この記事は 前田 翔 医師(形成外科専門医・美容外科専門医) が監修しています。
顔の印象を大きく左右する「中顔面」。
美容外科の現場では、口ゴボや顔の平坦さ、老けた印象の原因としてしばしば話題に上ります。
しかし、患者様の多くにとって「中顔面」という言葉は耳慣れず、どの部分を指しているのか分かりにくい概念です。
本記事では、形成外科・美容外科の専門的な視点から中顔面をわかりやすく解説し、解剖学的な構造、美容上の重要性、加齢による変化、そして改善するための代表的な施術について丁寧にご紹介します。
「中顔面とは何か」を正しく理解することで、ご自身の顔立ちに合った施術選びの参考になるでしょう。
中顔面とはどの部分を指すのか

中顔面とは、目の下から上唇の直上までにかけての範囲を指します。
頬骨や上顎骨、鼻翼基部などを含む立体的なエリアで、顔の中心に位置する“要の部分”です。
この部位は、目・鼻・口元の印象をつなぐ橋渡しの役割を果たしており、立体感や若々しさを決める重要な要素となります。わずかな変化でも顔全体の印象が大きく変わるため、美容外科や形成外科の分野では特に注目される領域です。
日本人をはじめとするアジア人は、欧米人に比べて中顔面が平坦になりやすく、その結果として口元の突出感(いわゆる「口ゴボ」)が強調されやすい傾向があります。
中顔面の構造(骨格・脂肪・皮膚)
中顔面は「骨格」「脂肪組織」「皮膚」の3つの層が複雑に関わり合って形作られています。
この構造を理解することで、なぜ中顔面が老けや凹み・口ゴボの原因になるのかが明確になります。
骨格(上顎骨・頬骨)

中顔面の土台となるのは 上顎骨(じょうがくこつ) と 頬骨(きょうこつ) です。
- 上顎骨 … 鼻の周囲から口元を支える骨で、特に小鼻の横(梨状口縁)や鼻柱の付け根(前鼻棘)は、鼻と口の境目を形づくる重要なポイントになります。
- 頬骨 … 目の外側から頬を横に広げる骨で、顔の立体感や横幅の印象を左右します。
これらの骨が適度に前方へ張り出していると、顔に自然な奥行きが生まれ、若々しく調和のとれた印象につながります。
一方で骨格が後退していると、中顔面が平坦に見え、相対的に口元が突出して見えるため「口ゴボ感」が強調されます。
さらに、中顔面の土台には 上顎骨の前方部(梨状口縁)と前鼻棘(ぜんびしん) が含まれ、ここが鼻翼基部・鼻柱基部の“受け皿”になります。
この鼻の土台が後退していると、鼻翼や鼻柱の付け根がめり込んで見え、顔の中央が平坦〜陥没した印象になります。実際に歯列や口唇が前に出ていなくても、相対的に口元が突出して見える(口ゴボ感)ことがあるのは、この“基部の支え不足”が理由です。
逆にこの土台が適度に前方へ張り出していれば、鼻と口の間に自然な段差が生まれ、中顔面の立体感が保たれます。
脂肪(眼窩脂肪・ROOF・頬脂肪)
中顔面の立体感は、骨格の上に重なる複数の脂肪のかたまりによって支えられています。これらが均等に保たれていると、健康的で若々しい印象になりますが、加齢や体質によって「減る・下がる・前に出る」といった変化を起こし、中顔面の凹みや口ゴボ感を強調してしまいます。

① 眼窩脂肪(目の下の脂肪)
目の下にあるクッションのような脂肪です。若いときは滑らかに支えていますが、加齢で前に飛び出すと「目の下のふくらみ」や「クマ」の原因になります。
② 頬脂肪(浅層・深層)
頬には浅い層と深い層の脂肪が重なって存在します。
- 浅層(浅層内側頬脂肪)は皮膚のすぐ下にあり、笑ったときの頬のふくらみをつくります。萎縮するとゴルゴラインが目立ち、疲れた印象につながります。
- 深層(深層内側頬脂肪)は骨に近い位置にあり、頬の“土台”として顔全体の立体感を支えます。減少すると中顔面が平坦に見え、相対的に口元の突出感が強調されます。
③ ナゾラビアルファット(小鼻の横〜法令線の脂肪)
小鼻の外側から口元にかけて分布する脂肪です。加齢で下がったり膨らんだりすると、法令線が深く強調され、老けた印象を与えます。
特に骨格の支え(梨状口縁や前鼻棘)が後退している場合、この部位に影が集まりやすく、中顔面の陥没感をさらに悪化させます。
④ ジョールファット(口横の脂肪)
口角の外側から下顎ラインにかけて存在する脂肪です。下垂すると「マリオネットライン」の原因となり、口元が重たく見える要因になります。
中顔面の脂肪は「目の下・頬(浅層/深層)・鼻の横・口の横」など複数に分かれて存在します。
浅い脂肪が減ると影やコケが強調され、深い脂肪が減る・下がると中顔面全体が平坦に見えます。さらに、鼻翼・鼻柱の基部(土台)が後退していると、これらの脂肪の影や凹みがより強調され、相対的な口ゴボ感が目立ちやすくなるのです。
皮膚・皮下組織
骨格と脂肪の上を覆う皮膚も、中顔面の印象を大きく左右する要素です。
特にこの部位は加齢による変化が出やすく、次のような現象が組み合わさって現れます。
- 真皮のコラーゲンやエラスチンが減少し、ハリが失われる
- 皮膚自体の厚みが低下して支えが弱まる
- 表情筋の動きによる折れジワが深まる
これらの変化が積み重なることで、たるみや法令線、頬の影が目立ちやすくなり、「疲れて見える」「老けて見える」といった印象につながります。
また、皮膚の厚みによっても影響の出方は異なります。
- 皮膚が厚いタイプ:脂肪や骨格の影響が表面に出にくく、整形で変化を加えても仕上がりがわかりにくい。
- 皮膚が薄いタイプ:小さな変化でもラインが出やすく、結果がはっきり現れる。
このように、皮膚の質感や厚みも中顔面の見え方に直結するため、治療を検討する際には骨格・脂肪とあわせて考慮することが重要です。
特に皮膚の厚みがあるタイプでは、脂肪や骨格の影響が隠れやすく、整形時に仕上がりが読みにくいケースもあります。
中顔面のよくある悩み
中顔面の悩みは、若い世代でも骨格やバランスによって生じます。
代表的なのは「中顔面陥没」と「中顔面が長い」の2つで、それぞれ異なる印象や改善方法があります。
中顔面陥没

「中顔面陥没」とは、鼻翼(小鼻の横)や鼻柱の基部が奥に引っ込み、顔の中央が平坦あるいはめり込んで見える状態を指します。
このタイプでは、
- 鼻と口の間がくぼみ、立体感に乏しくなる
- 相対的に口元が前に突き出して見える
- 横顔ではEラインが崩れ、口ゴボが強調される
- 正面では顔の中央がへこんで幼く・疲れた印象になる
といった特徴が見られます。
治療法としては、凹んだ基部を前方に補強して立体感をつくる施術が中心です。

- 猫貴族手術(軟骨移植):鼻翼・鼻柱の基部に軟骨を移植し、前方に押し出すことで自然な奥行きを形成
- 鼻の施術(隆鼻術・鼻中隔延長など):鼻を高く出すことで、相対的に口元が引っ込み、Eラインが整って見える
中顔面が長い

「中顔面が長い」とは、眉下から鼻下までの距離が相対的に長く見える状態です。
このタイプでは、
- 顔の重心が下がって間延びした印象になる
- 老けて見える、または疲れた表情に見える
- 人中が強調され、口元のバランスが崩れる
といった特徴が出やすくなります。
改善のためには、縦の距離をコントロールしつつ立体感を持たせる施術が選択されます。

- 人中短縮術・裏人中短縮:鼻下の距離を短くして間延び感を改善。単に短縮するだけでなく、立体的なカールを形成することで自然で柔らかな口元に仕上げる
- リフトアップ:中顔面を引き上げ、顔全体の重心を高く見せる
- 鼻の施術:鼻を出すことで、顔の縦比率やEラインを整えるサポートになるケースもある
それぞれに応じて、凹みには前方投影を、長さには短縮+立体的なデザインを行うことが、自然で調和の取れた顔立ちにつながります。
中顔面を改善する美容整形の選択肢
中顔面の悩みは、単独の施術で解決できる場合もありますが、実際には複数の施術を組み合わせて行うケースが多くあります。
とくに「猫貴族手術」は単独で行うよりも、鼻の施術と組み合わせて中顔面全体を立体的に整えることがほとんどです。
ここでは、当院で実際に行った症例をもとにご紹介します。
症例:中顔面陥没を鼻の複合手術で改善した症例
術式:鼻中隔延長、鼻尖形成、軟骨移植、猫貴族手術
経過:術後3ヶ月




Before
- 鼻翼基部が奥に引っ込んでおり、中顔面が平坦に見える
- 横顔では口元が前に出て見え、Eラインが崩れている
- 正面から見ても顔の中心に立体感がなく、のっぺりとした印象
After
- 鼻中隔延長と鼻尖形成で鼻先を前方に出し、顔全体の軸を形成
- 猫貴族手術(軟骨移植)で鼻翼基部を補強し、口元との境界に立体感を追加
- 中顔面全体が前に出ることで、口元の突出感が和らぎ、自然なEラインに改善
- 正面から見ても凹みが解消され、顔の中央が明るくシャープな印象に
このように、中顔面陥没は 猫貴族手術+鼻整形の複合で改善するのが基本となります。単独の施術では補いきれないバランスを、複数の手技を組み合わせることで自然に整えることができます。
症例:中顔面が長いタイプを改善した症例(裏人中短縮+Cカール形成)
術式:裏人中短縮、Cカール形成




Before
- 鼻下〜上唇の距離が長く、顔の重心が下に下がって見える
- 人中がのっぺりとして平面的で、口元に丸みがない
- 横顔で見ると、口唇がまっすぐ下に落ちる印象
After
- 裏人中短縮によって鼻下の距離を短縮し、間延び感を改善
- Cカール形成により、口唇が立体的にカールし、自然な丸みを持つ口元に変化
- 鼻の手術や注入物を使わずに、中顔面全体の縦比率が整い、柔らかく女性らしい印象に
このように、人中短縮は「距離を短くする」こと自体が目的ではなく、中顔面全体のバランスを整えることが重要です。
鼻下の距離をただ短くするだけでは十分ではなく、横顔の角度や唇の厚み、Cカールの立体感まで三次元的に調整することで、自然で調和の取れた中顔面短縮が実現します。
中顔面整形の注意点とリスク
中顔面の施術は、鼻や口元と密接に関わるため、単に「短くする」「前に出す」といった一方向の操作だけでは、かえって不自然さや違和感につながることがあります。
治療を検討する際には、以下の点に注意が必要です。
単独施術ではバランスが崩れることがある
猫貴族手術や人中短縮を単独で行った場合、周囲とのバランスが取れず「思っていた仕上がりと違う」と感じるケースもあります。
特に猫貴族手術は、鼻の高さや形と調和させなければ不自然な段差になる可能性があります。
実際には 鼻整形とセットで計画することが多い という点を理解しておく必要があります。
過矯正のリスク
- 鼻下を必要以上に短くすると、上唇が不自然にめくれ上がった印象になる
- 鼻翼基部を過度に前に出すと、鼻と口の距離が詰まりすぎて違和感が出る
- 鼻を過剰に高くすると、鼻だけが強調されて横顔のバランスが崩れることがある
いずれの施術も「やりすぎ」になれば不自然さが出てしまいます。
バランスを意識したデザイン設計が何より重要です。
修正が難しい場合がある
中顔面の施術は骨や軟骨にアプローチすることが多く、失敗や過矯正が起きると修正が困難になることがあります。
- 軟骨移植の取り直し
- 再切開による人中短縮の修正
- 他院修正が必要になるケース
といったリスクもあり、最初から経験豊富な医師を選ぶことが大切です。
中顔面整形は「顔全体の調和」を前提にデザインすれば大きな効果を得られますが、同時にバランスを崩すリスクや修正の難しさも伴います。
施術を受ける際には、経験豊富な専門医の診断を受け、複合的な視点で治療計画を立てることが何より重要です。
よくある質問(Q&A)
中顔面の施術を検討される患者様から、実際によくいただくご質問をまとめました。
Q1. 猫貴族手術だけで中顔面陥没は改善できますか?
A. 単独で改善するケースもありますが、ほとんどの場合は鼻の手術と組み合わせる必要があります。
猫貴族手術で基部を補強しても、鼻が低いままだと口元の突出感が残るため、隆鼻術や鼻中隔延長を併用して全体のバランスを整えるのが一般的です。
Q2. 人中短縮をすれば必ず中顔面が短く見えますか?
A. 鼻下の距離は短くなりますが、それだけで理想的な印象になるとは限りません。
人中短縮で距離を短くすればいいと思っている人が多いのですが、そうではありません。
ただ距離を短くするだけでは不十分で、鼻と唇の立体的な関係や横顔の角度、唇の厚みとのバランスを考えることが大切です。
特にCカール形成や人中窩形成を併用することで、短縮と同時に唇に立体感や自然な丸みを持たせることができ、より調和のとれた中顔面短縮が可能になります。
Q3. ダウンタイムはどのくらいですか?
A. 施術内容によって異なりますが、腫れや内出血は1〜2週間程度が目安です。
人前に出やすくなるまでは2〜3週間、最終的な完成は数ヶ月かけて落ち着いていきます。
スケジュールには余裕をもって手術を計画することをおすすめします。
Q4. 修正手術は可能ですか?
A. ケースによっては可能ですが、初回よりも難易度が高いことが多いです。
特に軟骨移植をやり直す場合や、人中短縮を再修正する場合には限界もあります。
そのため、最初から経験豊富な医師に相談することが大切です。
当院では、他院で行われた手術の修正依頼も多くお受けしています。
初回で満足のいく結果が得られなかった方に対しても、骨格や軟骨の状態を丁寧に評価し、可能な範囲で自然な改善を目指しています。
中顔面整形は、「単独手術で解決できる」と思われがちですが、実際には複合的に設計する必要がある繊細な治療です。
疑問や不安がある方は、カウンセリングでしっかり質問してから検討しましょう。
まとめ
中顔面は、顔全体の印象を大きく左右する重要なパーツです。
「凹んでいる(中顔面陥没)」場合は顔の中心に立体感がなく、口ゴボやのっぺりとした印象を与えやすくなります。
一方、「長い」場合は鼻下の距離が強調され、間延びした印象や大人びすぎた表情につながります。
こうした悩みを解決するためには、猫貴族手術・鼻整形・人中短縮・Cカール形成などの手術を、患者様一人ひとりの骨格に合わせて組み合わせることが大切です。
ただし、中顔面整形はバランスを誤ると不自然な仕上がりや修正困難な状態につながるリスクもあります。
だからこそ、経験豊富な医師の診断のもとで、立体感・縦の比率・横顔の調和を総合的に設計することが欠かせません。
当院では、初めて整形を検討される方はもちろん、他院での手術後に満足できなかった方からの修正相談も多くお受けしています。
「中顔面が気になる」「口元を自然に整えたい」と感じている方は、ぜひ一度カウンセリングにお越しください。