エラ(下顎角)や顎先(顎尖)の骨切り術、あるいは上下顎のセットバック(ルフォー・SSROなど)は、輪郭の土台を小さくし、フェイスラインの印象を根本から変える非常に有効な手段です。しかし、骨切り手術を終え、数ヶ月から1年が経過した頃に「顎下のたるみやもたつきが以前より深刻になった」という悩みを抱える方は少なくありません。
骨という土台を削って縮小させた以上、その周囲を覆っていた軟部組織(皮膚、皮下脂肪、そして筋肉)が余るという物理的な変化は、解剖学的に必然と言えます。この骨切り術後の特有なたるみに対して、脂肪吸引やHIFU(ハイフ)、糸リフトなどの表面的なアプローチを繰り返しても、思うような効果が得られないケースが多々あります。原因が組織の深部にあるからです。
今回は、骨切り術後に顎下のたるみが発生するメカニズムと、それを根本から引き締める「ペリカン手術(顎下筋肉縛り)」の適応、具体的な効果、そして当院における実際の症例変化について解説します。
輪郭骨切り術後に「顎下のたるみ」が発生するメカニズム
下顎骨の骨切り術を行うと、顎骨の体積が減少します。これは輪郭をシャープにする目的そのものですが、骨の減少に対して、その上に乗っている皮膚や皮下脂肪の量が自動的に縮むわけではありません。
さらに重要なのは、首から顎下にかけてハンモックのように張っている「広頸筋」という薄い筋肉の挙動です。骨切りによって骨の支えが失われると、広頸筋が中央から左右に離開したり、前下方へ弛緩(ゆるむ)したりします。
骨切り後の顎下のたるみは、単なる皮膚の余りや脂肪の蓄積だけではなく、この「骨格の縮小に伴う筋肉の緩み」が主因となって引き起こされます。土台が小さくなったことで、余った軟部組織が重力に従って下垂し、顎下にくぼみや帯状のもたつき(二重顎)を形成するのです。
顎下のたるみを根本から引き締める「ペリカン手術」とは

ペリカン手術(顎下筋肉縛り・ネックリフト)は、顎下の目立たない部分を数センチ切開し、緩んでしまった広頸筋を中央に引き寄せて強固に縫合する術式です。
骨切り後のたるみに対して、単に脂肪吸引だけを行うと、脂肪が抜けた分だけさらに皮膚の余りが顕著になり、かえって「皮がペラペラと余ってたるむ」という現象が起きやすくなります。また、糸リフトなどの施術は皮膚や浅い脂肪層を一時的に引き上げるに過ぎず、緩んだ広頸筋を支え続ける強度はありません。
ペリカン手術は、広頸筋という「筋肉の土台」そのものをコルセットのように締め直すため、骨格が小さくなった後の軟部組織を深部から密着させることが可能です。脂肪吸引だけではアプローチできない、広頸筋の内側にある深部脂肪(広頸筋下脂肪)の切除も同時に行えるため、物理的なボリュームダウンと引き締めを一度に達成できます。

ペリカン手術が有効な症例と「適応」の判断基準
ペリカン手術は非常に効果の高い術式ですが、すべての顎下のたるみに対して第一選択になるわけではありません。特に骨切り術後の患者様においては、以下の判断基準を設けています。
適応となるケース
- エラや顎の骨切り手術後、半年以上が経過しても顎下の二重顎やもたつきが改善しない方
- 下を向いたときだけでなく、正面や横を向いた際にも顎下の皮膚や筋肉の明らかな余り(下垂)が見られる方
- 過去に脂肪吸引やHIFU、糸リフトによる治療を試みたが、十分な引き締め効果を実感できなかった方
- 顎下を触診した際、脂肪の厚みだけでなく、奥にある筋肉の緩み(緊張感のなさ)が確認できる方
適応外・慎重な判断を要するケース
骨切り術後、まだ3〜6ヶ月未満の段階にある方は原則として適応外となります。この時期は、手術による浮腫(むくみ)や組織の拘縮(硬化)が残っているため、正確な組織の緩み度合いを評価できません。ダウンタイムが完全に軽快し、組織が柔らかく落ち着いた「術後6ヶ月〜1年」の段階で初めて正確な適応判断が可能になります。
解剖学的なアプローチがもたらす具体的な「効果」
緩んだ筋肉と深部組織に直接アプローチするペリカン手術には、表面的な治療にはない確実な臨床効果があります。
① 頸部顎角(Cervicomental Angle)の鋭角化
理想的な横顔の条件の一つに、顎下から首へと移行する角度(頸部顎角)が直角に近い鋭角であることが挙げられます。広頸筋を中央で縛り上げることで、たるんでいた組織が上後方へと引き込まれ、横顔のラインが明瞭になります。
② 深部脂肪の処理による確実なボリュームダウン
顎下の脂肪には、浅い層の脂肪(広頸筋浅脂肪)と、筋肉の奥にある深い層の脂肪(広頸筋下脂肪)があります。骨切り後のもたつきは後者の深部脂肪が前に押し出されているケースが多く、ペリカン手術の術野からこの深部脂肪を適量切除することで、顎下の厚みを根本から薄くすることができます。
③ 長期的な持続性と後戻りの防止
糸リフトのような吸収性の素材による一時的な牽引とは異なり、ご自身の割いた筋肉同士を医療用の強固な糸で直接縫合固定するため、構造的な強度は生涯にわたって維持されます。経年変化による多少の老化はあっても、術後早期に元に戻ってしまうような「後戻り」のリスクが極めて低い点が特徴です。
当院におけるペリカン手術の症例解説(術後1年経過)
ここで、実際に他院での輪郭骨切り術後に生じた顎下のたるみに対して、当院でペリカン手術を施行した患者様の症例を解説します。


術前(Before)の状態と臨床診断
患者様は他院にて下顎骨の縮小手術(骨切り術)を受けられた後、顎下の広範囲にわたるもたつきを主訴に来院されました。 写真の「before」を確認すると、骨格が小さくなったことで顎下の皮膚が余り、広頸筋の緊張が失われて下方へ下垂している事実が分かります。フェイスラインの骨の輪郭自体は細くなっているものの、軟部組織が下垂して被さっているため、横顔のシャープさが損なわれ、二重顎のような状態を呈していました。触診において皮膚の進展性と広頸筋の離開が顕著であったため、ペリカン手術の適応と判断しました。
術中操作とアプローチ
顎下の目立たない部位を小切開し、まず広頸筋の浅層にある脂肪を適度にいなした上で、離開した左右の広頸筋を露出させました。内部の深部脂肪(広頸筋下脂肪)を慎重に減量し、緩んだ広頸筋の断端を中央に引き寄せながら、強固にマットレス縫合を行って締め上げました。余剰となった皮膚組織についても、引き締まった筋肉の土台に沿うように適正なテンションで密着させています。
術後1年(1 year)の経過と考察
術後1年が経過した状態をご覧ください。 組織の浮腫や拘縮が完全に消失した完成形ですが、顎下から首にかけてのラインが劇的に鋭角化し、もたつきが完全に消失している事実が確認できます。
「骨切り後の余ったタルミを整える」ことで、それまで脂肪や皮膚に埋もれていた下顎骨の本来のラインが表面に現れました。また、横顔の立体感が際立ち、顎先が前にすっきりと出たような視覚的効果も生まれています。術後1年が経過しても後戻りは一切見られず、解剖学的に強固な土台が再構築されていることが実証されています。
骨格と軟部組織のバランスを見据えた治療選択を
輪郭の骨切り手術は、顔の余白を減らし小顔化するための非常に優れた術式です。しかし、骨という「土台」を小さくすれば、その上に乗る「上物(皮膚・脂肪・筋肉)」が余るというのは、避けて通れない解剖学的な事実です。
骨切り後に生じる顎下のたるみは、単なる肥満による脂肪蓄積とは性質が異なります。筋肉の緩みを伴う構造的な変化であるため、アプローチすべき層を間違えると、一向に改善しないばかりか、脂肪の取りすぎによる皮膚の癒着や凸凹といった二次的な問題を招くリスクもあります。
骨切り術後のたるみや二重顎に悩み、脂肪吸引やリフトアップ施術を繰り返している方は、一度「筋肉の緩み」という根本的な原因に目を向け、解剖学的なアプローチが可能なペリカン手術を検討することをお勧めします。当院では、骨切り術後の組織の状態を正確に見極め、患者様お一人おひとりの弛緩の度合いに応じた精密な構造再建を行っています。
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