【魔女顎手術・術中解説動画あり】ヒアルロン酸で骨が溶けた顎先を肋軟骨で再建した症例

この記事は 前田 翔 医師(形成外科専門医・美容外科専門医) が監修しています。

ヒアルロン酸やプロテーゼで整えたはずの顎先が、いつの間にか垂れてきた──。
そんなお悩みを抱える患者さんが、近年とても増えています。

シャープに見えるはずの顎先が、時間の経過や繰り返しの注入、異物の影響で、
皮膚や軟部組織が下に引き伸ばされてしまう。
その結果、顎が“魔女のように”垂れ下がって見える状態に変わっていく。これが「魔女顎(まじょあご)」と呼ばれる状態です。

今回ご紹介するのは、まさにその魔女顎の典型例、
ヒアルロン酸を何度も注入してきた結果、顎の骨が吸収され、不自然な凹みが生じていた患者さんに対して、
肋軟骨による顎先の再建と、骨膜上への固定によるリフトアップ(魔女顎形成)を行った特別な症例です。

さらに本記事では、実際の術中写真や解説動画も交えながら、以下のような疑問に答えていきます。

  • なぜ魔女顎になるのか?
  • ヒアルロン酸で骨が溶けるって本当?
  • 顎先の凹みは修正できる?
  • 魔女顎手術ってどんなことをするの?

「ヒアルロン酸で失敗した」「プロテーゼが合わなかった」「自然な横顔が崩れてしまった」
そんなお悩みを抱える方に向けて、構造から整える新しい顎形成術『魔女顎手術』について詳しくお話しします。

目次

魔女顎とは?

魔女顎

魔女顎(まじょあご)」という言葉は、美容医療の専門用語ではなく、SNSや美容整形の口コミの中から自然と広まっていった通称です。
明確な定義があるわけではありませんが、共通して見られる特徴は、

  • 顎先が下方向に垂れているように見える
  • 横顔のEラインが崩れている
  • 二重顎のような印象を与える
  • 顎に丸みがなくなり、先細りして見える

といった、顎先の形状・位置・ボリューム感に関する変化です。

こうした変化は、実は加齢によるものだけではありません。
美容医療で行われるヒアルロン酸注入やプロテーゼ挿入によって起こることもあるのです。

患者さんの中には、「昔は顎がもう少し前に出ていたのに、最近なんとなく下がって見える」「笑うと顎が伸びて見える」と感じてご相談に来られる方もいます。
また、他院で顎プロテーゼやヒアルロン酸注入を受けた経験がある方ほど、魔女顎のリスクを抱えていることも少なくありません。


魔女顎が起こると何が問題?

魔女顎になると、以下のような見た目やバランスの問題が起こります。

  • Eライン(鼻先〜顎先のライン)が消える
     → 口元が前に出て見え、のっぺりとした印象になる
  • 顎先が垂れて、フェイスラインがぼやける
     → 二重顎のように見えたり、実年齢より老けて見える
  • 輪郭の「締まり」がなくなり、ぼんやりした印象に
     → 特に横顔や笑顔でその差が大きく出る

こうした変化に対し、メイクや姿勢でカバーしようとしても限界があり、
患者さんの多くは「なんとなく顔全体のバランスが悪くなった」と感じて来院されます。


魔女顎=“ただの垂れ”ではない

一見「皮膚がたるんだだけ」に見えるこの症状ですが、実際は顎先の骨格・軟部組織・注入物の影響が複雑に絡み合った結果です。
そのため、皮膚を引き締めるだけの治療や、再度ヒアルロン酸を入れるといった対症療法では根本解決にならないことが多いのです。

この章ではあえて“魔女顎”という俗称を使っていますが、
本質的には「顎先の構造バランスが崩れている状態」と捉えるべき症状です。

なぜ魔女顎になるのか?

魔女顎(まじょあご)は、見た目の印象としては「顎が下に伸びて垂れている」ように感じますが、
その原因はひとつではありません。多くの場合、以下のような複数の要因が組み合わさって魔女顎の状態が生じます。


一般的な魔女顎の原因

1. ヒアルロン酸の過剰注入・繰り返し注入

ヒアルロン酸は比較的安全で手軽な治療法として広く行われていますが、
頻繁に注入を繰り返すことで皮膚が伸びたり、組織が下に引っ張られてしまうことがあります。
また、注入する層が浅かったり、下方向に重さがかかる設計になっていた場合、
年々、顎先が垂れ下がるような変化をきたすことがあります。

2プロテーゼのズレ・抜去後の変形

顎のプロテーゼは、長期間体内に留まる異物です。
体質に合わない場合や、加齢とともに位置がズレたり、骨に圧迫を与え続けたりすることで、
骨の形が変形したり、抜去後に皮膚がたるんでしまうといった変化が起きることがあります。

3骨の吸収(骨吸収)

これは見逃されがちですが、実際に多くの症例で確認されています。
ヒアルロン酸やプロテーゼが長期間留まっていたり、慢性的な炎症が起こっていた場合、
顎の骨そのものが吸収されてしまう(=骨が溶ける)現象が起きることがあります。

4皮膚や筋肉の弛緩(加齢・支持組織のゆるみ)

加齢や表情筋のバランスの変化により、顎の皮膚や軟部組織が徐々に下がっていき、
顎先の“輪郭”がぼやけてしまうパターンもあります。


ヒアルロン酸で骨が溶けた顎先を肋軟骨で再建した症例

今回の患者様は、以前に顎プロテーゼを挿入されていましたが、感染リスクや異物感から抜去。
その後はヒアルロン酸による注入を繰り返していたものの、徐々に顎が伸びたように見え、横顔のバランスが崩れてきたと感じて来院されました。

ヒアルロン酸は安全な注入剤ですが、長期使用により皮膚や軟部組織に負担がかかり、骨への慢性的な圧が加わることで、
まれに骨吸収(骨が溶ける)が起こることがあります。

実際の術中では、顎先の骨がくぼみ、なだらかな輪郭が崩れている状態が明確に確認されました。
これは皮膚のたるみだけではなく、構造的な欠損が起きていたことを示す重要な所見です。

術中に確認された顎先の骨吸収

こうした場合、ヒアルロン酸や再びプロテーゼを入れるような「足し算」の治療では限界があります。
そこで今回選択したのが、自家肋軟骨による再建です。

肋軟骨の設計と挿入

肋軟骨は異物ではなく、感染リスクが低い安全な素材。
ブロック状に加工し、顎先の骨や凹みにぴったり合う形に整えて使用します。

顎の骨に合わせて、肋軟骨を作ります

肋軟骨は、顎の骨に合わせてひとつの塊からブロック状に形成されました。
高さ・角度・幅を細かく調整し、凹んだ骨のラインにぴったり沿うよう削られています。

このようにして、失われた骨の代わりとなる新たな“土台”を構築し、顎先を理想的な位置へと導く準備が整いました。

このように移植軟骨を顎先に入れます(横から)
このように移植軟骨を顎先に入れます(上から)

顎先の骨に合わせて加工した肋軟骨を、適切な位置に移植・固定しました。
これにより、失われていた骨格のボリュームが再構築されます。


骨膜上への固定とリフトアップ効果

単に軟骨を骨に乗せるだけでは、時間とともにズレや後戻りが起きやすくなります。
そのため、骨膜(骨を覆う強靭な膜)を軟骨とともに引き上げて縫合固定します。

この工程により、

  • 顎先がしっかりと支えられる
  • 下垂した軟部組織が自然にリフトされる
  • フェイスライン全体の“締まり感”が戻る

という多角的な効果が得られます。

移植軟骨を挿入し、骨膜ごと上方向に引き上げて固定した状態垂れ感が改善されました。

魔女顎形成では、垂れ下がった顎先を骨ごと支え直すことで、見た目と構造の両方を整えます。
今回の症例でも、術後には顎の位置が前方かつやや上方向に修正され、
Eラインが自然なラインへと改善されました。

顎先が持ち上がることで、顎下のたるみも軽減され、フェイスライン全体が引き締まった印象になります。
これは、骨膜ごと引き上げて固定する術式と、ブロック肋軟骨による安定した支えが組み合わさって生まれる効果です。

この治療の大きな特徴は、ヒアルロン酸のように“足す”のではなく、
骨や軟骨を使って“整える”という根本的なアプローチであること
一時的な変化ではなく、構造レベルでの長期的な改善を目的とした顎形成です。

今回の手術における肝となる操作をまとめた術中動画です。
移植軟骨の挿入方向や位置調整の流れが分かりやすく記録されています。

まとめ ─ 骨から整える魔女顎形成という選択肢

「顎が垂れてきた」「横顔が崩れてきた」といった悩みの背景には、
ヒアルロン酸やプロテーゼなど過去の治療による骨吸収や皮膚の下垂が隠れていることがあります。

今回ご紹介した症例のように、顎先の骨が溶けて凹んでしまった状態でも、
自家肋軟骨を使って土台から再建することで、Eラインの再構築やフェイスラインの引き締めが可能
になります。

魔女顎形成の本質は、“高さを足す”のではなく、構造から支え直すこと。
だからこそ、見た目だけでなく、長期的な安定性や自然さを重視したい方に向いています。


こんな方に向いています

  • ヒアルロン酸やプロテーゼで顎を整えてきたが、形が崩れてきた
  • 顎が垂れて見える、フェイスラインがぼやけてきた
  • 他院での施術後に満足できなかった
  • “骨レベル”で自然に整えたい

これまでの注入治療やプロテーゼで限界を感じていた方にも、
骨・軟骨を使った再建手術という新しい選択肢があることを知っていただけたら幸いです。

ご自身の状態に合わせた治療法を知りたい方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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