この記事は 前田 翔 医師(形成外科専門医・美容外科専門医) が監修しています。
鼻整形のカウンセリングをしていると、
「プロテーゼや人工プレートを使った方が早く理想の形になるのでは?」
という質問を受けることがあります。
確かに異物(人工物)は、手術時間も短く、ダウンタイムも比較的軽く済み、形の変化もはっきり出やすい方法です。
しかし、鼻は顔の中心に位置し、皮膚が薄く、呼吸や表情で常に動く部位。
この環境に長期間異物を置き続けることは、時間が経つほどにリスクを高めます。
今回ご紹介するのは、2年前に他院でオステオポールと鼻尖形成を受けた患者さんのケースです。
患者さんの主訴は、
- 派手ではなくナチュラルな印象にしたい
- 顔の凹凸が少なく、のっぺり見えるのを改善したい
- 鼻翼基部が前に出ているように感じる
というものでした。
事前にCT検査を行ったところ、プロテーゼが左側に傾いて挿入されていることが確認されました。
これは異物による圧迫や炎症で生じる典型的な変化であり、放置するとさらに大きなトラブルに発展する可能性があります。
術中で見えた実態(動画解説)
今回の手術では、まず鼻先の潰瘍部分からアプローチを行いました。
皮膚を丁寧に開くと、潰瘍の奥に異物(オステオポール)と細かい固定糸が確認されました。
周囲の組織は炎症によって赤く腫れ、血流が低下し、健康な皮膚や粘膜よりも脆くなっていました。
異物によって出来た潰瘍

異物は鼻翼軟骨の上に置かれていましたが、位置が中心からずれ、右鼻腔方向へと突出していました。
このような状態になると、皮膚への圧力が局所的に集中し、潰瘍が進行します。
感染で失われた鼻翼軟骨


異物の周囲では感染が進行し、右側の鼻翼軟骨は一部欠損していました。
健康な状態の左側と比較すると、その形と厚みの差は明らかで、軟骨融解の典型例といえます。
✓今回の様子は動画でも解説しています
術中の状況や異物の状態を、映像でより詳しくご覧いただけます。
記事とあわせて動画をご視聴いただくことで、異物が鼻に与える影響をより具体的に理解していただけるはずです。
異物が引き起こす鼻の変化とリスク
今回の症例は、異物が鼻の内部構造(特に鼻翼軟骨)にどのような影響を及ぼすのかを明確に示しています。
鼻は皮膚や軟骨が薄く、外気と直接つながっているため、異物の影響が表面化しやすい部位です。
1. 感染
異物は血流を持たないため、免疫細胞が届きにくく、一度感染が起こると治りにくいという特徴があります。
鼻翼軟骨周囲に感染が広がると、赤み・腫れだけでなく軟骨そのものが損傷します。
2. 変形
異物が傾いたり位置がずれたりすると、鼻翼軟骨や皮膚にかかる力が偏ります。
これにより鼻先の左右差やラインの不自然さが生じ、時間の経過とともに悪化します。
3. 軟骨吸収
感染や慢性的な圧迫が続くと、鼻翼軟骨が部分的に吸収・消失することがあります。
軟骨が欠損すると形態の保持が難しくなり、修正には複雑な再建手術が必要になります。
4. 再建の難易度上昇
軟骨や周囲の組織が失われると、自家組織(肋軟骨や耳介軟骨など)を使って形態を再建する必要があります。
さらに、感染後は瘢痕や癒着が生じていることが多く、初回手術に比べて難易度は格段に上がります。
僕の治療方針と今回の対応
再建に向けて、最初に行ったのは異物と損傷組織の除去です。
傾いたオステオポールや感染で変質した組織を残したままでは、どんなに丁寧に再建を行っても再びトラブルを起こす可能性が高まります。
手術では、まず潰瘍周囲の皮膚と瘢痕を慎重に切開し、異物をすべて取り除きました。
同時に、感染によって脆くなった組織や損傷部位も除去し、再建に必要な健康な鼻翼軟骨や周囲の粘膜は可能な限り温存しました。
再建手術
異物除去後には、以下の施術を組み合わせて再建を行いました。
- 鼻中隔延長
- 鼻尖部軟骨移植
- 鼻尖形成
- 猫貴族手術(鼻翼基部軟骨移植、鼻柱基部軟骨移植)
- 隆鼻術
※すべて肋軟骨使用
これらを用いて構造を補強し、形態とバランスを整えています。
再建後の詳細な経過や仕上がりは、別記事で改めてご紹介します。
まとめ
今回の症例は、鼻整形における異物使用の長期的なリスクをはっきりと示すものでした。
プロテーゼや人工プレートは、手術直後には形を整えるのに有効ですが、時間の経過とともに傾きや移動、感染などのトラブルを引き起こすことがあります。
特に鼻翼軟骨のような薄く繊細な構造は、異物からの圧迫や炎症に弱く、場合によっては軟骨の吸収・消失にまで至ります。
異物除去後の再建は、健康な組織が限られているため難易度が高くなりますが、
自家組織(肋軟骨や耳介軟骨)を用いることで、感染リスクを下げつつ長期的な安定性を得ることが可能です。
鼻整形を検討している方には、術後の美しさだけでなく、その形を何年も安全に維持できるかという視点を持ってほしいと思います。
今回のケースが、手術方法の選択や異物使用のリスクを考えるきっかけになれば幸いです。
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