近年、涙袋は目元の印象を決定づける重要なパーツとして非常に人気が高く、ヒアルロン酸注入は手軽な施術として広く行われています。
しかし、その手軽さの裏には、安易な注入によってかえって目元を老けて見せたり、不自然な印象にしてしまったりする深刻なデメリットが潜んでいます。
MAe Clinicの前之園健太です。 私は美容外科医として、数多くの涙袋ヒアルロン酸後の修正や、クマ治療を担当してきました。その中で、「良かれと思って行った注入が、かえって将来のクマを目立たせてしまう」というケースを何度も目の当たりにしています。
患者様が本当に理想の目元を手に入れるために、注入前に必ず知っておくべきリスクと、クマ治療との構造的なメカニズムを正直にお伝えします。目の下の治療を検討中の方は、ご自身の目元の構造を理解した上で、最善の選択をしてください。
涙袋ヒアルロン酸の3大デメリットと具体的な症状
1. 既存の「クマ」を悪化させ、涙袋が埋没する
これが最も多く見られる問題です。特に日本人に多い「眼窩脂肪によるクマ(影クマ・黒クマ)」がある状態でヒアルロン酸を注入すると、以下の現象が起こります。
- 境界線の消失(のっぺり感): クマ(膨らみ)の上にヒアルロン酸(膨らみ)が乗ることで、本来あるべき涙袋のくびれや輪郭が消失します。目の下全体が一つの大きな塊のように見え、不自然な膨張感を生み出します。
- 老けた印象: 立体感が失われ、涙袋は強調されず、重たい目袋に見えてしまい、かえって疲れたり老けたりした印象を与えてしまいます。この状態は、クマの構造的な問題がヒアルロン酸によってカモフラージュされるどころか、強調されていると言えます。
2. ヒアルロン酸が透けて見える「チンダル現象」
目の下の皮膚は非常に薄く、わずか0.5mm程度しかありません。この薄い皮膚の下に、ヒアルロン酸の粒子が浅い層で注入されると、光の乱反射(レイリー散乱)が起こり、組織が青黒く透けて見えることがあります。これがチンダル現象です。
これは、元々あるクマの色味や色素沈着と混ざり合うことで目元全体のトーンを落とし、疲労感が強く出たように見えます。一度発生すると、ヒアルロン酸を溶解する以外に解決策はありません。注入層の深さやヒアルロン酸の粒子の大きさによって発生率が変動するため、非常に繊細な技術が求められます。
3. 不自然な形状と持続性の限界
ヒアルロン酸は時間とともに分解されますが、完全に吸収されるまでには個人差があります。また、ヒアルロン酸は水分を吸って膨らむ性質(膨潤性)があるため、注入直後よりも時間の経過とともに形が変わってしまうことがあります。
特に涙袋は、笑ったり話したりする際に表情筋(眼輪筋)によって大きく動くデリケートな部位です。表情筋の動きとヒアルロン酸の形状が馴染まないと、笑ったときに不自然な「ミミズ腫れ」のような形状になってしまうリスクがあります。また、ヒアルロン酸が下方に移動して定着し、不本意な位置で膨らんでしまうマイグレーションのリスクも無視できません。
クマを悪化させる構造的なメカニズムの深掘り
埋没の原因は「地盤の傾き」にある
なぜ、涙袋ヒアルロン酸がこれほど多くのデメリットを引き起こすのでしょうか。その理由は、目の下の根本的な構造にあります。
クマ(眼窩脂肪)は、単なる脂肪の塊ではありません。眼球の保護に必要な脂肪が、加齢などによりそれを抑える膜(眼窩隔膜)が緩むことで前方に突出した状態です。
さらに、この脂肪の膨らみの下側には、皮膚を骨に強く引きつける強力な結合組織である靱帯(ティアトラフ靭帯)が存在します。この「脂肪の膨らみ」と「靱帯による凹み」がセットになることで、涙袋の土台が崩れた「傾いた地盤」になっているのです。
「足し算」では構造的な根本解決はできない
この不安定な土台に対してヒアルロン酸を注入するのは、傾いた地盤の上に無理やり盛り土をするようなものです。
ヒアルロン酸は「ボリュームを足す」施術であり、「構造的な凹凸を根本から整地する」ことはできません。結果、不自然な膨らみだけが増幅し、ますますクマのように見える状態を作り出してしまうのです。
クマの凹凸が残ると涙袋の「魅力」が消える
涙袋の魅力は、その下の陰影(くびれ)があって初めて際立ちます。クマ(脂肪)が残っていると、この陰影が消え、光が当たった時に単なる「目の下のたるみ」や「不自然なふくらみ」として認識されてしまいます。
涙袋を綺麗に際立たせるには、まずクマの凹凸を解消し、光を均一に反射できるフラットな「整地された土台」を作ることが、医学的にも美的にも最優先となります。
失敗を避けるための診断基準と治療の選択肢
涙袋ヒアルロン酸のデメリットを回避し、理想の目元を手に入れるためには、「本当にヒアルロン酸が必要なのか」を正確に見極める医師の診断力が必要です。
クマ治療が先決となるケース
もし目の下に眼窩脂肪による膨らみと靱帯による凹みが存在している場合は、ヒアルロン酸注入を始める前に、まず以下の構造的な治療が必要です。
- 裏ハムラ法(脂肪再配置術): 靱帯を剥がし、余分な脂肪を凹みに移動させることで、膨らみと凹みを同時に解消する。涙袋の輪郭を際立たせる土台作りとして最も最適で、当院が最も推奨する手法です。
- ヒアルロン酸溶解: 既に注入されたヒアルロン酸が、診断や手術の妨げになっている場合は、一旦全て溶解し、目元の状態をリセットします。
構造改善が涙袋を際立たせる理由
裏ハムラ法で目の下の構造が整うと、埋もれていた涙袋が自然に隆起します。
これは、外から何かを足したわけではなく、患者様自身の持つ涙袋の輪郭を構造的に正しい位置で出現させた結果です。構造的な改善こそが、チンダル現象や不自然な形状といったデメリットとは無縁の、永続的で自然な涙袋を完成させる近道なのです。

【症例解説】ヒアルロン酸溶解からの裏ハムラ法で涙袋を救出
ここで、実際に涙袋ヒアルロン酸によるクマの悪化に悩まれ、当院で治療を受けられた患者様の症例をご紹介します。
この患者様は、もともと涙袋ヒアルロン酸が入っていたのですが、そのせいでさらにクマが悪目立ちしていました。そのため、正確な診断と手術のために、事前にヒアルロン酸を溶解してからオペに臨みました。


当院で診断した結果、この患者様には笑うと出てくる潜在的な涙袋があることが確認できました。この場合、クマという邪魔な膨らみと凹みを解消するだけで、本来持っている涙袋がかなり綺麗に出てくることが期待できます。
目の下のクマの根本原因は、主に次の2つです。
- 余分な眼窩脂肪による膨らみ
- 皮膚と骨を繋ぐ靱帯による凹み
そのため、靱帯処理をしない通常の脂肪取りでは、凹みが残ってしまい不十分であることが多いのです。
そこで適応となったのが裏ハムラ法です。
裏ハムラ法は─ 目の下の凹みとなる靱帯を剥がして、できたスペースに余分な眼窩脂肪を移動させて敷き込むことでクマを治療する手術方法です。全て自家組織で行うため、凹みを埋めるためのヒアルロン酸や脂肪注入をせずに済み、安心です。
この裏ハムラ法によって、余計な膨らみと凹みが改善することで、涙袋の輪郭がはっきりと出て、さらにチーク(頬)の位置が高く見えるというメリットも得られました。
まとめ
涙袋ヒアルロン酸は手軽ですが、そのデメリットは見た目だけでなく、長期的な目元のバランスにまで影響を及ぼします。
注入を検討されている方は、まずご自身のクマの原因が何であるかを正確に診断してもらい、本当に注入が必要な状態なのか、あるいは裏ハムラ法のような構造改善が先決なのかを見極めることが重要です。
MAe Clinicでは、表面的な処置ではなく、解剖学に基づいた適切な診断と治療方針をご提案します。涙袋とクマの悩みを根本から解決し、あなたの魅力を最大限に引き出す美しい目元を目指しましょう。





