「シリコンバッグを外したい」──その理由と向き合う
過去にシリコンバッグによる豊胸を受けた方の中には、時間の経過とともに「自然な胸に戻したい」と感じたり、
異物感や見た目の変化による違和感から抜去を検討される方もいらっしゃいます。
- 加齢に伴う胸の形とバッグとのギャップ
- 被膜拘縮による硬さや変形
- バッグの破損リスクや不安感
- 乳がん検診時の見えにくさ
- 「異物を入れていること」への心理的ストレス
こういった理由から、「シリコンバッグを抜去したいけれど、その後の胸の形がどうなるのかが不安」というご相談を多くいただきます。
シリコン抜去後の再建に選べる2つの道
バッグを抜去した後のバストに対して、主に以下の2つの選択肢があります。
① 抜去のみ(何も入れない)
- バッグを取り除いた後、バストの形はもとの乳腺や脂肪量に近い状態に戻ります。
- 加齢や皮膚の伸びにより、ハリが失われた・凹みが目立つなどの変化が出ることも。
この方法は「もう胸のサイズにこだわらない」「自然に戻れば良い」という方に選ばれますが、
ボリュームダウンが大きく、左右差や皮膚のたるみが目立つこともあり、心理的に戸惑われる方も多いのが実情です。
② 脂肪注入による再建(ナチュラルな再構築)
- ご自身の脂肪を使って、バストに柔らかく自然な立体感を作る方法。
- シリコンのような異物ではなく、自分の組織であることが安心材料に。
「ボリュームは欲しいが、もう異物は入れたくない」という方には、この脂肪注入による再建が最も適しています。
シリコン抜去後に脂肪注入は可能?ポイントは“時期と条件”
脂肪注入はシリコン抜去後にも可能ですが、“誰でも・いつでもできる”というわけではありません。
いくつかの医学的な条件や判断ポイントがあります。
● 同時に行うケース(抜去+脂肪注入を1回で)
- 被膜拘縮が軽度で、組織の状態が良好な場合には、抜去と同時に脂肪注入が可能です。
- 皮膚のたるみや被膜剥離後のスペースを利用して、自然な形を作ることができます。
● 時間をあけて段階的に行うケース
- 拘縮が強く、組織の癒着が強い場合や感染リスクが高い場合は、いったん抜去のみ行い、数ヶ月後に脂肪注入を行うのが安全です。
- 組織が落ち着き、皮膚が再構築された状態で注入することで、定着率や仕上がりが安定します。
この判断は、術前の触診・超音波・過去の手術歴の確認をもとに行います。
私が大切にしている「再建のための脂肪注入」の考え方
私は形成外科医として、乳がん術後の乳房再建を多数経験してきました。
その中で学んだのは、“元に戻す”ではなく、“美しく再構築する”ことが大切という視点です。
脂肪注入による再建では、以下のような技術的配慮をしています。
- 拘縮被膜の状態を確認し、必要に応じて被膜の剥離や切除を行う
- 注入層は皮下・乳腺下・筋膜上などを使い分け、凹凸やしこりを防ぐ
- 1回で無理に仕上げず、必要であれば段階的に注入する
さらに当院では、通常の脂肪注入に加え、コンデンスリッチファット(CRF)にも対応しています。
これは遠心分離・濃縮された「良質な脂肪のみ」を使用する方法で、定着率が高く、しこりや壊死のリスクが低減できるというメリットがあります。
注意が必要なケース
以下のような方は、事前の慎重な評価と計画が必要です。
- 過去に感染や排膿を起こしたことがある
- 強い被膜拘縮(グレードIII〜IV)がある
- バッグ周囲に石灰化や被膜の肥厚がある
- 過度に皮膚が薄くなっている/たるみが強い
その場合は「同時施術」ではなく、「2段階アプローチ」や「脂肪注入以外の選択肢(再バッグ or 何もしない)」も含め、
メリット・リスクをきちんとご説明したうえで選んでいただくことを大切にしています。
よくあるご質問(Q&A)
Q1. バッグ抜去と脂肪注入は同時にできますか?
A. 状態によりますが、組織の癒着が少なく、炎症や拘縮が軽度であれば同時に施術することが可能です。
一方で、強い拘縮や感染・被膜石灰化がある場合は、抜去のみを先に行い、組織が安定してから後日脂肪注入を行う方が安全です。
Q2. 脂肪注入だけで、バッグと同じサイズに戻せますか?
A. バッグによる豊胸と同じボリュームを1回の脂肪注入で完全に再現するのは難しいことが多いです。
ただし、自然な柔らかさやフォルムを重視する場合には非常に適しています。
サイズアップを強く希望される方には、複数回の注入やハイブリッド豊胸の選択肢もご提案可能です。
Q3. 被膜拘縮がある場合でも脂肪注入できますか?
A. 拘縮の程度により異なります。軽度であれば同時に脂肪注入が可能な場合もありますが、
中等度〜重度の拘縮がある場合には、被膜の除去や剥離を行い、一定期間あけてから注入することで、安全かつ美しい仕上がりが期待できます。
Q4. シリコンバッグを抜いた後の“空洞”にそのまま脂肪を入れるのですか?
A. いいえ。抜去後の空洞(被膜内腔)にそのまま注入することはせず、被膜を処理したうえで、皮下・筋膜上・乳腺下などの自然な注入層に分散して注入します。
定着率と仕上がりの自然さを高めるための層選びが重要です。
Q5. 抜去後の皮膚のたるみが心配です。脂肪注入で改善できますか?
A. 軽度であれば、脂肪注入によるハリ感の回復とボリューム形成で目立ちにくくなるケースが多いです。
ただし、皮膚の弾力性が低下していたり過去の手術で皮膚が薄い場合には、皮膚切除や乳房リフトの併用を提案することもあります。
Q6. 一度抜去すると、もう脂肪注入はできなくなりますか?
A. いいえ。組織の状態が整えば、抜去後数ヶ月してから脂肪注入を行うことは十分に可能です。
抜去のみで終わった後、「やっぱり少しボリュームが欲しい」と感じてご来院される方も少なくありません。
Q7. 他院で断られたのですが、診てもらえますか?
A. はい。当院では乳房再建・拘縮解除・脂肪注入の専門的技術に対応可能です。
過去の施術歴・バッグの種類・現在の皮膚や被膜の状態を丁寧に診察し、無理のない現実的な治療プランをご提案いたします。
まとめ|「元に戻す」ではなく、「自分らしく再構築する」選択を
シリコンバッグを抜去するという選択は、単なる後戻りではありません。
それは、「異物ではなく自分の組織で」「将来を見据えて」「もっと自然に」という前向きな意思の表れです。
私たちは、形成外科での乳房再建の経験と、脂肪注入技術を組み合わせることで、
単に元に戻すのではなく、“自分らしい、美しいバスト”を再構築するお手伝いをしています。
脂肪注入による再建は、異物を使わない分、安全で柔らかく、加齢とともに自然に馴染みます。
もちろん万能ではありませんが、「もうバッグは入れたくない」「でも形はある程度保ちたい」という方にとって、
非常に現実的で、理にかなった選択肢です。
大切なのは、今の自分に合った選択を、医学的に納得して選ぶこと。
その判断を一緒に支えるために、お手伝いいたします。お悩みの方はどうぞ、お気軽にカウンセリングにお越しください。

