目で「仕上げの微調整」を行うようなイメージです。


他の再建法との比較

脂肪注入以外にも再建方法として、

  • バッグの入れ替え(新しいシリコン)
  • ハイブリッド豊胸(バッグ+脂肪)

といった選択肢もあります。それぞれにメリット・デメリットがあり、脂肪注入は、

  • より自然な触感・見た目
  • メンテナンス不要
  • 自分の体を使う安心感

といった点が最大の利点です。

一方で「一度でしっかりサイズアップしたい」「痩せ型で脂肪量が少ない」方などは、ハイブリッド法も含めて検討されることがあります。


よくある質問Q&A

Q. バッグを抜いた後、胸はどれくらい小さくなりますか?
A. バッグのサイズや皮膚の伸び具合により異なりますが、術前に予測と説明を行います。脂肪注入によって、自然なふくらみは十分再建可能です。

Q. 脂肪注入の痛みやダウンタイムは?
A. 吸引部位に筋肉痛のような痛みが数日あり、バスト側は軽度な腫れや内出血が1〜2週間程度です。

Q. しこりや石灰化はどれくらいの頻度で起こりますか?
A. 適切な手技・層別注入・分散注入を守れば、しこりのリスクは極めて低く抑えられます。

Q. 将来また太ったり痩せたりしたときにバストは変わりますか?
A. 移植された脂肪もご自身の脂肪なので、体重変化の影響は多少受けます。


まとめ|“今の自分に合った胸”を自然に取り戻す

10年以上前に受けた豊胸手術。変化していく体やライフスタイルのなかで、「そろそろ見直したい」と感じるのはとても自然なことです。

バッグを外すこと、そして脂肪注入で再建することは、“昔の自分に戻る”というよりも、“今の自分にしっくりくる形を選びなおす”という前向きな選択です。

私は、形成外科で乳房再建を数多く経験してきた立場から、機能と美しさの両立、そして「無理のない自然なバストづくり」を大切にしています。

豊胸バッグの除去や脂肪注入による再建をご検討中の方は、どうぞお気軽にご相談ください。ご自身にとって最も安心できる方法を、一緒に見つけていきましょう。

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